アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの対象地域では常に情報収集を行い、SCP-XXX-JPの発生の兆候が確認された場合は必要に応じ接触を図って下さい。SCP-XXX-JP-A及びその親類に対しては最低限必要な場合を除いて不干渉状態を維持し、常に監視を行って下さい。夫婦の関係やSCP-XXX-JP-Aの頭髪に何らかの変化が確認された場合は早急に担当者に報告し、対応を行って下さい。
説明: SCP-XXX-JPはパートナーと恋愛関係が解消した女性が散髪する慣習が存在する日本全土でまばらに発生する異常です。その地域に在住している女性が肩先までの長髪であり、慣習に基づき首元まで散髪した場合、以下の事象が発生します。これは財団が観測している全ての事例で同一です。また、散髪した時点で女性はSCP-XXX-JP-Aに分類され、発見順に番号付けされます。
- SCP-XXX-JP-Aは頭髪を首元までの長さで維持します。これは外部からの強制や強迫観念ではなく、SCP-XXX-JP-Aの意思に基づきます。
- SCP-XXX-JP-Aは散髪前の健康状態に関わらず心身健康となり、結果として長寿になります。
- SCP-XXX-JP-Aは自身の周囲に対する直感的な危機回避能力を習得します。これは強力なものであり、複数の事例において非常に生存率が低い事象を回避しています。
- SCP-XXX-JP-Aは5年以内に新たな男性と婚姻関係となり、子供を授かります。この関係は夫婦どちらかが老衰により死亡するまで継続します。
SCP-XXX-JPの収容は困難ですが、対象地域が限定されること、及びその性質上一般からは異常として認識されないことから、財団は現在の不干渉監視体制を維持しています。
補遺XXX-JP.1: インタビュー記録
SCP-XXX-JPの初期調査のため、特例としてSCP-XXX-JP-A-1夫婦にインタビューを行いました。以下はその記録です。
音声映像記録
日付: ████/██/██
対象: SCP-XXX-JP-A-1(青山 リツ子氏)、夫(青山 三郎氏)
インタビュアー: 鍋島研究員
付記: 対象2名は██年前から財団により間接的に収容されています。また、鍋島研究員は█年前からSCP-XXX-JP-A-1の収容担当であり、対象2名とは面識があります。
«記録開始»
インタビュアー: こんにちは、本日はお伺いしたいことがあるのですが。よろしいでしょうか。
夫: 話によるよ。何を聞きたいんだね?
インタビュアー: お2人のですね、馴れ初めについてですね。かなりプライベートな事ですのでもし話したくなければ、そのようにしても良いのですが。
夫: 青年、急にどうしたんだい? まぁ、「もちろん」と答えるけどね。
SCP-XXX-JP-A-1: お爺さん、あまりその話はしないでって言ってるでしょう。
夫: 婆さん、鍋島君がこんな珍しい事言ってるのだし、今度も、教えてあげようじゃないか。悪いような言い方はしないからさ。
SCP-XXX-JP-A-1: しょうがないですねえ。ただし、今日限りで終わりですよ。
夫: ありがとう婆さん。じゃぁ教えてあげようか鍋島君。
インタビュアー: 有難うございます。
夫: おれと婆さんが鍋島君位の頃ね婆さんとおれは友達程度の仲だった。で、ある日婆さんは年上のな、金吾って人に告白したんだよ。でもな、婆さんね、金吾さんには絶対見合わないんだよな。
SCP-XXX-JP-1: 爺さん!
夫: まぁまぁ、それで婆さんが髪まで切っちまうくらい落ち込んでてさ、他人に婆さんを取られそうになって焦ったのと励ますチャンスは今だけだ! ってなって、付き合ったわけだよ。
SCP-XXX-JP-1: 鍋島さん、恥ずかしいのであんまり口外しないで下さいね? 鍋島さんは口が固いからそんな事しないと思ってますけど。
インタビュアー: はい。勿論ですよ。
インタビュアー: もう一つ質問なのですが、どうしてリツ子さんはいつも首を触っているのでしょうか? その……ご病気などであったらすみません。
夫: 婆さんは病気とかじゃないよ。でも首のくせ、いつもやめろって言ってるのに聞かないんだよ。理由も無い筈なのに。婆さん、再三言うけど意味も無く触るの、首が荒れやすくなるしやめなさいよ。
SCP-XXX-JP-A-1: だからね、くせはしょうがないでしょう。
インタビュアー: 本当でしょうか?
