人機邂逅
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夜だ。昼はもうずっとずっと来てない。
空が閉じたのはなんでだろうか?
全てが終わったのはいつだろうか?
もうそれは、途方もなく前の事だ。
私にはそれについて知る由もなく。
私はただ、閉じた空を眺めてた。


壊れた世界の最後の砦、生存圏。3217年。
壊れた機械のこの世界で、唯一壊れていない植物達。そして、そんな植物達で形作られた、財団の、そして人類の最後の楽園。その1つ、アマゾンの「テラ・ヴェルデ」。

周りには常にインクリニティウムとかいうやべえ金属構造体が常にひっきりなしに変形する地獄。その外に出るだけでさえ命の保証は無いって言うのに……

「なんで私はまた、探植を担当してるんだか…てか財団、いくら私が優秀だからって、仕事投げすぎよ馬鹿」

私はハル。財団の…昔で言うとこのエージェントって仕事。今じゃ、単なる危ない事係って言ってもいいかもしれない。…そして、強がって自分が優秀とか言ってみたけど、実際は逆だ。優秀じゃないから、死ぬかもしれない外界の植物探し…探植に毎回駆り出されてる。いてもいなくてもどっちでもいい、そういう扱いをされてるのが私。

「…まぁでも、この子らよりマシか」

私は自分の手に持った鎌を見る。この鎌は「ガオゲレナ」って植物から出来ている。…ただ植物から出来てるだけならまぁいいんだけど、この植物は人を食べないと武器になれない。つまるところ、この武器は一人の人間の命がそのまま詰まってる。

…改めて考えると、ディストピア過ぎるわこの世界。しかも、探植に1人で行けってほんとに何よそれって感じだし。女の子を夜に1人で出歩かせるとか、財団どういう神経してんだか。…言うて、生存圏の外に昼なんてずっと来ないんだけど。空が閉じちゃってるし、どうにもならない。

「あーあ、ほんっともう…しかも植物ぜんっぜん見つからな…っとぉ!?」

あー、独り言で気づかれたわねこれ。…自分が優秀じゃないって言われたのもよく分かる。今襲ってきたこいつは…「夜」か。

本来は夜中に家出した人や徘徊する認知症の人を保護する目的で作られたんだっけ、こいつ。なんでこいつ、不審者排除に機能を特化させたんだよ。不審者…要するに、今では動くもの全て絶対殺すみたいなこのロボット、そこそこめんどいから……っ!

「君みたいなの、苦手なんだよねぇっ!て事で、失せろ!」

上から下に、鎌を瞬間、振り下ろす。

…と、良し。今回は1発で首をぶった切れた。

「あー、ほんっと冷や冷やするわ…」

と、この夜、なんか緑っぽいな。

「…あ、植物みっけ」

この植物、ミント系っぽいからあんまり進化してないな…まぁいい、植物は植物だ。ようやく帰れる。


「おかえり、ハル。んで成果は」

「第一声が毎回それなの、相変わらず酷くない?…はい、これよ」

この第7ゲートの門番は…腐れ縁のアキ。
とはいえ、生まれ育った区域が同じってだけで、そんな話してる訳でも無いんだけど。

「まーたハルは随分とちゃちい植物を…」

「これでもある程度命掛けてんのよ、また夜に襲われたし」

「まぁ、生きて帰ってくるだけでも御の字か。大抵見送った奴ら…帰ってすら来ないし」

「ついでに言うと、ガオゲレナも自動的にロストするしね…外に送られる奴ら、機動部隊枠を除いてだいたい使い道の無い奴らの処理で送られてるとこあるしね」

「まぁ、エージェント枠は植物見つけない限り帰って来れないって時点でね…とりあえず生きて帰ってきた事を祝して、夜はうちで焼売でも食べよ」

「ありゃ、て事は今中は昼?」

今ここはまぁ、鉄に鉄に鉄、みたいな感じで日光とか夢のまた夢みたいな感じで、普通に時間の感覚が消え去るんよね。

「そそ、なんならむっちゃ晴れてるから超明るいよ」

「ずっと日光浴びてないから、助かるわ〜…とりあえず帰ったら少し寝たい…」

レーベンスライムは、唯一空を持つ。つまるところ、日光を持ち、植物を育てるには最適だと言う事だ。その分、外の永い永い夜が色んな意味で応えるのだが。


焼売が美味い。

「…なんで生存圏って焼売が美味しいんだろね」

「それ生存圏関係ある?」

多分ない。

「…てか、最近死ぬほどここら辺夜出るんだけど、一体何」

「さぁ。どっかのバカがインクに喧嘩売ったってのは聞いてるけど」

「原因それじゃん…なんでほっときゃそんなそうそう攻撃してこないやつに手出すかなあそいつ。誰?」

インク、ほんとに''敵意さえ示さなければ''マジで何もしてこないのに…ほんと何してんだそいつ?

「いや、多分死んだんじゃん?未だに誰か判定してないし」

「インク自体でも大抵勝てないのに、そんでインクに夜とか呼ばれたら流石に勝てないわ…」

「まー、昔にインクで1つ大生存圏も堕ちてるしねえ。アラスカのティアズさ、この前やっと救助に行った機動部隊が帰還したけど、40人だったのが2人残してロスト。ついでに生存者ゼロだとさ」

ティアズ、かのGOCが作り上げたアラスカの過去最大の生存圏。それがたった一晩で落ちるとか、ほんと何があったんだ…?

