SCiPnetポータルへのログインを確認しました。ようこそ、サリヴァン・アップルガース様。オペレーション手続きに従い、接続プロトコル-001 (”ALTIUS”) を実行します。インターフェイスへの特別アクセス権が付与されています。
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アクセス試行中です。しばらくお待ちください。
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接続が完了しました。現在、全ての構成要素にアクセス可能な状態です。
アルティウスへようこそ、ゲストユーザー。

アルティウスへようこそ
ようこそ、アルティウスへようこそ、ゲストユーザー。恐らくあなたは、我々の期待通り招かれた客である筈です。ここ「アルティウス」の存在をどのように知ったのかは問いません。重要なのは、あなたの最大の幸福のために「アルティウス」が必要不可欠であるということであり、ここへ参加しなければならないという事です。私どもの親愛なる友人は皆、このアルティウスに住まうことを誇りに思っています。SCP財団に勤務していた時もまた - しかしそれは過去の驕りです。
私はイライジャ・パーシヴァル。この世界の創設者にして、管理者。あなたがここへ来て、研究の才を存分に発揮してくださることに期待しています。といっても、ここのルールを破らないようにしてください。我々はあなた方の最大幸福のために、適切な監視処置を施しています。そういう時に、沈黙を保つことは一番の最善策です。
あなたの余計なお喋りが、どこから嗅ぎ付けるとも知らぬ告密者TATTLETALEに全て言いつけられてしまわぬように。ちょっとの悪事さえ恐れるぐらいなら、何もしない方が賢明でしょう。ここはそういう場所なのです。
アルティウス内部データベースへの侵入が達成されました。オペレーション継続のため、エージェントに必要十分な情報が開示されます。以下のファイルを参照し、内部データベースから関連する情報を完全にサルベージすることが現時点で必要不可欠です。
特別収容プロトコル:

SCP-001の全域スキャン結果。画像は編集されている。
説明: SCP-001は、[特定地域の][特定座標]地下3500m付近に位置する巨大な機械型複合体です。SCP-001の最大半径は約20kmであり、その大部分が解明済みの異常合金類により防護、補強されています。この全体域スキャンの結果から、SCP-001の最大深度は10,430mであり、この地点を中心に、無作為な方向へ不特定多数の配管が突出していることが判明しています。SCP-001のそれぞれの配管分岐は地球の異なる地点に接続されており、その全体数を正確に測定することはできていません。
SCP-001周辺域の帯電状況と発生する電地場の観測状況から、SCP-001は不特定の供給元を有し、発電・または何らかの形で電力消費を行っていることが推測されています。後述のアイテムの存在により最も高い確率として、SCP-001は何らかの”主要演算装置”としての機能を持ち、その能力のために多大な電力を消費している事が挙げられます。SCP-001のほとんどの構成要素は自然発生する可能性のない物質で形成されており、その類似性と多様な観点から、SCP財団独自所有の異常資源が不正に流用されていると推測されています。また、このアイテムの劣化・腐敗状況から推測し、ほとんどの試算ではSCP-001が30年以内に建造されたものであると仮定されます。
SCP-001、およびそれぞれ方角の先端部構造には、何らかの形態の大規模な放送装置が存在します。この放送装置のそれぞれは、異なる間隔、タイミングで特定周波数の複合電磁波を発信させます。その全パターンは何れも生体、自然環境に影響しない固有周波数であり、また電力密度のため、ほとんどの場合は地表面への到達前に観測不能な規模まで損失します。しかし、各装置の構造的問題と条件から、これらの放送装置が外部に向けて発信される目的ではなく、その他の対内的な目的のため建造されたものである可能性が高いと仮定されています。
SCP-001には、防護された状態のケーブル管が広域にかけて配線されています。これらの一部は地表に到達しており、全体として特殊な電子的ネットワークを形成していることが現時点で判明しています。この伝送媒体は異常な方法により圧縮されており、工業的に生産された合成オレイカルコスの一部であると推測されます。このネットワークのプロトコルは、SCP財団が標準で用いるもの (SCiPnet) を適度に改変したものであり、そのため財団の技術により、ある程度介入することが可能です。これらのネットワーク解析により、SCP-001により処理される情報のほとんどが、集中的なシミュレーションのため送信されていることが判明しています。

