サクラフルフェイス
キッカケは本当に些細なもので、あの瞬間人を救ったのだって脊椎反射に自分の身体を預けたからに他ならない。或いは赤の他人が目の前で変死体に加工されるのが怖かっただけなんだと思う。
ともあれたった一回の救命を心から讃えてくれて、更にどんな企業よりもお得な就職先として接してくれる人々に出会えたのは純粋に嬉しかった。
「書類手続きはコレで終わりです。改めて入団に感謝します。明日からはよろしく」
「よろしくお願いします。これってもう帰っちゃっていいやつですか?」
「いいやつですね。明日から例の場所で訓練やるんでさっさと寝てください」
「うす。じゃこれで失礼します」
大卒ニート1年目の夏は、秘密結社の採用試験から始まった。
[↓タイトル構文↓]
桜フルフェイス
雇用枠はフィールドエージェント。教育期間は丸1年。訓練生としての新生活は12000円の初任給(※日給)から始まった。荒巻さん──事件後の事情聴取や昨日の就職手続きでお世話になった方──の指示で訪れた近所の市民体育館は相も変わらず閑散としていて、360°どの方向から声をかけられても一瞬ビビりかねないほど静まりかえっていた。
「お、ちゃんと時間守って来てくれてる」
案の定肩を竦ませてしまった。背後から突然やってきた荒巻さんに先導かれ、だだっ広い運動場に放り出される。基礎的な体力測定が始まった。
ページリビジョン: 3, 最終更新: 09 May 2021 08:45