「うへぇ、えぐ。原因は?」

「とりあえず確定はしてないから公的には不明。ただその生き残り2人によると内部から湧いた感じらしいよ。インクへの抗体作ろうとしてるとこから湧いたって話。」

「内部からって…怖。対策できなくない?」

「まぁ、危ないもんは連れて帰るなって話だね。そこも何だっけ、しんくりあってシステムコードだっけを持ち帰ってそんな事になったみたいだし。ハルも夜とか持って帰ってこないでね?」

「いや、あんなん誰が持ち帰るよ…」

「なんか日本の方からもかなり強い救難信号が出たみたいだし、最近はほんとどこもおっかないよ」

「日本…え、生存圏とかあったのあそこ」

「登録上は屋久島と国後にカスみたいなのがいるけど、そんなのが地球の裏まで届く電波出せるかって言われればNOだわ」

つーか、その屋久島と国後も登録要件満たしてるかギリッギリの怪しい所だし、実質皆無な気もするんよね。

「不気味すぎるわ」

「あ、ついでにまたお仕事再依頼されてるよん、流石に持ち帰ってきた植物がショボ過ぎるってさ」

「えぇ…めんどくさい…」

とは言え、行かなきゃ特別労働?だっけに配属されるから行かないって選択肢はないんだけど。

「まぁ、今日はここでゆっくり寝て明日の朝くらいに行きな」

「うん、そーする…」


…で、今回はちょっと遠出して生存圏外郭まで。1人で。植物対機械の最前線で、ここはミノタウロスよりもおっかない大型機械がわんさか出る。その分植物に侵食されてるのも結構いる。ここはハイリスクハイリターンなのだ。そいつらから植物を持って帰れば、まあノルマはクリアっしょ……と、来てみたはいいものの、植物よりもなんか不思議なの見つけたんだけど。

「…なにこれ?…いや、何この子?」

なんか額に不思議な記号…マーク?入った女の子がそこに座って…寝てるのかなこれ?死んでる?

いや、下手に触れない方が良いのは分かってるけど…昨日の夜見たく、もしかしてこの子に植物生えてたり…しないかな。

「と、ちょっとごめんね…どかすよ?」

「…」

え、何この子むっちゃ硬いんだけど…夜のバージョン違いとかじゃないよね?

「…動かないね、ダメだ」

「…有機体を確認しました。権限情報を認証します。」

え、なんか喋ったよこの子?

「え、え、権限って何、怖い」

「…認証完了。初期セキュリティプロテクト解除。スリープモードを終了し、起動します。自己診断プログラム実行。製造年及び購入年より約395年が経過している事をSLSより確認。その他の通信は全てエラーとなっています。通信環境を確認します…エラー。状況の特異度を考え、対象を特例的にマスターとして認識します」

「え、え、どういうこと…」

「…はじめまして、マスター?」

…むっちゃ綺麗な翡翠色の瞳してるわね、この子。というか、傍から見たらすっごい可愛いただの人間なんだけど…マスター?

「いや、え、マスター?…いやそんな、委員会の人間じゃないんだから…」

「では、希望する呼称はありますか?」

「こしょうって、君ねえ…てか普通に喋ってるけど、君何?夜?」

「夜…?夜は日没から日の出までの時間のことです。それは私の存在を記述するにはふさわしく無いと思われます」

「あーいや、そうなんだけどね…夜にしか動かないおっかないロボットがいんのよ、それを夜って言ってんの」

「…それは今、マスターの背後にいる機械の事でしょうか?」

「えっ」

あぁ、後ろにほんとになんかいるわ、というか夜だわこいつ。てかもう攻撃モーションじゃん、回避が間に合わー

「…ニュートラライズ、実行します」

…今、何が起きた?夜が、ショートした?
この子が軽く手を突いただけで?

「…どうやら、マスターの呼ぶ夜は徘徊者保護目的で作られたロボットみたいですね。」

「いや、え?…何?てか何したの?」

「回答します。機構の読み込みと機動部を融解させて無力化しました。補足としてこの子、一応ちゃんとした名前はありますよ。型番は…WAGM‐095…ですね。いやでも、なんでしょうね、これ…むっちゃ自分勝手にアップデートが繰り返されてて、元のシステムの跡形がほとんど無いです」

「…あー…聞いても何もわかんない。輪ゴム?いやまぁ、でもアップデートはそりゃそうよ。リブレイクってのが起きてから機械どもはみんなそんなんよ…ってそうだ!あんたも機械っぽいし得体がしれないんだったわ、あんた何者よ?」

てか、マジだ。夜の駆動部が溶解してるんだけど、こっわ。…あ、壊れた。こんなあっさり夜ってぶっ壊れるもん?

「…えーと、ざっと200年くらい前に開発された人型の機械、って言えば伝わりますかね。」

「やっぱ機械なんじゃん…見た目的には普通にそこら辺にいる女の子みたいなのに。えぇ、怖いからちょっと話せる子だし申し訳ないけど…壊させてもらっていい?」

「いや、まぁそれは購入者の趣味でアルベルタさんが私の造形モデルになってますし…。…私を壊すんですか?」

正直、夜をあんな簡単にぶっ壊した子に勝てる気はしないけど…まぁやるだけやるしかないよね。って、アルベルタ?

「…そんな事せずともマスターであれば「delete」の命令を私に下されば私は勝手に壊れますが…その選択は推奨されませんよ?」

え、そんな命令あるの?

「ちょっと待って、アルベルタ?リブレイクの元凶の1人じゃない?その人…なんでさっきまで寝てた子がそんな色々知ってるの?と言うかそれは置いといて、なら今すぐその命令をさせてもらいたいんだけど」

「200年前の出来事はある程度自分の中に最初からインストールされてますし、何が起こったかもSLSから送信されてる情報から多少は理解できますので。…えーと、今、ここの周り…半径1kmにどんくらいあなたの言う夜がいるか分かります?」

「なんか、機械ってほんと凄いのね…んで、分かんないわよ。せいぜい10とか20でしょ。」

「3452機です」

「さんぜっー」

いや、発音が難しくてつまったわけじゃないから。遭遇したことのない概念だったんだろうかとかそんなことはないから不憫なものを見る目でこっちを見るな。

「いや、その数字を聞きたくないだけだから」

「思ったより知能高めで安心です。そして伝える機会が無かったため言ってませんでしたが補足です。何があったのか知りませんが、日本方面から非常に強い信号が出てました。私含めて機械の彼らはそれでいったんフリーズしたんですが……あー、心臓止められたような感覚だったしバチバチにキレてますね。日本の方へみんな向かってます。ここはどうやらその通り道になったみたいです」

ちょっと待って、日本の信号って…昨日アキと話した奴じゃん。

「いや、ちょっと待って?理不尽すぎない?」

「予測では5分後にもうここに来ますよ」

「いや待て待て待て」

「…提案です。私はあなたにとって有用なのは先程見せた通りですし、どこに何がいるのかも私ならある程度分かります…本当に、私に壊れろと命令しますか?計算では95%以上マスターは死にますよ?」

「あー…もう、はい、分かりました」

いきなり絶望を突きつけられた感じで、何もわかんないんだけど…仮にこの子が言ってることが本当なら、一体でもそこそこきつい夜が3000体も来るって事?

