
概要
地下東京で話されている言語。地下東京語での名前はcikatika「地下での会話」という意味。話者は最大では数万人いたと考えられる。事変終了後、地下から脱出した避難民はこの言語を用いたため、東京環状地域の住民と融和する際の障害になった。
その起源は事変発生以前に作られた人工言語「ロク語」であるとされている。事変とともにその情報はほとんど消え去ってしまったが、東京都在住であった当時高校生の人物のWebサイトに書いてあった情報の目撃証言がある。現在の地下東京語は、最初にロク語を話した人物が後世代に言語を伝えた結果生じた形である。
音韻
14種の子音から構成される。/k/、/g/、/z/、/t/、/d/、/n/、/h/、/p/、/b/、/m/、/r/、/w/、/f/、/v/、/c/である。
基本はローマ字読みの日本語の発音と同じだが、異なるところがいくつかある。tは「ti」「てぃ」のように発音される。jは日本語のや行である。cは無声硬口蓋破裂音。「チャ」行の音である。日本語のさ行を表す単語は存在せず、ざ行かた行に代替される。
母音は/a/、/i/、/u/、/e/、/o/。
文法
語順はSOV。動詞に機能詞を付加することで法、相、時制、態、証拠性などの文法的要素を表す。文中の目的語の前には「i」がつき、格を示す。これは後述する完全動詞の文章にも機能詞として使う。
平叙文と否定
jana i nok bik
ヤナは肉を食べる。
否定系は動詞の前に「bant」を置く。
jana i nok bant bik
ヤナは肉を食べない。
時制と相
単純過去は過去の一点において動詞の行為が行われたことを指す。機能詞「ei-」「mae-」を単語の頭につける。
jana i nok ei'bik
ヤナは肉を食べた。
継続過去の機能詞は「ok-」「mo-」である。今も継続されている事象を指す。
jana i nok ok'bik
ヤナは肉を食べている。
継続する動作が過去であることを表すためには、「eiok-」「maemo-」とする。
jana i nok eiok'bik
ヤナは肉を食べていた。
完結相は「em-」である。
jana i nok eiem'bik
ヤナは肉を食べ終わっていた。
継続相は「jugi-」である。
jana i nok jugi'bik
ヤナは肉を食べ続ける。
動詞について、特に現在であることを表す場合は現在を表す機能詞「go-」「ima-」をつける。
jana i nok go'bik
ヤナは肉を今食べている。
未来を表す機能詞は「kohe-」である。
jana nok kohe'bik
ヤナは肉をこれから食べる。
経験相は「pr-」「ar-」
jana i nok pr'bik
ヤナは肉を食べたことがある。
数
主語の数ではなく目的語の数。目的語を取らない場合はつかない。機能詞「unt-」で複数を表す。
jana i nok unt'bik
ヤナは複数の肉を食べる。
cikatikaでは「肉」は可算名詞。不可算名詞は「水」「moe」、「風」「towe」など。抽象概念は可算名詞にならない。
双数の機能詞は「nino-」を用いる。
jana i nok nino'bik
ヤナは二つの肉を食べる
機能詞「nai-」は目的語の数がゼロであることを指す。
jana i nok nai'bik
ヤナは肉を食べない。(ゼロ個の肉を食べる)
証拠性
話者が認識している証拠性も機能詞で表す。「話者の認識で普通に」は無標。「伝聞で話者が知っていること」は「de-」をつける。
jana i nok eide'bik
ヤナは肉を食べたそうだ。
「論理的に推論できること」は「boi-」をつける。
jana i nok okboi'bik
ヤナは肉を食べているだろう。
「あやふやな認識に基づく考え」は「ni-」
jana i nok koheni'bik
ヤナは肉をこれから食べるだろう(と思う)
「実験によって確かめられた、あるいは神話などそのコミュニティで常識的な事実」は「wai-」
jana i nok wai'bik
ヤナは肉を食べると決まっている。
場所
「行く」「来る」などの単語のために場所を目的語へと取る場合、機能詞「da-」を用いる。
jana i rinzikuek da'ga
ヤナは新宿駅へ行く。
「から」は機能詞「gak-」「kara-」を用いる。
jana i rinzikuek gak'ha
ヤナは新宿駅から来た。
また、「gak-」「da-」を同時に用いて「名詞1から名詞2へ」という意味を出せる。その際は、名詞の間に「tu」を入れる。
jana i rinzikuek tu akatakaek gakda'ga
ヤナは新宿駅から赤坂見附駅へ行く。
動詞の前にくる名詞を指して、「[名詞3]で[動詞]をする」という意味にするには「ti-」をつける。
jana i nok rinzikuek ti'bik
ヤナは新宿駅で肉を食べる。
態
受動態「pum」は時制と証拠性の後につける。
jana i nok eipum'bik
ヤナは肉に食べられた。
自己に対して行う動作、中動態は機能詞「paima-」で表す。
jana paima'coan
ヤナは自分を守る。
法
「できる」は「vk-」である。
jana i nok vk'bik
ヤナは肉を食べられる。
機能詞「vk-」は「そうできる人はそれ以外ない」と表現する用法がある。機能詞「vkama-」を用いる。
jana i nok vkama'bik
ヤナは唯一肉を食べられる人だ
「したい」は「wa-」で願望を表す。
jana i nok wa'bik
ヤナは肉を食べたい
願望の機能詞にも最上級の形がある。機能詞「wakama-」を用いる。
jana i nok wakama'bik
ヤナは一番肉を食べたい
やならければならないことは、程度の強さによって三段階に分けられる。「ame-」「しなければならない」、「ume-」「した方が良い」、「ime-」「しても良い」。「ime-」は「しないか?」程度の勧誘の意味も持つ。
jana i nok ime'bik
ヤナは肉を食べた方がいい。
命令形は機能詞「imekar-」を用いる。
jana, i nok imekar'bik
ヤナ、肉を食べろ
話者はその事実を否定しているが現に起きていることを示す用法がある。機能詞「ameipne-」を用いる。
jana i onna ameipne'ir?
