日本におけるAFCの状況に関する考察 - 1998年

1. 日本におけるAFC問題について

日本における「AFC問題」の最も大きな部分は、「人種差別」というよりも「人種間における経済格差」と設定しています。というのも、AFCの中でも「日本人AFC」と「外国人AFC」はかなり現状に差があるだろうという推測からです。

1.1. 日本人AFC

三行でまとめるとこうです。

  1. 露骨な差別は起きにくい(障害者差別と同一視されるため)
  2. ただし地味な差別がある(就業や結婚で不利)
  3. 経済力が弱い

「日本人AFC(おそらく大半が奇蹄病罹患者)」に対する差別は大きな社会問題としてすでに多くの社会政策が取られているでしょうし、さらに言えば2000年代以降の日本において病気に基づく差別というのが露骨に横行するという状況がかなり想定しづらく思われます(ハンセン病の取り扱いなどに対する反省が残っているので)。

もしそういった差別が蔓延する状況が生まれているとすれば、狂暴化による重大事件を多数発生させている、奇蹄病患者で構成される反社会的な集団によってテロ事件などが起きたことで「公共の敵」と認知されていることが考えられます。

ただ、奇蹄病患者が感染症罹患者として社会から隔離されているなら、上記のような事件は起きにくく、したがって世間の同情を集めやすいでしょう。作中年代のように感染対策が確立された以後、隔離が解除された以後に露骨な差別が行われるということは想定しにくいと言えます。

しかし上記のような「公共の敵」認定がなかったとしても、陰湿な形での差別的な取り扱いが予想できます。たとえば奇蹄病罹患者は、健常者と結婚することが難しくなるのではないかと考えられます。さらに就ける仕事が限られることなどによる経済力の問題から、奇蹄病患者同士でも婚姻率が高いとは言いにくい状況があるかもしれません。

社会全体としてやはり身体障害や精神障害、知的障害を持つ方全体の婚姻率が低いことを考えると、この問題は制度的に解決することが難しいでしょう。

奇蹄病患者は強いストレスにさらされると暴力的になってしまうという一種の精神障害も負うことになるため、就業においても健常者に比べ不利な立場に置かれます。離職率も高くなることが予想され、経済的地位の低さというのはおそらくAFC活動家も重要視している部分であると考えられます。

上記を総合すると、日本人AFCに対する「露骨な差別的取扱い」は社会的に抑止されているものの、「経済的な不利」については制度的解決が有効に機能せず、そのまま残置されている可能性が高いといったところです。

1.2. 外国人AFC

三行でまとめるとこうです。

  1. 反社会的勢力と結びつきやすい
  2. 経済力が弱い(日本人AFCよりもさらに)
  3. 異文化すぎて社会統合が高コスト

「外国人AFC(おそらく大半がエスパノル・ヌートリア)」に対しては、これは「人種差別」が行われる可能性が高いと言えます。民族や言語などアイデンティティを共有している日本人AFCに対する差別が「障害者差別」の文脈で社会に認知されたのと異なり、外国人AFCはあくまでも移民であり、「人種問題」に結びつきやすいからです。

スペイン本国では社会維持のために大量のEU市民の人間の流入を容認せざるを得ず、エスパノル・ヌートリアの失業率はかなり深刻です。要するに、日本にいるエスパノル・ヌートリアの大半は出稼ぎ労働者ということになります。

日本におけるエスパノル・ヌートリアは低賃金な単純労働に従事しており、かなり劣悪な環境で働くことを余儀なくされています。これを政府は黙認していますし、企業は日本人が就きたがらない危険な肉体労働などを安くやらせる人材が欲しいので意図的に状況を放置しています。

AFC活動家はおそらくこういった政府や暗黒メガコーポに対する批判者であり、AFCたちを団結させて労働運動などを起こしているのだと思われます。

良心のある日本人も当然この状況に心を痛め、表立っては労働環境の改善などを訴えると思いますが、いわゆる「旧東京ルート」を取るならば大半の日本人もやはり経済格差に苦しんでいます。本心では底辺を占めるエスパノル・ヌートリアにまで福祉を回す余裕はないと思っているかもしれません。

そんな苦境にあるエスパノル・ヌートリアたちは、労働運動という形で団結するだけではありません。東京事変周縁部を仕切るマフィアとなり、組織犯罪などに手を染める者も出てくると思われます。こうなると、「エスパノル・ヌートリアはマフィアに手を貸す犯罪者」といったような悪印象がついてしまうことになります。

日本人AFCと大きく異なる点として、奇蹄病罹患者の婚姻率が低かったことに対して、エスパノル・ヌートリアは婚姻率が高く、かつ多産である可能性が高いことが挙げられます。まず、おそらくエスパノル・ヌートリアは避妊の手段を持っていません。日本政府は気づき次第大急ぎで用意し配布しようとすると思われますが、経済的基盤が脆弱なヌートリアは、氏族のような共同体による互助を形成しようとする可能性が高く、その結果多産の傾向が生まれるという推測が成り立ちます。

これらの子供たちは学校に通うことはないか、あるいは通ったとしても日本語を習得できるか分かりません。日本政府が用意する福祉水準に依りますが、「旧東京ルート」の日本政府は社会保障を強烈に削減し自己責任の範囲を拡大しているため、あまり期待できないと言えます。

上記を総合すると、外国人AFCに対する「差別」は人間に移民労働者に対するそれと似ており、日本社会の経済構造なども災いして統合に向けた精神的土壌がはぐくまれにくいのではないかと考えられます。