「…んじゃ、どうにかする手段あるの?」

「71通りは既に」

まぁ、信号の事もなんか知ってるみたいだしどっちみち詰んでるか、この子がマジで私を殺そうとしたら多分適わないし。

「なら上出来、壊すのは後にしたげる、とりあえず私を逃がして」

「orderを確認しました、マスター。実行しますね。こっちです」

「りょーかい」


まーじで死ぬ程いるわね、夜。ちらっと下を通ってるのが見えたけど、ありゃこの世の地獄だわ。救難信号の後に、あんなんが来る日本…ほんとご愁傷さまって感じ。

「…まじじゃん、死ぬ程いるじゃん」

「いや、信じてないんだろうなー、とは思ってましたがそこまでハッキリ言わないでください、傷つきます」

「分かってるなら良いでしょ…んで、この後どうしますか、植物探すどころじゃ無いわこりゃ」

「とりあえず暫くは自活しましょうか、マスター」

「まぁ、それしかないよねぇ…ずっと夜のここでサバイバルするのきっついわ…」

「…夜って名称が同時にふたつの概念に使われてるの、聞いてて混乱します」

「まぁ私もたまに混乱するわ、言うてずっとそう呼んでるみたいだし、どうにもできないかなぁ」

てか、すっごく疲れたわ…ほんとどうやって生活しようか。

「おーう、何やってん?そこのお二人さん」

…なんだ今の野太い声は。

「女の子2人か?そんな中夜出歩くなんてあぶねえな〜」

「マスター、誰ですかこの人」

「私も知らんわ。…あなた、誰?」

「あー、俺は小生存圏の1つのバルセキシュアを管理してる、オールドって言うもんや」

バルセキシュア…あぁ、リブレイク前にアトラスタに日本の次にメタメタに潰された国か。まだ生き残ってたのね。

「…財団にはそんな生存圏の情報、登録されてないけど」

「そりゃあなぁ、俺達の国は小さいからな、仕方あらへん」

「…てか、方言にしろもうちょい極めなよ、なんかイラつくわ」

「おぉ、手厳しい…そんなピリピリせんとってな、何かあったんか?」

「あー、そこの毛髪0%の男性さん、下を見てください。下」

「あ?…そこの長髪、さっきオールドって名は名乗ったろ、ちゃんと名で呼べい。…んで、なるほどなぁ。あんなぎょーさんおったらそりゃどうにもならんわな」

…そういや、この子の名前私聞いてないかも、このハゲの名前はどうでもいいけど。

「…バルセキシュアねえ、あの国、既に何百年も前に国を国たらしめる構成要件から外れてるから、とっくにただの歴史の教科書の1ページになったものかと思ってたわ。んで、そんな国の人が私らに何の用よ」

こういう時、大抵ろくでもない提案を女は受けやすい。例えば…「性行為の代わりに食糧を渡してやる」とか、そんなんだ。基本的に、こういう手合いには関わらない方が吉ってのはアキから習った。ヤり捨てされた挙句、食料すら貰えないとかそんなんばっかりらしいし。てかそもそも、ヤってる間が危ないしね。

「…財団のパシリに用なんぞあらへんよ、体には興味あるがな。こっちが用あるのはそっちの…長髪の機械や」

…いちいち癪に障るわね、こいつ。

「…拒否します。貴殿は適格ユーザーではありません」

「本来お前はうちの生存圏に入荷されるはずの機械やろ、なんでそんなとこおんねんお前」

「…自己判断ですよ、そしてそもそも、正規の購入手続も踏んでいないのに偉そうにしないで下さい」

「あぁ!?今、お前の言う正規の購入手続やら譲渡手続なんか、ザネットが馬鹿になってる今無理に決まってんやろが!?」

「この状況の今、私は私の判断でマスターを決めます。そしてそれは、バルセキシュアの皆様ではありません」

「あーあー…調子乗ってくれよって…ならしゃーないわ、力尽くや。あんた人には攻撃できんリミットかけられてるやろうしな」

…あれは、EMPか。インクには効かないから、夜用か。とは言え、この子にとっちゃ驚異になり得るか。…あれかなり値段高いから、ほんとに機動部隊の緊急用みたいな感じだけど。てかどこで作ってんだろ、あれ。

「…なんですか、その怖い箱」

まぁ、なんか分かったけどなんかこいつなかなかに訳ありなのね。ほんとに人に攻撃できないっぽいし。…ならまぁ、仕方ない、訳あり同士の縁だ、助けてやるか。1度助けて貰ったしね。

「なーんか、大の男が小さな女の子にそんな態度なの見てらんないわ…って事でさ、悪いけど死んでくれる?食料も無いんだわ、うちら」

1に踏み込み、2に鎌を抜き、3に首を…

卸す。

「えっ!?」

さっき夜に似た様な事してたろうに。なんでこの子はびびってんだか。

「規則の…何条だっけな?まぁ、登録もされてない生存圏が資源とか持ってても無駄なのよ、ならうちらが有効に使ってやるよ…って規則がある訳で、もう死んでるだろうけど諦めてね?」

…ん、こいつ食糧も結構持ってるけど、なんか小瓶持ってるな?