ヤナは女の子でなければならないだろ?
その他の文法事項
「ことを」は「pne-」である。
jana i nok eipne'bik kob
ヤナは肉を食べることが好きだ。
「[名詞1]は[名詞2]を[名詞3]に/で[動詞]する」という文章には、機能詞「ede-」と名詞接頭辞「ni-」を用いる。名詞接頭辞「ni-」は名詞3の頭につける。「ede-」は「乗り物で場所へ行く」「道具で動詞をする」などの意味にも使える。
jana i nok nizaha ede'kai
ヤナは肉をザハに買った。
jana i tirinzikuek nidentia daede'ga
ヤナは電車で新宿駅へ行った。
jana i nok nicoka eiede'mai
ヤナは刃で肉を取った。
「ヤナは肉は美味しくあると思う」のように、動詞が二個ある文章を構成できる。「wo-」をつけることで、先に来る動詞が後に来る動詞の内容であることを示す。
jana i nok wo'jokuark ei'erb
ヤナは肉が良いものだと思った。
「wo-」はそのまま完全動詞文に用いても良い。
eiko'wo'jokarinokerb
私は肉が良いものだと思った。
定性と不定性を特に表すこともできる。特に限定されたものを対象とする場合、機能詞「ano-」を用いる。
jana i nok ano'bik
ヤナは(前文などで言及された)肉を食べた
不定性なものを対象とする場合は、「nae-」を用いる。
jana i ufa wo'umak nae'hanak
ヤナは皆に上手く話す
敬語
「ヤナは肉を食べます」のように、会話の相手に敬意を払う機能詞は「tor-」であり、これも動詞の頭につける。動作の対象に敬意を払う機能詞は「denmo-」だが「新宿駅の王」以外に使うことはあまりない。
jana i nok tor'bik
ヤナは肉を食べます。
新宿駅の王に対しては目的語となる名詞に接頭辞をつける。「o-」は子音から始まる単語に対して、「k-」は母音から始まる単語に対してつける。
rinzikuek i ouden onok denmoei'bik
新宿駅の王は肉を食べられた。
主語を動詞に組み込む
kor(ko) 私
mor(mo) あなた
komo(kom') 私たち
mit(mi) 彼
urt(ur) 彼女
pik(pi) 彼ら
cik(ci) それ
カッコ内は機能詞として使用可能な形。機能詞の最後に主語を組み込むことで品詞を削減できる。以下のような形も可能。このとき語順はOSVのような形をとる。これを完全動詞文と呼ぶ。名詞は「意味接頭辞形」に活用して、機能詞の後に動詞に入れることができる。
eiokkoi'nokbik
私は肉を食べていた
動詞の形成
「bik」「食べる」、「ga」「行く」、「ai」「手に入れる」、これらの簡単な動詞は、意味接頭辞を付加することで意味内容を変化させられる。意味接頭辞は名詞の省略形。
bik: 食べる
「gh-」「喉で」 「飲む」
「m-」「手で」 「勝つ」
「vei- 」「目で」 「観賞する」
「k-」「金で」 「取引する」
ga: 行く
「vei-」「目で」 「千里眼を見る」1
「zu-」「足で」 「歩く」
「oe-」「肺で」 「走る」
「gh-」「喉で」 「歌う」
ai: 手に入れる
「k-」「金で」 「買う」
「m-」「手で」 「取る」「採集する」
「oe-」「肺で」 「呼吸する」
「gh-」「喉で」 「説得する」
「i-」動詞の内部に目的語を含む文章を作る。動詞の内部の名詞は「意味接頭辞形」の形で挿入する。
jana eioki'nokbik
ヤナは肉を食べている。
疑問形
基本は「numa」「ですか?」を文の最後につける。
tanbe i nok ir numa?