SCP-XXX-JP-A-1: ……長年のくせですよ。鍋島さんも酷いですね。
インタビュアー: 失礼しました。お伺いしたかったことは以上です。有難うございました。
«記録終了»
後記: インタビュー中やその前後にSCP-XXX-JP-A-1が不自然に何度も首を気に掛ける様子が確認されました。今後、非異常性の検査が行われる予定です。
補遺XXX-JP.2: SCP-XXX-JPの事例
SCP-XXX-JP-Aに分類されている全ての人物及びその夫の調査を行いました。その結果、夫婦は確認されている全事例において80歳以上の長寿となり、老衰以外の原因での死亡は確認されませんでした。以下は事例の抜粋です。
事例: SCP-XXX-JP-A-5
生没年: 1922~2014
1940/██/██: 同学年の男子生徒に告白するが断られる。その3日後に散髪。
1942/██/██: 疎開してきた3歳歳上の男性と交際を開始。
1944/██/██: 上記の男性と結婚。
1949/██/██: 長男を出産。
1951/██/██: 次男を出産。
2014/██/██: 老衰により死亡。92歳。
事例: SCP-XXX-JP-A-7
生没年: 1934~2017
1951/██/██: 当時の交際相手の浮気が発覚し交際が終了する。当日中に散髪。
1953/██/██: 勤務先の別部署に勤める男性と交際を開始。
1956/██/██: 上記の男性と結婚。
1960/██/██: 長女を出産。
2017/██/██: 老衰により死亡。83歳。
事例: SCP-XXX-JP-A-13
生没年: 1937~2021
1959/██/██: 期待していた縁談が破談になる。2日後に散髪。
1962/██/██: 取引先の男性と交際を開始。
1963/██/██: 上記の男性と結婚。
1963/██/██: 長女を出産。
1967/██/██: 次女を出産。
1970/██/██: 長男を出産。
2021/██/██: 老衰により死亡。84歳。
補遺XXX-JP.3: SCP-XXX-JPの起源
香川博士は神話論、宗教学、奇跡論に精通しており、SCP-XXX-JPの異常性が何らかの宗教学的な事象との関連があると予測し独自で研究を行っていました。博士の研究結果はSCP-XXX-JPの異常性解明に大いに有用性があると考えられるため、以下に示します。
香川博士による調査報告(抜粋)
……以上の資料から分かるように、SCP-XXX-JPの現象は「失恋した女性が髪を切る」ことがトリガーであることはほぼ確定とみていいでしょう。そこで、私はこの「髪を切る」という行為に宗教的な意味があるのではと推測しました。「尼削ぎ」という風習がこの日本国内にはあります。この風習は中世の貴族女性が出家する際に髪を切るという事で、尼削ぎという名前自体髪型の名前にもなっています。出家の際に尼削ぎをする意味としては、夫の愛情に背く、不倫をするといった後ろめたいことをした自分に対して行う戒めのようなものです。戒めを行い仏門に入った女性たちは罪を洗い流しご利益を得ようとします。つまり、SCP-XXX-JP‐Aが例外なく第二のパートナーとの良好な関係を築き極めて安定した生活を送ってるのは信心ゆえのご利益と対応しているとも考えられます。
しかしながら、この推測が正しいとするとして、昔の女性とSCP-XXX-JP-Aの間には大きな差異が存在します。SCP-XXX-JP-Aは髪を切った後でも新しい男性と付き合っていることです。それはもちろん現代では出家と失恋して髪を切るという行為を意識して重ねている人がほとんどいないためです。その上、自戒の意味で切る人も稀です。単に気分転換のために切る人もいるでしょう。この差異というものはSCP-XXX-JP-Aに対し危険なものである可能性があります。昔の女性は、尼削ぎが俗世との隔絶を意味するものと知っていて、千年近くの歴史にわたって儀式としてこの行為を象徴化してきました。対して今の女性はほとんどが知りません。この認知の差が危険です。これがたとえ誰も意味を知らない、理解していないとしても、その行為は既に儀式として十二分に確立されてしまっているからです。
補遺XXX-JP.4: インシデント記録
2022/██/██、SCP-XXX-JP-A-39が首元を切断された状態で死亡していた事が判明しました。これはSCP-XXX-JP-A-39の夫である██氏が非異常性による交通事故で死亡した時刻から数分後の事であり、発見された血痕から鎌に類似したもので瞬時に首元を切断されたと推測されていますが、現場から凶器は発見されておらず、SCP-XXX-JP-A-39以外の人物が進入した痕跡は発見されませんでした。
また、SCP-XXX-JP-A-39は当事案の直前まで自身の孫である桃香氏と通話をしていました。以下は事案発生直前の通話記録の抜粋です。
音声映像記録
«記録開始»
[関連性のない会話を省略]
孫: それにしてもおばあちゃんから電話掛けてくるのって結構久しぶりじゃない?
SCP-XXX-JP-A-39: (笑いながら) そうね、新品のCDプレイヤーの使い方がわからなかったのだけど、お父さん今出かけてるから聞けなくてねぇ。
[突如、原因不明な物音が発生。これは夫が死亡した時刻と同一である事が調査により判明しています。]
孫: ん、おじいちゃん帰ってきたんじゃない?
(沈黙)
孫: おばあちゃん? どうしたの、大丈夫?
SCP-XXX-JP-A-39: 桃香、いい? 私が言うのもおかしな話なのだけど、もし初恋が実らなくても簡単に髪を切って神様にお願いなんかしちゃ駄目よ。特に怪しい神様にはね。
SCP-XXX-JP-A-39: だって、髪は女の命なんですもの。
«記録終了»
後記: 通話の終了直後、SCP-XXX-JP-A-39は上記の通り死亡しています。
この事象は超常現象記録に登録されている複数の死亡事例と酷似しているとの指摘がされており、全事例に共通して髪の断面をなぞるように首元が切断されている事から、同種類の事象である可能性が有力視されてます。
この事象は、これまでのSCP-XXX-JPの調査結果及び現場の状況により、SCP-XXX-JPの異常性によるものだと判断されました。これらの事実から、SCP-XXX-JPの危険性とその事象の事前防御が困難であることを考慮し、Keterクラスへの再分類が提案されています。
文字数: 5820