「…ガオゲレナの自律改良された新種か。これ、思った以上に収穫大きいかな?」

「…なんかもう、色々予想外すぎますがとりあえず暫くは凌げそうですね、マスター」

なんかもう、ここまで来ちゃった以上ある程度この子になんか親近感みたいなの湧いてきたわ、なんでだろ。


「…とは、言ってもねえ。多分うちの生存圏はもう受け入れしてくれないわね、これ」

「どうしてです?」

「機械禁止なの、うちの生存圏」

「あー…確かに私いたら無理ですね」

まぁとりあえず、一回戻って登録取り消しして貰わないとね。


「え!?こんな…ガオゲレナの新種とか大層な物持って帰ってきたと思ったら…こっから出る!?なんで!?」

「あー…アキは気づいてないか。横の子、機械なのよ」

「…え、マジ?長髪ちゃん、マジ!?うっそ、人間にしか見えない…」

正直、私も未だにこの子の事人間にしか見えないんよね…というか、そこら辺の人間よりなんなら人間さがある。

「マジですよ、マスターのお友達さん」

「…マジかー…いやまぁ、委員会どもは許さないかもだけどさ…私んちで匿うくらいはできるよ?確かに機械はおっかないけど、ハルいなくなるとちょっと寂しいしさ」

「バレたらアキが1番やばくなるでしょうが、ついでにこの子も死んじゃうし…ここの機械嫌いの半端なさ知ってるでしょ?ティアズの件もあるし」

「いや、まぁそうだけど…んじゃハルは出てどうすんのさ」

まぁ、どうにかしてどっか小さな生存圏に移住するしか無いんよね…

「さぁ、どうにかなるでしょ」

「いやいやいや、それこそ死んじゃうって…私はハルに生きててほしいわ。…その子にそんな肩入れしてる理由って何よ?」

「割とガチ目の命の恩人なのと、この子もなんか訳アリっぽくてさ、なんかほっとけないのよ」

「ハルのなんか、で起こす行動力が毎回の事だけど…なんかもうすごいわ。てか、機械が人助けるとか聞いた事ないわ…上も多分信じなさそう」

「でしょ?」

「あー、ほんっと馬鹿…とはいえ、機械なんてここに引き連れたらロクな事にならないのは確かに同意。…んじゃまぁ、そんなハルに餞別をくれてやろう。ちょっと待ってな」

んー…アキには悪い事しちゃったなぁ。流石に色々いきなり過ぎるわ、自分で考えても。

「はい、これ。今すぐ飲め」

「…何これ?…薬?」

薬にしては、なんか不思議な形してるわね…なんかすごく小さい鎖みたいな。

「一時的な長期探索って事にしてやる、なんかあったらすぐ戻れ。んで、その薬はそれを証明する遺伝子を体に巡らせる絶対に無くさない鍵みたいなもんよ」

「あっはは、凄いのもあるもんね、んじゃまぁ遠慮なく、飲んでおきますよ」

「ほんと…死ぬなよ?」

「ありがと、アキ」

ほんっと、いい腐れ縁に恵まれたもんね、私も。


離れて分かるけど、ほんっと改めててあの生存圏でっかいわね…やばいわ。

「まぁ、暫く歩きますか。」

「そうですね、マスター」

「…そういや、そのマスターって呼び方慣れないわね。前の希望する呼称…だっけに答えてあげる、私はハル…君は?」

「私は…ニーナ。…と購入主は設定してました」

ニーナ…スペイン語で小さな女の子か。確かにこの子、小柄だしそれっぽいわね。…なんか可愛い。

「それにしても、ハル……素敵な名前です」

「ニーナの意味は小さな女の子か。あなたにぴったりって感じだわ」

「えへへ、そうでしょ?」

「さてと…行くよ、ニーナ」

「分かりました、ハル」

さて、道のりは長いけどとりあえず進みますか。…とりあえず、どこに行こうか。


「…てかさ、ニーナ」

「どうしました?」

「具体的に、200年前って何があったのよ。習った事と言えばアルベルタ、イサナギ、イザベラの3人の家族がインクぶちまけて世界を壊した…くらいしか、正直覚えてないんよね。」

「…話すと、むちゃくちゃに長くなりますよ?そのは。」

「んじゃ、簡単に」

長いのは知ってる、というか歴史の授業でだいたい今の現状になってる理由は習うのよね。全12回。…言うて、授業なんて受けてる人間ほとんどいないし、自分もその1人だけど。

「…まぁ、できるだけ簡潔に話しますよ。…歩きながらいきましょう。」

「あいよ」

「まず始まりは、大黒工業という1つの会社です。とは言え、ここはとある大国の傀儡に過ぎませんでしたが。彼らは倫理を踏みにじり、人間を機械へと変える術を見つけました」

「初っ端からすっごいの来るわね…んで、その術が、あれか…」

「簡単に言うと、魂のデータ化です」

「…やっぱ改めて聞くと、やばいな」

魂のデータ化。そのデータはニューロデータって言うんだっけ。…こんなもんを最初に考えた大黒工業、なんかやっぱどっかイカれてるわ。

「…まぁ、当然これは最初は実用化しませんでした、というか無理でした。色んな面でハードルが死ぬ程高すぎたんです」

「いや、まぁそりゃそうよね…でも、その後実用化すると」

「しますね」

「やばいわ…」

「さて、その実用化はなんやかんやあって成功します」

「待て、その何やかんやって何」

「そこら辺は話すと超長くなりますよ、ちなみにこの後もこんな感じの略し方多いので諦めてください」

「あー…まぁなら今回は許そう」

長い話は眠くなる。しゃーない。

「さて、魂のデータ化が出来ます。つまり、魂を機械に入れる事が出来るようになります」

「まぁ、そこら辺は何となくわかる」

「結果、色々あって魂データ化して機械にならないと人間扱いされない社会になりました」

「いやいやいやいや、え?一文で矛盾作るのやめて?」

「…流石に端折り過ぎました。その時、社会は出生率の異常な低下とか高度化する社会で、人間の体そのままではちょっと対処が厳しくなり始めてたんですよね」

「…あー」

「さて、結果的に機械になる方法…義体化、或いはニューロアークって呼ばれる技術は社会の救世主となりました。ちなみに、私の体もちゃんとその為にチューニングすれば、人間の魂のデータを突っ込んでも動きます。今は人工知能の私がそのまま入ってますけど」