これは肉か?
[名詞1]がわからない場合、「oro-」を、[名詞2]がわからない場合、「odo-」を、[名詞3]がわからない場合、「our-」を動詞に機能詞としてつける。動詞の行為がわからない場合は、架空動詞「mur」を置いた上で、「numa」も最後に置く。
i nok eioro'bik numa?
誰が肉を食べた?
jana eiodo'bik numa?
ヤナは何を食べた?
jana i rinzikeku eiour'ga numa?
ヤナは何で新宿駅へ行った?
jana ei'mur numa?
ヤナは何をした?
[名詞3]に機能詞「ni-」のつく文章で、[名詞3]の内容がわからない場合、架空名詞「pne」を置くことで代替する。
jana i nok nipne eiede'mai name?
ヤナは何で肉を取った?
動詞に機能詞をつけない形の疑問型もある。
「いつ」で時間を問う場合先述の「name」に機能詞「kt-」をつける。
jana i nok ei'bik ktname?
ヤナは肉を食べた?
「なぜ」は「kr-」、「どこ」は「kf-」、「どのように」は「fo-」である。
jana i nok ei'bik krname?
ヤナは肉をなぜ食べた?
jana i nok ei'bik kfname?
ヤナは肉をどこで食べた?
jana i nok ei'bik foname?
ヤナは肉をどのように食べた?
これら四種の機能詞は、動詞につけることで以下のような形で「(詳細はわかっていないが)[動詞]した」といった表現を作ることができる。
jana i nok eikr'bik
ヤナはなぜか肉を食べた
jana i nok eikf'bik
ヤナはどこかで肉を食べた
jana i nok eifo'bik
ヤナは何らかの方法で肉を食べた。
比較
「teou」は「より」を表す。
jana teou zaha takak
ヤナはザハより高い(身長)である。
jana teou zaha i fa nok ei'bik
ヤナはザハより多く肉を食べる。
仮定形
「もし」は「moti」である。
moti jana i nok ei'bik, jana i rinzikek bant ga.
ヤナがもし肉を食べていたら、ヤナは新宿駅に行かなかった。
名詞内文
「ヤナは焼かれた肉を食べた」のような文章は、名詞を修飾する動詞を挿入する。基本は動詞の受動態で大丈夫だが、「a」は受動態に動詞の行為をした対象がわからない時につけられる。
jana i eipuma'wio nok ei'bik
ヤナは焼かれた肉を食べた。
「ヤナはユーキが男を愛していたことを知った」のような文章を作るには、架空名詞「pne」を文の前に置く。
jana i pne juki ben ei'kob ei'mag
ヤナはユーキが男を愛していたことを知った。
代名詞を使うことで動詞内に架空名詞と主語が入って文構造を簡単にできる。(動詞の構造が簡単になってないがこちらの方が好まれる)
eiko'mag eipnemii'benkob
私は彼女が男を愛していたことを知った。
接続詞
順接の接続詞は「tarai」「なので」
逆説の接続詞は「upakpa」「であるが」
並列の接続詞は「onte」「及び」
添加の接続詞は「uhent」「さらには」
日本語と同じ文の順番
後置詞
動詞の後に置いて幅広い意味内容を扱う品詞。
「itak」「では」「において」は、その現象の概念的、地理的範囲を限定する。
komo wo'faerb midonen itak erankamuink
私たちは数学では多くを考える必要がある。
jana i nok bik itak bamo ek
ヤナはこの駅において肉を食べる。
「marna」「間に」は、その現象の時間的範囲を指す。
jana i nok eijugi'bik marna kom'nerk.
私たちが寝ている間、ヤナは肉を食べ続けていた。
「koete」は「超えて」を表す。ある量を超えた行為、物を表す。
jana i nok bik koete nogajuki ei'bikrau
ユキの食べた量を超えて、ヤナは肉を食べる。
方言形と古語
渋谷駅周辺で話されている方言形「渋谷駅方言」は機能詞の一部が異なるという特徴がある。また、六本木駅方言では語順を変えることで疑問形を表し、音韻の一部が異なる。古語は不明だが、失われた語彙がいくつかあるのではないかと考えられている。
zakhar i niku tanga'bik
ザクハルは肉を食べた(渋谷駅方言)
heir nork i inu?
ヘイルは犬に乗るか?(六本木駅方言)
会話例
赤坂見附駅に住む兄妹であるヤナとザハの会話。
jana: i nok eiokemkom'bik.
(私たちは肉を食べ終わったよ)zaha: na! i nok koheumekomo'mai.
(ああ! これから肉を取った方が良いね)jana: zaha i nok nipne eipr'bik kfname?
(ザハはどこで肉を取ったことがあるの?)zaha: kor i nok dentia eiprti'mai.
(電車で取ったことがあるよ)