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ゴールドベイカー=ラインツ混沌系情報データフィードのウィンドウが拡大してフルスクリーンとなり、配信映像が現れる。

青いドレスシャツを着た、漠然と東アジア系の男性がデスクに座っている。ジン・ラリー・ビリジアンと名乗る彼は、過去40年間に渡って、ゴールドベイカー=ラインツ社の財団担当アカウントマネージャーを務めている。彼は30歳を過ぎているようには見えない。

ジンのオフィスは、あちこちに装飾が施されている。机の上には真鍮製の秤が置いてあり、片方には3つの金の延べ棒が、もう片方には1枚の黒い羽根が置かれている。羽根は金よりも重い。机の上にはキーボードがあり、モニターはないが、ホログラフ光の複雑なネットワークが部屋中に張りめぐらされている。彼の背後の壁にはヒマラヤを描いた風景画が掛けられており、その上には磨き上げられた真鍮製のゴールドベイカー=ラインツ社のロゴがある。

ジンは特別な存在ではない。ゴールドベイカー=ラインツ社が雇用する数百人、もしくは数千人のうちの1人だ。それぞれが少しずつ異なる顧客層に対応し、少しずつ異なる仕事内容を持っている。財団と比較すると小規模ではあるが、その影響力は推定しにくい — 心配になるほどに。

「監督者様」ジンは温和な声で言う。「年次監査の件でございますか?」

O5-10は頷く。「内容は既にご存知でしょう」

「皆様がデューデリジェンスを果たしていらっしゃるようで嬉しく思います」ジンは少し微笑みながら言う。「エゼキエル・ヤン様は将来有望な方だと長らく思っておりましたよ。予測できない保護を信用するのが難しいことは、あなたも私も知っていることです」

O5-10は眉をひそめる。「不本意ながら、その通りですね」

「断言しましょう。もちろんです」ジンは言う。彼がキーボードのキーをいくつか叩くと、GoReChaoSのスクリーンからホログラフのディスプレイが出現する。

「昨年のお客様とのお取引は、当然のことですが、一切問題ございませんでした」ジンは言う。「全てのお支払いは完了しております。現在私どもは、クラスG 職員保険契約、クラスE 組織保険契約、クラスB 深妙保険契約の最初のお支払いを受け取っております」

各契約の種別ごとにディスプレイがポップアップし、緑に着色された棒グラフが表示される。

そして、彼は動きを止める。赤く染まったグラフが表示される。

「クラスK契約のお支払いは継続されますか?」

「財団の給付履歴を確認したいのですが」O5-10は可能な限り中立的に発言する。

「かしこまりました」ジンもまた、できるだけ中立的に返答する。

「ふむ…… ダチョウ型の大型侵略者イベント?」

どういう訳か、ゴールドベイカー=ラインツ社は大型侵略者に関しては信じられないほど、そして不愉快なほどに具体的だ。O5-10は、GOCとその加盟組織が所有する超常兵器のために、ゴールドベイカー=ラインツ社が大型侵略者保険を販売しているのではないかと半分疑っているのだった。

ジンは頬を膨らませる。「それは信じられないほど、あらゆる面でon all fronts大変な仕事でしたよ。お客様ご自身の備え、例のドラゴンスレイヤーを開示していただきましたので、保険料請求はお安くしておりました。今回はその必要がなかったようで何よりです。私どもの仕事は満足のいくものでしたでしょうか?」

O5-10は、オーストラリアの海岸から500フィートの高さのダチョウが出現し、東南アジアに向かった時のことを回想する。彼は、奴を倒すための財団軍の奮闘、GOCへの緊急連絡、波を軽減するために要した奇跡術の行使、インド洋に浮かぶ身長500フィートのダチョウをどう処理するかという不可避の問題について思い出していく。

その後、ジン・ラリー・ビリジアンがヘリコプターから飛び降りてきて、ダチョウの浮遊死体の上にロングコートを引きずって降り立った。彼が被害状況を把握して腕時計を叩くことわずか数秒で、O5-10の受信トレイには財団が受給できる正確な保障内容を記したメールが即座に送られてきた。

数十億ドル、現金払い。さらに、数百万ドル分の価値のベリリウム銅合金。必要な場合、数トン分のダチョウ肉を貯蔵可能な施設を最長1年間使用する権利。

結局、受け取った支払い内容は、財団が長年に渡って支払ってきた金額より数ドル多いだけだった。投資に対するリターンを考えれば、これは純然たる損失である。真の価値は、数トンの異常な肉を安全な廃棄施設に一度に輸送する必要がないという利便性であった。