「…マジか」

「ここまでは良かったんです。…でも、今度は義体化しない人は社会にとって悪影響って事を言い出す人が出てきちゃって」

「…なんかその話聞き覚えあるわ、義体化恐怖症とか、そこら辺」

「ですね、ちょうどそこら辺です」

「さて、その義体化恐怖症…要するに、自分の体を捨てるのが怖いって感情ですね。これは当時の社会では非常に異端視されてました」

「…そんな別に、おかしい感情でもない気がするんだけどねぇ、それ」

「まぁ、社会の変容で人は簡単に変わるんですよ。今人々が機械を嫌うのも…リブレイクがあるからこそです。」

…確かに、それらが社会に害を与えるとなれば人々は一気に掌を返す。この、周りに機械しかいない世界と、生存圏の有機物しかない世界、どちらも余りにも歪ではある。

「まぁ、社会…だからこそなのかな」

「話を戻しますよ。この感情…当時で言えば病…これ、まさかのニューロアークを実用化させた立役者の一人であるアトラスタのトップが持ってたんですよ」

「…アルベルタと、イザベラね」

「です。そして結果的にそういう義体化しなきゃダメだって正義感を持った人達…と、それを掌で転がす悪い人達に殺されちゃいます」

「マジかー…え、てか死んでるの?不死身じゃなかったっけ、その2人も」

「いや、今はもうイサナギさん含めて3人とも不死身です。本人ですら死ぬ事は出来ません。…そしたらイサナギさんがブチ切れました。…何したと思います?」

「…世界をぶち壊した?」

「それはもうちょっと後です」

「…んじゃあ、何よ」

「なんで死んだ2人が今生きてるって認識になってるのか、分かります?」

「あー…そゆことね、2人を蘇生したのか」

「当たりです。補足としては、その蘇生の影響で社会基盤が1回ぶっ壊れて死ぬ程自殺者が出ました。ついでに2人が不死性を付与されたのもその時っぽいです。ついでに2人は無病息災で不老ですが、これはあくまで副産物みたいなもんですね」

確か、蘇生する為に色んな機械を演算機に転用してたらその機械が諸々ぶっ壊れた、みたいな話だったわね…普通に考えると傍迷惑すぎる。

「何がどうなってんの、ほんとにって感じ。それが確かブレイクってインシデントか」

「んで、さらにその後もイサナギさんに苦難が死ぬ程やってきます。簡単に言うと2人を蘇生した後また2人が殺されかけました。しかもとびきり苦しくなるような方法で」

「ほんと、さらっと蘇生とか不死とか出てくるあたりやっぱイサナギ訳わかんなすぎる…そしてそれに喧嘩売る人類も凄いわ」

どっちもなんかイカれてる気がする。

「まぁ、不死はともかくとして蘇生に関しては当時でも未知の技術だったらしいですけどね」

「不死も充分訳わかんないわよ」

「魂をデータ化して、バックアップをちゃんと取ってれば結構それに近いですし…当の3人の不死は全く違う機序で成立してますが」

「…まぁ、生身で不死身ってのは聞いてるけど」

「まぁ、量子力学、生理学、物理学、あらゆる面で死を徹底的に拒絶してるんですよ、あの3人。あんな事、あの3人以外では誰一人不可能です。…話を戻しましょう。結果的に、イサナギは更にブチ切れて2人が安心して過ごせる世界の為にインクで世界を塗り潰しました…これが、リブレイクです」

「いや、巻き込み事故が多すぎるんだよな…もうちょいなんか無かったの」

「本人にとっては無かったんだと思いますよ」

「なんか、そう聞くとその3人も被害者っぽいわね…」

「いや、明確に加害者ですよ。…被害者と加害者の立ち位置で論ずる事すら少しズレてますが、あの3人は自分達が悪だと理解してここまでの行動を起こしたのは財団やらなんやらの捜索から理解はできます」

「…え、てかニーナって財団のデータベースにもアクセスできるの?怖い」

「いや、そもそも001提言が全てに対して公開されてますし…」

「あー、そういやそうだったわ…後世へ伝える為だとかで、超異例だけど」

改めて考えると、ほんっとやばい話だな。
リブレイク…世界の全てが何もかも変わった契機。

「んで、そっから世界をどうにかしようとしてるのが今の生き残りと」

「まぁ、ハルのいた財団含めてそうですね。世界を何とか建て直そう、そう足掻いてるのが今です」

「ほんっと、スケールのデカすぎる話だわ…」

「まぁでも、私はこういうの好きですよ」

「…まぁなら、いっちょ2人で目指してみる?世界の再建」

「…ふふっ、良いですね、それも」


死ぬ程歩いてるぞ、まだ見つからんのか生存圏。

「なかなか歩きましたね、ハル?」

「さっすが機械…疲れた様子ひとつ見せないとはね…ニーナ凄いわ」

「…さて、お望みの生存圏、やっと1つ見えてきましたよ?」

「…マジだ」

植物の芽みたいだな、あれ。
全体的にレーベンスラウムって緑色だから余計にそう見える。

「…とりあえず、まずは交渉だな」

「ですね、ハル」


…結構でかいな、ここ。フィルディアノって生存圏らしい。名前で聞いた事はおるが、こんな……変わり映えしないダウナー生存圏だったとは。せっかくデカいのにもったいない。

「…おぉ。ようこそ、来客者よ。あんたらは何者だい?」

…むっちゃ老けてるわね。多分、ここの1番上の人かな。

「…と、どうも。私はハル、財団のエージェントです。横のは機械のニーナ。」

「機械とはまたこりゃ珍しい、ほんと…人間にしか見えねぇな」

「…まぁ、こんななりして機械なんです。だから自分からテラヴェルデを出てきたのですが…単刀直入で申し訳ないのですが、ここで受け入れて貰えないでしょうか」

「…そういう事かい。まぁ、何も無いがゆっくりしてきな。ここは年がら年中人手不足でね。働きさえすりゃ機械だろうが構わんよ。ここは食い扶持はちゃんとあるが、その分働いてもらうからな?」