アルティウス・デジタルシミュレーション・システムズ、内観。
SCP-001-Aは、SCP-001の内部ネットワークにより「アルティウス (アルティウス・デジタルシミュレーション・システムズ)」と命名された、視覚表現型デジタルシミュレーションシステムです。これらの詳細情報は、SCP-001内部ネットワークの部分的サルベージにより判明しました。アルティウスは、SCP-001に搭載された主要演算装置・物理ハードウェアによりホスティングされる仮想シミュレーション世界であり、異常な水準の視覚的描画処理とクライアント同期の機能を持ちます。現在、アルティウスは完全な閉鎖的ネットワークの内部に対してのみ公開されています。その全体ユーザー数は120,0000前後であり、一部には超常社会に寄与しない民間人と思われる個人が含まれています。
アルティウスの内部では、人間の脳から生じる電磁波の波形パターンを読み取り、言語化および発話・発声無しにコミュニケーションを可能とすることを特徴とします。この方法論は現時点で不明であり、少なくとも分析に必要な脳波の電気量と電力密度に矛盾します。この異常なプロセスは、財団が現在解明していない原理に基づく可能性があり、調査が進められています。アルティウスのシミュレーション能力は膨大で、少なくとも地球全土で供給可能な電力の消費量を遥かに上回ります。この場合、電力消費に関わる異常現象が副次的に存在するか、またはアルティウス自体に異常由来の特性があることが考慮されます。
起源・収容方針: SCP-001の特有な設計・構造は、前述のようにSCP財団の異常資産から大幅に不正利用されています。このプロジェクトに強く関連すると思われる、廃止済みの「プロジェクト: アルティウス」は、SCP財団で2020年から2038年7月9日まで実行された、先端的固有兵器の開発オペレーションでした。SCP-001の観測以前にプロジェクト: アルティウスが自主解体されると、その機密資料は秘密裏に盗難されました。この事件の容疑者としての候補は、現在アルティウスを運営していると自称する「イライジャ・パーシヴァル」元財団職員1名に限定されています。現在、パーシヴァルの身柄拘束とアルティウス全体の捜査を目的とした密偵者オペレーションが進行中であり、その報告とともに最終的な逮捕状が発行される予定です。
ログインを検出しました:
補遺001/I: 調査中報告
サリヴァン、そこにいますか?
ああ、監督者。内部調査は滞りなく進行中だ。
承知しました。あなたの良い仕事ぶりに期待しています。今後のオペレーション手順は理解していますね?デモンストレーションの通りです。
”レッドコード”ヴィルスプログラムを外挿する。アルティウス・ネットワークのシステムにバックドアを仕掛け、セキュリティ上の観点から確実に発生するシステム・ロックダウンを誘発させる。ハッキング処理は有効か?
無問題です。既に内部ネットワークの構成要素に侵入可能な状態です。
理解した。調査を継続する。
内部調査中に興味深いものを見つけた。ネットワークに属するほとんどのユーザーは、元々のIDや名義がSCP財団に登録されているものと一致する。彼らは皆、私たちと同じような同志だったと考えるのが筋だろうか?手順では説明されなかったが、そもそもここはどういう場所なんだ?
あなたの予見の通りですよ。彼らの大多数が離反した財団職員です。全ての発端であるプロジェクト: アルティウスについては機密事項であるため語れませんが — 具体的にどんな情報が必要ですか?
彼らについて。やはり財団を離反するほどの理由があったとは思えない。
ええ、確かに多くの発見がありました。中でも特筆すべきものは、やはりプロジェクトの発見した特殊な「電磁波」です。人間の脳活動から生じる電気活動については知っていますね?
この微弱な電磁波には幾つかの規則性が存在し、その脳波判読プログラムを開発することで、2035年ごろ、音声や発話を経由しない「脳波」によるコミュニケーションの実現が達成されました。この技術の着想の背景には、やはり彼らプロジェクトが何らかの事情を抱えていたことが想像できます。明らかに急いていました。
ああ、確かにこのヘッドセットは — 少々不気味だが不思議なものではない。これが私の脳波を判読しているのか?