2. 国内AFC活動家による活動の方向性

福路弐条ら主流派のAFC活動家は、全てのAFCを人類社会へ統合することを目指す形で活動しており、救国の英雄である川獺丸アマハル(アマリア・アヒージョ・リュドリガ)を旗印にエスパノル・ヌートリアの支持を集めています。

具体的に考えられる活動としては、異常性特徴保持者保護法制定の推進や、雇用促進政策の働きかけなどです。奇蹄病罹患者を身体障害者福祉の枠組みに入れ、障害者雇用の促進などを通して経済状況の改善を図るなどが考えられます。

ただ、奇蹄病罹患者とエスパノル・ヌートリアでは必要とする支援のアプローチが異なっており、また外国人AFCに対する世論にも対抗できているとは考えづらく、運動を大衆一般に広めることには成功していないと考えられます。

マリナ・マダラザの属する「AFC特別行政区設立機構」は、かなり急進的な派閥に分類されると考えられます。そもそも日本人AFCと外国人AFCでは社会分断の具合が異なっているため、いっしょくたに分離主義運動に包摂する手法には批判もあるでしょう。あるいは、マリナ・マダラザの志向するAFC特別行政区は事実上の「エスパノル・ヌートリア特区」である可能性もあります。

「旧東京ルート」においては東京事変の終結後、旧東京エリアから移民を一掃する構想が立ち上がっていると考えられ、敵同士ながら利害の一致した政府とマダラザは共闘する展開もありえるところです。その場合、福路夫妻殺害以降求心力を低下させるかもしれない主流派とは袂を分かつ結果になってしまうかもしれません。

番外編. 日本の伝承部族を理解するために: 伝承部族と人類──同化主義と多文化主義

ヴェール崩壊以前、世界中に点在したいわゆる「伝承部族」は世界オカルト連合と個別に協定を締結し、人類社会へ姿を現さない(あるいは、世を忍ぶ仮の姿で活動する)ことと引き換えに、人類社会からの不干渉を取り付けていました。この相互主義にもとづく体制は、1998年に崩れます。

ヴェール崩壊以降、積極的に人類世界への進出を開始した伝承部族ですが、そこで多くの国や伝承部族代表者が採った政策は「同化主義」的であったと後に批判されることになります。地球上においては圧倒的大多数を誇るヒトの文化に合わせた形での移住や社会進出が行われたことに対して、少なくない数の伝承部族出身者が反発したためです。

彼らに言わせれば、国家による法治主義や個人の権利を保障する人権思想などはあくまで「人類側の都合」であり、「伝承部族の伝統に反する」ものが少なくなかったためです。こういった主張は1998年当時から聞かれており、人類社会の多数が規範と信じる人権思想に対する挑戦者の登場は、当惑と敵意をもって迎えられました。

とはいえ、そういった保守派が伝承部族の多数を占めていたわけではありません。ヴェール以前から人類社会へ組み込まれていた伝承部族の多くは、穏健派として人類社会の規範を受け入れることにも積極的でした。伝承部族と人類という「文明の衝突」以前に、まず各伝承部族の内部でその主導権争いや分断が起きていました。

世界オカルト連合を中心とする国家群やトリスメギストス・トランスレーション&トランスポーテーション‬社はこういった穏健派を支援し、市民権の付与などを通して懐柔すると、伝承部族に対する同化政策に乗り出しました。その過程で反伝承部族的な夏鳥思想への粛清も行われるなど、人類社会と伝承部族社会は急接近することになります。

しかし2019年の二大陸正常回帰事件を機に、情勢は急転していきます。二大陸──南米大陸とアフリカ大陸は夏鳥思想の根拠地として反超常テロリズムの輸出元となったうえ、同大陸における伝承部族もまた穏健派優位の状況から保守派の復権と両者入り乱れる様相となりました。

この騒動は最終的にサハラ戦争に発展し、人類に対する優越的種族思想を持つ伝承部族保守派による「夏鳥サハラ臨時軍政府」の殲滅という形で幕を閉じました。夏鳥思想に対する排除を進めてきた先進諸国は、伝承部族保守派の持つ人種差別思想に一定の警戒感を示しつつも、対夏鳥テロ戦におけるその働きを評価しました。

問題は、そこから世界オカルト連合とTT&T社主導で行われてきた「同化主義」政策が批判の対象となり始めたことでした。人類の持つ社会規範の価値を相対化し、伝承部族が持つ本来の文化についても尊重すべきという声が強まったことで、世界各地で伝承部族の「反動保守化」が発生しました。

それまで世界オカルト連合やTT&T社によって抑圧されてきた反人類的言説の急増にともなって、世界各国で「反夏鳥」を謳う伝承部族出身者によるホーム・グロウン・テロリズムが続発するようになりました。これを受けて、一部の親夏鳥的傾向を持つ国家は伝承部族の弾圧に動きます。

一度は弱体化した夏鳥思想が再び勃興の兆しを見せていることを受けて、サハラ伝承部族自治国家──新生エジプトは「種族文化相対主義」を提唱するようになりました。人類とまったく異なる社会規範を持つ伝承部族に対して人類の社会規範を押し付けることを「人類文化絶対主義」と定義し、これがいま現在起きているホームグロウンテロの原因であると指摘します。

この新生エジプトによる政治宣伝と前述の同化主義批判が結合し、ヴェール崩壊以降の「多文化主義」が成立したのです。相容れない文化をひとつ屋根の下に同居させることを狙ったこの思想について、多くの先進国がこの発想を取り入れようと試みるものの、社会不安の増大を招くなど、成功を見たといえる国はいまだありません。

ほかならぬ提唱国である新生エジプト自身が、国家の支配階層の大半を伝承部族であるエジプト神族で占めており、「自種族文化絶対主義」に陥っているのではないかという批判も浴びています。

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