…と、最初は断られると思ったのに、嫌にあっさりね。

「…そのご厚意に感謝します。精一杯働かせて頂きます」

「結構。あぁ、私はこのフィルディアノを管轄してるカワリメっつうもんだ、なんかあったら調整役の横にいるトウジに聞け」

…トウジ、横にいる目隠れの男か。

「…よろしく。トウジだ」

「…よろしく、私はハル」

「私はニーナ」

「…まずは空き部屋に案内する。そこが君達の部屋だ」


「…なんか、思った以上にあっさり受け入れてくれたわね?ニーナ、どう思う?」

「…まぁ、どこも人手が足りてないらしいですからね」

「確かにここも人手不足とは言ってたけど、ここまで?」

確かに、ここもやたらと人が少ない。今日ちゃんと話したの、カワリメとトウジだけだぞ。

「確か地球の総人口3000万人切ってるはずですし、不足も不足、大不足です」

…そんな人間少ないとは思ってなかったわ。改めて考えると、ほんっと改めてこの世界崖っぷちすぎるわ。

「…仕事、明日からか。何任されるんだろね」

「…さぁ、そんなにハードじゃないのならば大歓迎なのですが」

「ニーナは機械だし、まぁある程度は行けるっしょ…問題は私よ」

「ハルも人間にしては馬鹿みたいに頑丈だと思いますので、心配してませんよ」

「まさかニーナにそれ言われるとは」

割とショック。

「…まぁ、とりあえず今日は寝ましょう、ハル」

ふわっふわのベット、なんだかんだすっごい久々なのよね。

「…だねぇ、やっと安心して寝れる」

「…私もちょっと自己診断したいです…」

「まぁ、お互い疲れてるし、今日は寝ようか、おやすみなさい」

「おやすみなさい」


ふっつーに朝が来たわね。てっきり寝込みを色んな意味で襲われるくらいは覚悟してたのに。

「…何考えてるんです、ハル」

「…いや、正直あのトウジとかいう男に夜這いかけられるくらいは覚悟してたから…」

「…私は嫌ですが?そういうの…バルセキシュアでそれ目的に買われたっぽかったから逃げたんですし」

「…あー…そりゃまぁ、逃げるわ」

…言っちゃあれだけど、機械でもできるのね、そういう事。そっちの方がちょっと驚き。

「…まぁ、私の体自体が妊娠するために作られた側面もありますし、仕方ないんですが」

「あー…そっか、200年前ってそんな感じか」

出産率の低下。それが義体の1つの作られた理由。考えてみれば、義体のニーナがそういう機能を持ち、それに特化してるのも当たり前だ。極端に優れた容姿で製造されてるのも、「購入者の趣味」って所からも、恐らくセックスアンドロイド的な側面も多分に含むんだろう。…自分の意識があると考えると、そういう目的で生まれたのが確定してるのは地獄だな。

「まぁ、そういうのって好きな人としたいもんね」

「好きな人、ですかぁ」

「…いたりする?…なわけないか、最近起きたばっかだしね」

「…んー…まぁ、強いて言うならハルですね」

「…おぉいマジか」

この返答、期待してなかった訳じゃないけど、こう言われると割と結構ドキドキするな。

「さて、なんか色々好き勝手言ってるみたいだが…仕事だ」

…噂をすればって奴だ、いつからそこにいたトウジよ。

「最初からだこのダボ。とりあえず今日は植物壁の点検と修繕。やり方は俺が教える、ついてこい」

心を読むな。

「…はいはい、連れてってくださいな」


いやいや、なにこれ、超ハード過ぎるんだけど…!

「なんなんこの植物…むっちゃ重いんだけど…」

「あー、それ?筍だよ筍。ただし成長すると一気に炭素濃度変わって超硬質化する。んで重いのは、密度が死ぬ程高いからだな、成長を早めるためらしい。3日で育ちきるぞ、それ」

いや、壁が何となく竹林っぽいなあとは思ってたけど、そういう事か…!

「3日!?いや、だからといってこれは重すぎ…」

「ハル、泣き言はだめですよ、この程度でへばるんですか?」

「私が1つで疲れ果ててるのにニーナは3つも4つも持つの嫌味か何か…?」

「うん、流石にそれは俺も嫌味だと思うわ…」

…てか、改めて考えると植物ホントすごいわね、むちゃくちゃな進化遂げてる。人類の知恵…ってやつなのかな。

「この植物、だいたい修正からの輸入品なんだけどな、こういうの作れるの、あの人らしかいないから」

「その人たちすっごいわ…」

「まぁ、リブレイク前からアトラスタとずっとやり合ってたって話だからな。…テラヴェルデやら緑神もそいつらの支援が無けりゃ造れなかったって話だしな」

「なんか、英雄じみてるわねえ」

「…まぁでも、その人らってリブレイク以前はむしろテロリスト集団みたいなイメージだったらしいですよ」

「マジか、意外」

「…よーするに、印象なんて時代でどうとでも変わるってこった」


「…あー、ここに来てから2週かそこら?経ったけどすっごい疲れたかも…」

「おつかれさまです、ハル」

なんか、まじで色んなことやってる気がする。これ、なんなら前の方が楽だったんじゃ…危ない外に行かなくていいのは楽だけど。

「あー…むっちゃ、疲れた」

「おつかれさまです、ハル」

「とりあえず、今日の仕事は終わりか…ニーナもお疲れ」

「まぁ、不死はともかくとして蘇生に関しては当時でも未知の技術だったらしいですけどね」

「…え?」

え、なんだ?

「…夜って名称が同時にふたつの概念に使われてるの、聞いてて混乱します」

「ちょ、ニーナ?何言って」

これ、私との過去の会話がリピートされてる?いやでも、なんで?

「いや、信じてないんだろうなー、とは思ってましたがそこまでハッキリ言わないでください、傷つきます」

いや、なんで、これ、まさか

「へぇ、やっぱ効くんだね、EMP」

…あぁ、やっぱ違和感あったら最初からぶった切っとくべきだったわ。

「…何したの、カワリメ」

「ねぇ、お嬢さんら…私たちが本当に、善意でお前らみたいなのを受け入れると思う?」

「…無いね、最初っから少し怪しいと思ってたわよ」

「なら、それを感じといて何も対応しなかったのがお前の落ち度だ、落ちこぼれ」

「…とりあえず、あなたの首は落とす」

静かに鎌を持ち、脚に力を溜めて、瞬発。5mはあった間を詰め、すぐさま懐に潜り込む。ジジイは何も反応しない。やった、今すぐその首落として草の養分になるんだな!と、身体を左にひねって下段から鎌を振り上げる……それと同時に、腹に衝撃を受けて対角の壁にたたきつけられた。

「……ぁ……ぐ」

「ここも立派に生存圏だ、個人でどうにかできるものだとでも?」

ぞろぞろと出てきたのは外套に身を包んだ180㎝ほどの人型が6体。頭は機械のそれと同じだ。

「アンタらも機械使ってんじゃねえかよ……」

「我々はただ知らせただけだ。こやつらは勝手に私を守り、勝手に君らを処分しに来たんだよ」

「……知らせる?誰に?生存圏で機械を御しうる場所なんて存在しない、仮にあるなら……あ」

と、そこで思い至る。あー、そういう事か。私が飲まされた薬、鍵でもなんでもなくて、ただの追跡機か。しかも、20人以上はいるな。

「…アキもそっち側だったか、くそッ、みんなして汚いな……!」

「そうだ、機械は我々の下にいる者。適切に使ってやれば、このように従順な犬になれる。逆を言えば、機械は決して我々と並ぶ友ではないということ。それを理解しない愚か者に、それは過ぎた道具だよ」