そうです。サルベージ中の情報によれば、脳波判読の正確度は以前にも増して洗練されています。基礎律動脳波活動の大半は、少なくとも488のパターンに分類することが可能になっており、これによる疑似言語野の構築と、脳波から言語化への変換が最適化されています。
資料で見た程度のものだが、人間の刺激に対する受動的反応は、少なくとも脳波周波数の変動に僅かな影響しか与えない。その変動は1Hz未満だ。特に、基礎律動α波の傾向は対象者の注意や精神的努力によって抑制・減衰されるために、安定した結果を得られるとは思えない。
既存電磁気学に基づけば、という前提をお忘れなく。超常電磁気学による新たな理論は、その説明の根底的な概念である電気素量を大いに書き換えました。
電荷素量の基礎物理定数は正確に1.602176634×10−19Cだ。
いいえ、サリヴァン。電気量の最小単位はもはや存在しません。電気素量は正確にゼロ以下Below Zeroなのです。加えて述べると、あらゆる物理定数の最小値はもはや我々の観測限界にあると推測されるため、ゼロ以下であるか、または正確に試算できません。
ええ、あなたの理解を超えていることは間違いないでしょう。我々ももはやこれを正確に理解しているとは言えません。そもそも、この理論は3次元空間で計測できるものではありませんから。
これは多次元に由来する理論なのか?論理的整合性は確認できるか?
フーム…それは難しいですね。立証困難な問題ですので、科学的にどうというものではありません。ただ、多次元というのは的を得ています。
人間の脳活動に由来する基礎律動脳波は、それぞれ1-3Hz、4-7Hz、8-13Hz、14Hz以上で分類されます。しかし、これに加えて400以上の分類パターンが、1Hz未満の帯域で分類されています。この「端数」を引き起こす根源は、電荷の基準となる陽子あるいは陽電子の異常なメカニズムに起因するものだと考えられています。
陽子の電荷は正確に計算されています。しかし、弦理論などで求められる10以上の余剰次元の構造を推測すると、陽子の真の全体スケールはもはやミンコフスキー時空内部には留まらず、その物理的範囲の背後に隠された余剰次元スケールの分だけ、観測外に質量が存在する可能性があるのです。
余剰次元の観測手段はない。これは予想に過ぎない。
いいえ、実際に5次元以上の世界を観測された人物がいます。ブレーン宇宙論において否定される微視的スケール次元について考慮した際に、これこそが物理法則の背後に存在する隠された次元だと推測し、これを観測可能とする簡単な方程式を立てました。その人物の実験は成功し、実際に微視的スケールの多次元が存在することを突き止めたのです。
余剰次元はどれ程存在する?1か、2か —
無限個です。理論的に考えて、全ての物理定数は特定の宇宙・次元内でのみ機能するため、その内部に存在する微視的スケール宇宙は、対内的に「微視的である」とは解釈されません。その入れ子構造は、内宇宙に実質的無限スケールの入れ子構造を更に形成し、この余剰次元は無限後退します。
この「端数」は、例えば一般的に観測できない規模で電磁波が減衰したとしても、理論上永遠に延伸し続けるのです。その理論上、この人物は脳波活動の「端数」を観測することで、実質的無限数のパターンを観測することが可能であるだろうと考え、これを計画化しました。
名前を隠さなくても分かってるだろう、監督者。その人物こそがイライジャ・パーシヴァルなんだろう?アルティウスの創設者。財団の初号離反者。だがなぜ、彼はこの理論の発見だけで事を急ぐような真似をしたんだ?
事を急ぐようなものを発見したからです。そうして彼はプロジェクト: アルティウスを提言し、財団内部でこれを解決する方法を模索しました。しかし、ほとんどのケースで許可は下りなかったとされています。
だから離反した。私の予想だが、彼は余剰次元あるいは多元宇宙について探求を極めるあまり、この世界にも存在しないような奇天烈な存在を発見して、それに魅入られてしまったのだろう。その物体について突き止めることはそう難しくないだろうが、彼が具体的に何を危険視したのかだけが特に気になっている。パンテオン.アルティウスの監督・運営・財政を担当する要注意組織。廃止されたプロジェクト: アルティウスのメンバーにより指揮されている。の連中について詳しいことは分かるか?
申し訳ございません。それについて私から述べることはできません。ただ1つ、その予想が正確だという事だけは言えます。彼らは実際に5次元以上の世界を観測し続けました。その結果として、この世界以外の新たな脅威を観測してしまったのです。
それは何だ?
