ネオ・スピリット


世界オカルト連合精神PSYCHE部門特任使節、ミハウ・コヴァルスキの覚え書き:

このところ、思うにつけて1つの言葉が頭を巡っている。

"後始末"。

あの1998年の初夏は確かに決定的な分岐点ではあったが、ショパン・カルトを抜きにしても火種は至る所に燻っていた。古代文明の禍々しい神代遺産、デミウルゴスの死とそのバックラッシュ、第七次オカルト大戦における枢軸国の超常資産、東西冷戦で生まれたいくつもの究極兵器Eigenweapons……。

それらの内多くの問題は、私が産まれる前どころか、連合すら存在しない時から、不発弾のようにずっと地中に蹲っていた。

結局の所、私はこう思わざるを得ない。問題の種というものは手の届かない遠い過去において既に埋められており、我々の目の前で今芽吹くのだと。

年月を経て根深くなった問題はどれもこれも、手を付けるのが億劫なほどに硬く絡み合って固着している。切ることも抜くことも出来ず、根本からの解決にはほど遠い。— "スピリット"はまさしくその好例だった。

前世紀に蒔かれた無数の種の1つに過ぎなかった彼らは、ヴェール無き時代の混沌を養分とし、いまや無視できないほど毒々しい大輪の花を咲かせている。

始末を付ける必要があるだろう。奴らが後世に新たな種をばらまく前に、今すぐに。



財団超常組織学博士、転眼式見の第一次報告:

タイプ-C現実改変者であったリチャード・D・チャペル率いるGoI-001("シカゴ・スピリット")は、アメリカ合衆国シカゴを拠点に北米大陸各主要都市へと進出し、1920年頃には西半球における最大の異常犯罪組織にまで成長しました。莫大な利益とチャペルの現実改変能力を背景に何千もの超常物品を保有し、何百もの異常能力を保有する構成員を加入させていたシカゴ・スピリットは、財団の手さえ退け20年以上に渡って繁栄を極め続けます。

スピリットの栄光に陰りが見え始めたのは、1930年代後半、チャペルの現実改変能力が衰え始めたとの報告が財団の耳に入ってからでした。財団は自宅への襲撃によってチャペルを確保・収容することに成功し、これにより指導者を失ったスピリットは分裂し崩壊。異常物品及び構成員の一部は確保し損なったものの、財団は厄介な要注意団体の壊滅を成功裏に達成した……そう思われていました。つい最近までは。

近年発見された新たな証言記録は、財団に確保される以前チャペルが自身の力の衰えを予感し、"自らの意思と力を継いだ後継者"を創りだす試みを行っていたことを明確に示していました。その具体的方法は不明瞭ですが、チャペルが同性愛者であったという報告は、この後継者探しが単純な生殖に基づかない異常な手段を用いて行われた可能性を示唆しています。

この情報は現代においても活動を続ける複数のシカゴ・スピリット残党組織(我々は"ネオ・スピリット"と総称しています)もある程度把握していたと見られており、私はこの点が今後重要となって来ることを予測しています。

スピリットの活動はもはや西半球だけに留まりません。彼らは小規模ながら、世界中の都市で犯罪に関与しています。彼らは既に異常を知っているだけの犯罪集団ではありません。年月はそれらを使いこなし、生み出すだけの時間を彼らに与えました。

簡潔に言えば、この"後継者"に関わる問題は以下に集約されるでしょう。

チャペルの後継者がネオ・スピリットに発見され、スピリット残党全てが新たな指導者を旗印として結束した場合、彼らはかつての栄光を超える世界最大級の犯罪シンジケートとなり得ます。

我々は、もう一度過去の問題に向き合わなければなりません。



FBI異常事件課上級捜査官、ハンネス・ヴィラワイナーの独り言:

俺たち異常事件課は連合ファイアワークス財団スキッパーズよりもっと昔から、真っ正面に、奴らと向かい合ってきた。

確かにシカゴ・スピリットは40年代には完全に崩壊した、紛れもない事実だ。だが、それだけの話を聞いてどいつもこいつも奴らについて知ったような口を利く—「時代遅れの、死に体のギャング組織」だと。