「…ほんっと、自分って馬鹿だわ。んで、わざわざここまでした目的は何なの」

「何、単純に金と人が欲しいだけだ。ここは人もいないし資材もない、もうじき終わる。せいぜい使い物になるのはトウジくらいだったが、賢くない人間は機械以下だということを最後まで理解しなかったようだ」

あぁ、トウジはこんな本末転倒モーロクジジイに最期まで……そう考えると、カチンときた。

「アンタ、どこまでもしみったれたクソジジイね」

「何、生存圏の利益にならん人間なぞいらん」

「とっとと代変わりした方が良かったのよ、そっちの方が人も増えるし利益になる気がするわ?それに人一人機械一体相手にここまで念入りに殺しに来るとか手段が非効率的すぎない?とっとと寝込み襲えばよかったのに、やっぱ定年って必要ね」

「それは横の機械が目的だ。そいつの体は有機体で構成された女だ、特別労働にはうってつけだろうな」

「特別労働…あぁ、ぼかしてるけど結局は春を売るやつじゃん」

「何、ただの性処理じゃない。お前の持つその武器の材料作りも兼ねている」

「ゲオガレナ、やっぱこの子…希望式じゃなくて、そういう奴か」

「いいや?希望したんだ。それは紛れもない。覚えておくといい、自分から進んで命を捧げる殉教者もいる。その機械も、殉教の旅路に立たせてやる」

「……それは、真に自由の中で希望したのか?ンなわけねえだろクソッたれ……!ますますニーナをそんな目に合わせるわけにはいかなくなってきた……」

鎌を杖代わりに、痛むみぞおちを抑えて立ち上がる。ジジイは私を嗤い、唾を吐き捨てる。

「機械ごときに同情か、落ちこぼれ」

まぁ、正直勝てる気はしないけど…しゃーないか。


「あー…やっぱ、強いわ機動部隊…」

結論、非殺傷武器で死ぬほど痛めつけられた。ほんっと、全然手も足も出ないわ、何こいつら。

「そのニーナだかも全て対応が演算され、相手が1番喜ぶように反応する様にプログラムされたシステムだ。それは人間ではない、ただの機械なんだよ」

「…確かに機械かもしれない、でも私にとっては話し相手だ、大切だ」

「そうか、それは君の感情も機械に左右される程度の安いもんだってことの証拠だ。そうそう、君は最初に言っていたな、登録もされてない生存圏が資源とか持ってても無駄、ならうちらが有効に使ってやるよ…って規則があると」

あー…まさか、あそこで言った言葉が自分に返ってくるとはねえ、自業自得っちゃ自業自得か。

「まぁ…なら力ずくで抵抗するだけだ」

「できるならしてみるがいい、その機械が壊れた今、お前にできることなぞ何も無い。財団の機動部隊に勝てるとはお前も思ってないだろう?」

「あぁ、思ってないともさ……でも!あたしは無抵抗でやられるクソッたれだけにはならないって決めてるんだ!」


瞬間、いるはずのない存在が目の前に立っていた。
人だ。しかも…何一つ武装もしてない、ただの可愛らしい女の子。

「…こんばんは、ごきげんいかが?…うん、やっぱ口上とか思いつかないわ、私はお嬢様か!威勢のいい啖呵に釣られてみれば、なーんか修羅場だし」

「っ誰だお前っ!」

「あっはは、そんな小銭程度で財団に尻尾を振るクソジジイ、尻向ける相手間違ってるわよ」

ただ、ひとつ違うのはインクを自在に操って…私の眼前の機動部隊を含めた、何もかもを一瞬で殲滅した事くらい。

「…何よ、そんな見つめて」

見つめすぎた。いや、イレギュラーでしかないこの状況で得体の知れない相手から目を離す訳にもいかないんだけど。え、てか喋った?てかなんだこれ、すっごいデジャブじゃない?

「…まぁ、そりゃそうよね。本来こんな、周りに鉄しか無い所で私みたいな存在とか、むちゃくちゃ珍しいでしょうし」

心を読まれた。

「横の子、それアンドロイド?…なんかうちのお母さんに似ててちょっと不思議な感じするわ。まぁうちのお母さんの方が美人だけど。多分…額のロゴ的に神々廻のパペッティアシリーズに神々廻のReverseBrainって感じかな?ずいぶん古い子連れてるのね」

え、シシバとかリバ…何?訳の分からない単語がむちゃくちゃ出てきて訳分かんないんだけど。てかお母さん…?

「なーんか、随分とぼろっぼろなお2人さんね。アンドロイドの子に至っては喋れなくなっちゃってる。いや、原因多分うちらのこれなんだろうけどさ…」

いやいやいや、うちらって何?インクのこと指さしてこれって言った?てことはザネット?

「なんか、ほんとに混乱してるのね…てか、さっきから口開きっぱなしで人間の方のあなたも喋れてないわよ。…あぁ、私はザネットじゃないわ、ただの人間。名前はイザベラ。」

イザベラ…てことは…この子、イサナギとアルベルタの娘?てか、不死ってホントだったんだ…

「いや、イザベラって事は…ぜんっぜんただの人間じゃないじゃん。不死身じゃん」

「あ、喋った。というより私の事知ってるのね。…て事は、元々レーベンスライムにいた人?もしかして財団とか?」

「…元よ。今はただの逃げてるだけの一般人。名前は…ハル。横のはニーナ。」

「そっか、いい名前ね。…逃げてる、か。とりあえず横の子どうする?あとあなたも。ある程度なら治してあげれるけど、ついてくる?」

「…なんか、聞いてた話よりよほど普通の女の子に見えて色々理解追いつかないんだけど…もう死ぬ直前、みたいな感じだし、財団職員でもないからついていくけど…多分あんたの居場所財団にバレるわよ?」

「あはは、珍しいね。ついてきてくれるって言った人、すっごい久々。みんなだいたい襲ってくるもん…大丈夫よ、あなたの体に入ってるそんなマーカー、簡単にHXSで無力化できる」

「なんか、大変なのねえ…あんたも。つーか、それマジ?」

「マジよ。まぁ、好きな様にやってるから多少はしょうがないかなぁ…てかこうなる前から元々扱いに大差ないし。…と、んじゃ、行こっか。…まぁ、あそこで良いかな?」

瞬間、イザベラが口調を変える。

「Incrinitium.I order you to transport us to Zero Point.」

イザベラがいきなり呪文みたいなものを唱えた瞬間、イザベラの右目の下に不思議な紋様が現れて…一瞬で私達は、違う場所へと運ばれた。てか、これ座標転送航法…!?