「保障内容について、何かご不満な点が?」ジンは顔をしかめながら言う。彼は机の上の真鍮の秤を弄り、ゆっくりと上下に揺らしている。やはり羽根は金より重い。

「総体として、模範的な内容でした」O5-10は言う。あのダチョウは異常ではあるが、全体から見ればそれほど飛び抜けた出来事ではなかった。

「それは良かった」そう言って、ジンは大きく微笑む。「次の案件は何でしょう?」

「数学の破綻、」O5-10が言う。「これは一体どのような—」

「基本契約の第3条に抵触する可能性がございますよ」ジンはそう言いながら、指を振って見せる。

「私は質問しなくてはなりません」O5-10が言う。

「こちらとしましても、あなたがそうする場合には警告しなくてはなりませんので」ジンは言う。「我々の保有している記録によれば、1年と5年に相当する期間、1より大きい確率が実現可能なように数学が崩壊しておりました。それが一体どのようなことなのか、私には理解できませんがね。失礼、話が逸れました。そちらの記録でもそうでしょうか?」

この出来事に関する財団の記録は、現実構造の改変に抵抗できるよう特別に設計された、時間的隔離下にある深淵施設にあるものだけだった。このやり取りによって、財団はゴールドベイカー=ラインツ社も同様の施設を持っていることを確認したが、範囲や規模は分からない。

「そうですね」O5-10は言う、「それで、どのように—」

「企業秘密ですよ、残念ながら」ジンは言う。「もし私が財団の代表者様に対しゴールドベイカー=ラインツ社が確率を正常に戻した方法を正確にお伝えした場合、私が販売できる保険契約が1つ減ってしまうことになります。これもビジネスですので」

「そちらの記録はどうなのです?」O5-10は尋ねる。「どのようにして、その安全性を保っているのですか?」

ジンは苦笑する。「ゴールドベイカー氏は記憶力が良い人ですからね」彼は言う。

O5-10は、ゴールドベイカー氏に1度だけ会ったことがあった。1世紀前のことだ。彼はそれが本物のゴールドベイカー氏だと確信してはいなかった。「あのご老人はお元気で?」

「未だにお若いですよ。ずっとそうだったように」ジンは言う。「5年以上前にディナーをご一緒させてもらいました。次の機会がありましたら、あなたをお招きしてもいいか確かめておきましょう」

「いえ、私は忙しい身ですから」O5-10は言う。「直接会って話すとしたら、監査担当者の方が良いでしょう」

「今、それは利益相反になってしまうでしょうね」ジンは言う。「ゴールドベイカー=ラインツ社が、現在我々からKクラス保険を買うべきではないと主張している顧客の皆様のために和牛のステーキを奢るだなんて?」

O5-10が鼻を鳴らす。 それから、彼は息を吸い込む。

「もっと強い保証が必要なんです、ジンさん。内部チームに送るものです。これを年々先延ばしにするのには、正直うんざりしています」

ジンの笑顔も消える。 「私どもの過去の仕事は、彼らにとって何の意味もないものだったと?」

「それは、彼らがその最悪を思い出せないときの仕事でしょう? 世界が危機に瀕しているときの?」

ジンは訳知り顔で頷き、キーボードを叩く。 O5-10は短い画像クリップが画面上で点滅するのを見る。深宇宙の小惑星が、運用に著しいエネルギーコストを要する財団保有の人工衛星によって地球から遠ざかるように偏向され、その翌日には、ウラン鉱を積んだダンプトラックがサイト-19から50km離れた指定の場所に積荷を下ろした。どこに通じているか不明な扉を通り、高さ3フィート以下のカエデの木が丁度30本配達された。大地の深い裂け目の横で、握手が交わされた。

ジンが芝居がかった様子でエンターキーを押し込むと、点滅するメッセージがO5-10の受信ボックスに届いた。

「内部公開の許可を取りました」ジンは言う。「あなたのレビューが完了したら、そのまま渡していただいて構いません」

O5-10は頷く。

ジンは微笑む。彼は、意外にも目元までしっかりと笑っている。 「ご満足いただけたようで何よりです。今後ともご贔屓に」

通信画面が点滅して閉じる。

エゼキエル、シェルドン 両名へ

レベル1~4のSCP-6987文書は完全に承認されました。

評議会は全会一致でSCP-6987の全契約を更新することを決定しました。

添付ファイルを確認してください。

—O5-10

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