エンパイア・コレクティブ

桃色の空を黄緑の雲塊があっちこっちと行き交う。その動きは迅速で、おそらくヤクをキメているのだと思われた。比喩ではなく、このマザーがだ。

夢見るMOTHER。この延々と拡がる重合的悪夢空間は彼女の見る夢だ。彼女は外では”きらら”だとかなんとかそういった名前を付けられているが、実際はそんな輝いた存在ではない。

彼女は錆び、捻じれ、壊れていた。この感じは以前も幾度か経験したことがある。原住民たちがワードサラダ以下の戯言を吐き散らし、空を青の首吊り縄が泳いでいるのを見るに、おそらくは、まあ、そういうことなのだろう。

別に、目が覚めている間でも夢はある。そして夢は精神状態を顕著に、実に顕著に反映する。

うん。

とりあえず、今は退避が最良のように思われた。向こうの夢空間に飛び移ろうとしたところで、足元を一本の大きな触手が掴む。

「お前か」

真赤に燃える、まるで太陽のような蛸。彼(もしかしたら彼女かもしれない)はここの番人で、彼女から独立した一つのオネイロイだ。

「なあ……すまないがこの足を離してくれないか?私は腹が空いていてね、カップケーキでも食べに行きたいんだが」

ポン、という音を立てて巨大なカップケーキが空から落ちてくる。間一髪のところで圧し潰されるのを回避し、それに向き直る。デカい──余裕で1tはありそうだ。夢には質量なんてないけどな、とも付け加える。

「あー……ご厚意ありがとう。だが断らせてもらうよ。私はとにかくここから出たいんだ。今すぐこの触手を離せ」

返答はない。

「なあおい、もうちょっと強烈な態度に出てやってもいいんだぜ。これでも元柔道部なんだ、とっととその触手をだな──」

ぶん

あれ、おかしいな。天と地が逆さまだ。

この野郎、吊り上げやがったな。

「あー、はいはい。アンタ何がしたいんだ?理由によっちゃあ残ってやらんこともない」

答えない。

「フザケすぎだろうがよ、クソ、なんでこんな目にあってんだ?ワケがわかんねえ」

蛸が突然浮き上がる。それに釣られて私も共に上がっていく。悲鳴を上げる間もなく、急速に、空を、突き抜けて、そこは──────。

目覚めは最悪だった。なんだかよくわからない悪夢を見たような気がする。でもわからない。そもそもわかんない悪夢だし。

ええと──。とりあえずクソ気持ち悪くて、内容物を己の直下へとブチ撒ける。朝からこれ?嫌すぎる。

悪いのは昨日の自分だ。また性懲りもなくそういうことをしてしまった。だけどそれを止めるよう言ってくれるヒトなんて誰もいないし、それでいい。

少女──鏡音きらら14歳──は暗い部屋、ベッドに座って吐瀉物の臭いを嗅ぎながら、今日もまた生きたくないな、と感じていた。

コレクティブはいつも労働に追われていて──おっと失礼、君は新米だな?ここで言う”コレクティブは我々”ファウンデーション・コレクティブ”のことを指している。さてそれで我々はホンっとクソみたいな量の仕事に夢の中ですら追われているわけだが、今夜問題になっているのはこれだ。

読めるか?目はあるよな、たぶん。それじゃイケるな。

URA-1128に関する簡易報告

ファウンデーション・コレクティブ作成

暫定ナンバー: URA-1128

暫定脅威レベル: レッド

概要: URA-1128は現在夢世界内で拡大中の新興コレクティブである。対象空間内では”エンパイア・コレクティブ”の名が複数確認されており、おそらくそれが対象の名称であると推察される。

現在、URA-1128は以下4つの存在から構成されていると見なされている。

URA-1128-A: URA-1128-Aは後述するURA-1128-Bの母体と考えられる形而下空間の人物である。URA-1128領土の拡大推移から、URA-1128-Aは神奈川県の何処かに存在するものと推定される。現在財団夢想部門1と連携して捜索中。

URA-1128-B: URA-1128-Bは異常な夢空間であり、前述したURA-1128-Aにその存在を依拠していると考えられる。URA-1128-B内部の構造物は流動的だが、ゴシック様式の城を模した巨大な(夢内質量2000~メートルトン)の構造物が中央部に存在することは固定されている。

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