多元宇宙です。
通達: マルウェアに含まれる悪意のあるプログラムが侵入し、システムの脆弱性が露見しています。パンテオンの合意により、システム利用者の安全を確保する目的でロックダウンが実行されました。関連する1件の保安プロトコルが起動しています。
補遺001/II: 音声通話抜粋
ヘイズ・Q、そこにいるか?
ブラムウェル技師.サリヴァン調査員の偽名。!?まだそこに居るのか?
ああ。何があったか教えてくれないか?アルティウスの中心都市ネットワークにアクセスできなくなった挙句、あらゆるシステムが遮断され……言わなきゃ分からないってこともないだろう、私たち全員が孤立している可能性がある。上層部に連絡を試みたが、応答が無かった。
ハッ!君はどこまで能天気な奴なんだ。いいか?先程ネットワーク全体にマルウェアが外挿された。理由を解明するために、パンテオンの連中はネットワーク全体の一斉隔離を命令して — ほとんど全員が切断された。お前以外ほとんど。
どういう状況なんだ?パンテオンが緊急会議を開いてて、内部ネットワークに侵入した可能性がある不正ユーザーについて探っている。調査の間、告密者 (TATTLETALE) プロトコルが起動してて、内部の一斉掃射が開始されてる。セキュリティチームの連中が君みたいな逸脱者を発見したら、迷わず殺害するかもしれない。
状況が掴めない。とにかく安全を確保してくれ。
重ね重ねありがとう、状況は理解した。申し訳ないが、現場技師としてここを離れるわけにはいかないと思う。それに、セキュリティチームが既に都市内部を闊歩しているのなら、うかつにログアウトシステムまで移動すること自体が危険かもしれない。発見されれば、私もお前も容疑をかけられるだろう。
私はもう少しスタッフルームに待機することにする。セキュリティチームが進入できない間、独自に今回の事件の真相を調査しておく。お前もここでの会話ログをできる限り削除しておいてくれ。
ああ、分かった。だが不安になるような真似をしないでくれ?君が死んだら私は路頭に迷うことになることも忘れないでくれ。それで、何か私にできることはあるか?
パンテオンの連中に関する情報が要る。最近の動向から推測するに、今回のロックダウン事件はSCP財団による襲撃事件である可能性が高いとみている。その場合、優先的に保護すべき人員のリストアップが必要だ。パンテオンを構成する職員の中で、現在もコンタクトが取れていない人物はいるか?
オーケイ。ちょっと待ってくれ……
確認した。2名、それぞれの名前はイライジャ・パーシヴァルと、アローラ・B。このうち重要なのはイライジャ・パーシヴァル管理官で、彼の個人クリアランスがアルティウス・ネットワークの中で重要なものだ。もう1人のほうは、比較的最近こちらに移動してきたセキュリティディレクターだ。
イライジャ・パーシヴァルに関してだが、彼の保護は生死を問わない。何故なら彼は死亡している可能性が高いからだ。
パーシヴァル管理官は、2039年までに秘密裏に活動を進め、彼に同意する何名かの構成員と共にアルティウスを建造した。その後、彼はアルティウス・システムを制御する特殊な演算処理装置を構築し、そのシステムにアルティウスの制御と改善を一任した。彼の個人情報と重要な要素 — つまり指紋や脳や虹彩など — のみが彼から摘出され、保管されている。つまり彼は事実上死んでいる。
アローラ・Bはセキュリティディレクターだ。彼女が恐らくセキュリティチームを指揮している。彼女をどうにか説得できれば、一時的にだが君が脱出することができる機会が得られるかもしれない。これら2名の (現実での) 実体の保護が優先的だ。それぞれアルティウスの中枢システムに含まれる全保護バンカーと、地下監視セクションに滞在しているだろう。
ブラムウェル?
了解した、感謝する。
何か問題があればすぐに報告してくれ。君に死なれちゃ困るからな!
