アブサンの夢 共著tale
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独白

わたしは自分がわからない。

記憶喪失とか健忘症とか、そういったものとは違う。肉体は至って健康だし、記憶や精神面なんかにも異常はない。ただ純粋に、自己定義が出来ていないだけだ。

昔から自分を定義することが苦手だった。何者であるかが分からなかった。異常性を手に入れてからは尚更だ。自分が人間なのか怪物なのか、それすらも分からなくなってしまった。

定義しようとしても、結論は遠ざかっていくだけだった。自分を見つめることが出来なかった。答えは近くにあるはずなのに、ヒントを掴むことすら出来ずにいた。

「あなたは何者ですか」という問いに答えられる人を羨ましく感じた。ろくに答えられずに話を逸らすわたしとは違って、自分を見つけられている。わたしに無いものを持っている彼らが、輝いて見えた。

結局、いつまで経ってもわたしは、言葉通りの半人前である。自分に向き合うことすら出来ない臆病者と言われている気がしてならなかった。その感覚が、重圧としてのしかかる。

いつしか、孤独感を感じるようになっていた。自分一人だけが周りから置いていかれているとさえ思えてならなかった。その思考が、ゆっくりと首を絞めていく。慢性化した孤独が、心を蝕んでいくのがよく分かった。

周りに追いつきたい。その一心でもがき続けた。それでも結局、差が埋まることは無かった。どちらかと言えば、更に広まってしまったようだった。その事実が、焦りとして心の中に積もっていく。

――いつになったら自分を見つけられるのだろうか。

そんな考え事をしながら、わたしは眠りについた。

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