え、なんだこれ。…都市!?
街!?ビル!?てか空!?
…てか、私らもビルの屋上みたいなとこいるな、これ。

「…さてと、ここが全ての始まりの地、ゼロポイントよ。…昔の人はロサンゼルスって呼んでた場所」

…え、ここには機動部隊が探索に行ったけどいなかったとかそういう報告あったような…

「…どういうこと?空って、生存圏にしか無いんじゃ」

「あー、XANETとインクってさ、暴走してる訳じゃなくて、単純にそういう風に動けって命令されてるだけなのよ」

「…あー、ならさっき見たく普通に命令したらその通りに働くから、機動部隊が来た後にこの街を作ったのか…」

「そそ、幸い私達にはもはや人間の手助けは必要無かった。…この街、全てインクとザネット、あとまぁ、他のお父さんの作った色んなもので…建造し終わるのにざっと2分もかからなかったみたいね」

え、このテラヴェルデより広い感じするこれを、2分?

「いや、ほんとやっぱ訳わかんないわ…イサナギ」

「大丈夫、それはお母さんも私も良く言ってる。いちいちやる事が全部規格外なのよ」

あー、そういう感性はなんか同じなんだ。

「…じゃ、お揃いだ」

「だね。とりあえず、あなたもそこのニーナって子も治したげる。…とと、ちょっと待ってね」

「また呪文?」

「そう!…Incrinitium and HXS.I order you to give these two a cure!」

わっ…なんだこれ、髪より遥かに細い触手みたいなのが…何本あるのこれ、桁億は行ってそう。

「…あれ?もしかして、この子で良かったかもね」

「え、どゆこと?」

「内部の記憶領域とか演算領域のコアには破壊が進行してないわ、そこら辺の夜と違って、ある程度ちゃんとプロテクト入ってるみたいね。やられたのは言語領域と記憶領域の接続部だけ。まぁ神々廻が作ったんだし、そりゃそうか」

「マジか、治る?」

…と、てかこの髪の毛達に包まれるのむちゃくちゃこそばゆいな。

「…ふふっ、こそばゆい?でも完璧に治るわよ」

「そりゃこそばゆいわ。あー…まぁ、良かった」

「ふふ、おつかれ」

安心すると、むっちゃ疲れた。…んで、安心して思い出したけど、EMPって機械だよな?なんでそんな物を財団が持つようになったんだろ。

「…ありがと、そういや結局、EMPってどこで作られてんの、あれ機械でしょ?」

「あー、だいたいは神々廻の施設ね、あとは生存圏で作ってるような紛い物」

「…そのししば?って結局何なのよ」

「うーん…簡単に言うと、日本で1番凄かった人達かな。私達に吸収されても、あくまで業務提携って体で名前だけは守り通した人達よ?凄くない?」

……アトラスタ相手に提携って体で押し通した?世界の覇者相手に譲歩させたの?

「え、まじ?そんなのいるん?東弊はTAPに簡単に吸収されてたし、大黒は中華の手先だしで、日本ってあんまりそういうイメージ無かった…せいぜい国民総無職の国ってくらいしか、というか正直にいえば弱っちい国かと」

「…まぁ、東弊とか大黒は置いといて、あの国割とお父さんも警戒してたらしいよ〜?だから初めに落としたって言ってたし」

…なんか、そう聞くと意外かも。

「…ね、ハル?意志を持った人間って強いのよ。逆も然りだけどね」

「…まぁ、それはあんたのお父さん見てたら何となく分かるわよ」

「あはは、あれは流石に規格外過ぎるけどね」

「そりゃそうだ、でもあれも自らの意思で起こした行動なのは、そこの寝てる奴に聞いた」

「そ、私達は自分達の行動で人は死ぬし、社会が壊れ、地獄絵図になるって分かっててそれをしたし、それを許した」

「…あらためて考えると、ほんっとえぐいわ。他の方法とかは無かったの?」

「私達が耐えたり逃げたりみたいな方法ならあったけどね〜結果的に周りも巻き込んじゃったから、特に修正。そっから吹っ切れた」

「え、修正って敵じゃない?巻き込んで罪悪感とか感じるの?」

「色んなことあったのよ、まぁそれはこの先ゆっくり話したげる。暫くはここにいるでしょ?」

「…まぁ、そうか」

…改めて考えると、確かにもう行く場所なんて無いのは分かったし、しゃーないか。
…なんかこれ、ニーナを連れてく時にも同じ様な事考えたなあ。

「ニーナなぁ、やっぱ全部プログラムなのかな」

「まぁ、そうねえ」

「えぇ、やっぱそうなん」

「…いや、人間も同じよ?思考や精神、魂なんて脳の電気信号の単なる羅列よ」

「…機械と人間、それでも大きな差な気がするよ」

「なら、昔の人間は好き好んで機械になってたわよ。…ニューロアークって知ってる?人々を機械へとする魔法。それをしなければ人間として扱われなかった。さて、機械と人間の境目ってなんでしょうね?」

「…確かに、そう言われると何も返せん」

「仮に、その子の反応とか会話の全てが演算されていたとして、人間の脳も変わらないわよ。大事なのは多分、人であろうとする意思だけよ」

「…なんか、超無理矢理だけど論破されたわ」

「さて、そろそろ起きるわよニーナ。おはようって言ってやりな。…そのうちちゃんと納得させたげる。論破なんて野蛮なやり方抜きでね」

「…うん。ありがと」

まぁ、暫くはここで過ごすのも悪くは無いかもね。

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執筆者: Ryu JP
文字数: 20503
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最終更新: 30 Jun 2021 12:46
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