やっぱり君は優しすぎるな。密偵の事を疑いもしないのだから……
さて。セキュリティチームに”発見”されるまで、残りのファイルを調べてみようか。
補遺001/III: 議事録
音声映像転写 2038/05/18 |
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前文: 本ファイルは、廃止されたプロジェクト: アルティウスの過去の議事録について言及しています。当時、プロジェクト: アルティウスの現場監督であり、形式セクション議長を務めたイライジャ・パーシヴァル管理官は、この時点で確認されていた問題に対処すべく、関係者間の合同会議を招集しました。 参加者: |
«転写開始» |
<4名は監督サイトの司令室に滞在している。> 塚原主任: さて、諸問題をさっさと片付けてしまいましょうよ、門外漢さん。 エンダース室長: 君がこの議題について理解していることを願うよ、頼むから。知っての通り私の管轄は認知心理学だが、生体の脳活動についても研究している。だがな、管理官。君のその非生産的な業務内容の中で一体全体何を発見したって言える?君の部門は知っての通り単純明快で不利益な作業しかしない。あらゆる天文学的・科学的・熱力学的その他もろもろの自然条件を調べまくった挙句、それぞれの相互作用がどういう可能性を導き出すのか解析する、実に非効率だ。 パーシヴァル管理官: 形式部門について侮辱するのを今すぐ止めてもらおうか。 ムーア管理官: この会議を遅延させる理由はありません。イライジャ?あなたの説明を待っていますよ。 パーシヴァル管理官: (間を置く) — よかろう。諸君らに集まっていただいたのは他でもない、この崇高なる形式部門の研究途中に出現した新たなる脅威への対策と、対応のためだ。(笑う) — 知っての通り、私はイライジャ・パーシヴァル、形式部門の担当だ。形式部門とは、異常性が発揮される条件を研究する例外的な担当部署であり、その想定されるあらゆる — 非論理的な — 可能性、形式を追求し、新たなる異常特性を解明するため活動を続けている。 塚原主任: ここで述べる「形式」には、一切の科学的根拠を追求するつもりはありません。例えば因果関係のない雨天と雨傘を分析することで、その存在が実際に概念的関係図に異常を持っていることが判明したり、または類似するケースで — 要するに「数学的に」関係性のないと思われる場所にこそ存在する、アノマリーの収容を担当とするのです。 パーシヴァル管理官: アルティウスにおける地球全土の探索・解析オペレーションは、つい前日までは順調に進んでいた。この先端的開発目標は、アルティウスと呼ばれるプロジェクトの管轄で地球全土を全般的に観測することで、あらゆる異常特性を未然に発見することを目的としていた。太陽フレアの変動から、今日の出生数に至るまで — あらゆる条件を観測することが目的だった。 <プロジェクターが起動し、前面に画像を映し出す。> パーシヴァル管理官: このプロジェクターに示された情報は、地球電離層における先日中の電子密度変動の具合と、地球全体における障害発生数の推移を示したものだ。このデータに示される通り、先日中における電子密度の変動は、太陽フレアに依存したデリンジャー現象にも匹敵する異常な撹乱が発生したことを示唆している。当然だが、当日中に太陽フレアの大規模な変動は発生しておらず、これが太陽由来のものではないことが理解できる。 ムーア管理官: こちらでは確認されていません。 塚原主任: この変動を原因である異常な周波数複合電磁波は、物理的に観測できるものではありません。先日発見された電気素量に関する最新の理論はご存じですね?ええ、微視的スケール多元宇宙に依存した「端数」にまつわる観測データです。我々はこれを「零下現実 (Reality Below Zero)」理論と呼んでいますが — とにかく。「零下現実」理論に基づく最新の観測データでは、このデリンジャー現象が確認できます。そして、その周波数特性を詳細化すると、個別の周波数帯域はかなりの精度で一定周波数を保ち続けていました。 パーシヴァル管理官: 注意すべきなのは、これらの周波数はすべて人間の脳活動に起因する正常脳波のδ・Θ・α・β波に対応しており、その比例的な逆位相の位置にあることが推測されている点だ。つまり、人間の脳活動に類似した、非常に高周波の逆移送電磁波が繰り返し発信されており、それが地球全土を内包するレベルで — あるいは太陽系か、銀河系スケールで — 拡散されていることを示している。 エンダース室長: 単なる偶然かもしれない。あるいは確率収束アノマリーの類だ。 パーシヴァル管理官: ボルツマン脳のような天文学的確率だ。それがこのような偶発性を持つとは考えにくい。