その感想は間違っている、組織が真の意味で死ぬことは無い。所属する人間の精神スピリットが生き続ける限り。

スピリット構成員の大半はブタ箱に放り込まれるか、MC&Dショッパーズのような他の組織に吸収されていったが、中にはスリー・ポートランドのような隔離次元に逃げ込んだ奴らや、アメリカを離れ深いより闇社会に潜った奴らが、低レベルではあるものの、しぶとく活動を続けていた。

それら組織のどれもが、何らかの形で合衆国市民全体にとっての脅威となり続けた。崩壊から半世紀を数えても、依然として。

俺たちは奴らを何代にもわたって追い続けた。どれだけ枝分かれし合流し変質しようと、ワシのように遠くまで目をその足取りに光らせていた。

だからこそ俺たちは精力的なスピリット残党をどこよりも正確に把握していたし、それらの組織がほぼ同時期に"スピリット"の名で再び大規模に活動し出したと知ったとき、真っ先に度肝を抜かれた。

あまつさえ奴らは、自分こそチャペルの正統後継者と名乗るボスをめいめい担いで時代錯誤な跡目争いを始めやがった。

社会を揺るがすド派手な爆発と共に。

要注意団体報告
財団記録部門作成


GoI-001系列組織 ("ネオ・スピリット")

活動状況: 活発

脅威レベル:

概要: "ネオ・スピリット"は近年その影響力を増しつつある複数のGoI-001("シカゴ・スピリット")の関連組織に対する準公式的な総称です。その中核的な思想はGoI-001が1938年に解散した後、一部の構成員により低レベルの犯罪活動を通して試みられたリチャード・チャペルの隠し資産の探索に端を発すると推測されています。

チャペルを収容した財団はその実在性を実証することに成功しなかったにもかかわらず、最終的にこの隠し資産にまつわる伝説は以下のように発展していきました: "その資産価値は数十億ドルを超え、最もシカゴ・スピリットを体現する人物/組織だけが手にすることが出来る"。伝説が膨らむにつれ活動はより加熱しましたが、やがて時代経過と共にGoI-001の知名度と影響力が低下するに伴い、チャペルの遺産探索は徐々に縮小していくこととなります。

しかしながら、冷戦終結とパラテックバブルの崩壊に伴う超常技術関連企業の相次ぐ倒産、そして同時期に発生した1998年のヴェール開放の影響でブラックマーケットに大量の超常資産が流出したことにより超常犯罪の件数は過去最高に達し、スピリット残党の遺産探索活動は再燃しました。ここで名乗りを上げた複数の組織がネオ・スピリットです。

ネオ・スピリット組織に確認される大きな特徴は、"チャペルの後継者"を名乗る指導者の存在です。多くの場合彼らは自身が何らかの形でチャペルとの血縁関係1を持ち、そのために自身らは"スピリット"を受け継ぐにふさわしい存在であると主張します。さらに勢力の強いネオ・スピリット組織には解散前後にGoI-001に所属していた経歴を持つ"後見人"とも言える人物が存在し、指導者の実務を補佐するとともに"後継者"としての正当性の担保を行っていることが知られています。

こうした背景のため、ネオ・スピリット各組織同士の関係は明確に劣悪であり、自組織の正当性を示すための抗争はしばしば通常の勢力争いの規模を超えたより大規模な武力衝突として頻発します。

留意すべき点として、こうしたネオ・スピリット組織は分派として独自の活動を続ける他のGoI-001関連組織と異なり、自身の組織を"シカゴ・スピリット"と明確に自称します。この行動はネオ・スピリット組織の「GoI-001後継組織としての自負」についての志向を示すものと推測されますが、各組織の活動境界を曖昧にし、その組織規模を誤認させる一因ともなってきました。

以下に続く特筆すべきネオ・スピリット組織のリストでは、各組織の分類を容易にするため、裏社会で用いられる通称・別名に基づく個々の識別名が割り当てられています。


http://scp-jp.wikidot.com/spirit-stories
http://scp-jp.wikidot.com/black-as-night
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