更に述べると、この逆位相電磁波が発信され始めた頃から、一般人の脳活動に明確な異常現象が生じていることが現時点で判明している。仮にこの周期的電磁波のことを「A-87放送」とでも呼称しよう。次の画像を見てほしい。 ![]() 人間の脳波。 パーシヴァル管理官: この図に記録されていないものがある。A-87放送の後、我々は40名以上の被験者を集め、同様の脳波測定を行った。その結果、元来より一般的に観測されるヒトの基礎律動脳波φ波.基礎律動脳波に関係する特定の周波数を指す。、睡眠第5段階脳波.睡眠時脳波に関係する特定の周波数を指す。、頭頂部鋭波ζ律動.鋭波律動に関係する特定の周波数を指す。が完全に沈静し、代わりに他の基礎律動脳波が異常に活性化していることが確認された。この現象を踏まえると、A-87放送は明らかに人間の脳活動を抑制し、代わりに特定の脳活動を異常に増幅させていることが理解できる。 エンダース室長: ちょっと待て。人間の脳波と電磁波放送がどのように相互作用するのか理解できん。 パーシヴァル管理官: 人間の脳が機能するときには、ニューロン神経細胞から一定間隔で電気信号 (impulse) が発生し、これを通して情報が伝達するような仕組みになっている。この樹状突起と軸索の間に存在するシナプス空間には、基本的に外因性の異なる電気信号は伝わらないように防護されている。しかし、先ほどの「零下現実」理論によると、このシナプス空間にも若干量の電気信号が流入することがあり、特にA-87放送のような逆位相電磁波が流入すると、このインパルスはノイズ化してしまう。結果、特定周波数に依存した脳活動が抑制されてしまうことがある。 ムーア管理官: これが偶発的に起こる確率は? パーシヴァル管理官: ゼロだ、全くもって。我々はこれらのインパルスをそれぞれ、現時点で持続している正常脳波を「プネウマ」、抑制されてしまった異常脳波を「クオリア」と仮に命名している。A-87放送とクオリアにどのような関係性があるのかは不明だが、現時点ではもはや解析することすらできない。 エンダース室長: ほう、なるほど。現時点で起こり得る問題はほとんど把握した。要するに君ら形式部門は、その異常脳波を抑制している疑いがある異常な宇宙放送について研究していて、それが全くもって悪意ある攻撃であるとさえ考えているのか。 パーシヴァル管理官: そうだ。我々はプロジェクトに対する追加支援を要求しようと考えている。 <エンダース室長が複数の書類を取り出し、それをパーシヴァル管理官へ突きつける。その書類にはO5評議会 (監督評議会) のサインが記入されている。> パーシヴァル管理官: これは……? エンダース室長: 監督評議会による現時点での見解を示した文書だ。これと君の述べた情報が正確であれば、監督評議会は恐らく君たちに対して追加支援を行う気はさらさらないものだと考えていい。加えて述べると、監督評議会はプロジェクト: アルティウスに対して特別な興味を示していない。 パーシヴァル管理官: 絶対に重視すべきものだ。これを無視すべきでない。 エンダース室長: 監督評議会はこれについてより良い対策方法があると述べている。最もコストパフォーマンスが高く、ヴェール前線に影響を与えることのないものだ。私は結局、これだけを伝えに来た。 パーシヴァル管理官: ペテン師め。 |
«転写終了» |
後文: プロジェクト: アルティウスの最新の分析では、地球電離層にかけて微視的スケールの異常現象が発生していることが判明した。それにより、人間脳活動の一部が異常な形で抑制され、そのイベントは現在も解消されていない。監督評議会はこれらの事象に対し、関連するイベントを対外的に秘匿し、依存する学術的情報を全般的に抹消することが最も効果的であると判断した。現象の根本的な解決には至っていない。 |
監督評議会という司令塔に期待したこと自体が大いなる間違いなんだろう、畜生が。
奇妙だ。ドキュメントに記述される情報のうち、脳活動に関係する幾つかの情報は捏造された可能性が高い。「基礎律動脳波φ波」なんてものは存在しない。或いは、それらの情報が巧妙に隠されてしまった可能性があるが、情報について想像することができない。
クオリアは……クオリアは何だ?SCP-001に搭載された放送装置の事を踏まえると、A-87放送たる逆位相電磁波を明確に希釈するためにSCP-001の防護機能が存在すると考えられる。だが…だが何だ?私たちの脳活動が一部縮退したことで何が変化した?私たちに何があった?
こういう時に人間が頼るものは統制だ。自分たちを優越する支配者だ。パーシヴァルは…自分を殺してまで新たな支配システムを作り上げた。その指標は何だった?絶対的な支配者が存在するはずだ。
補遺001/IV: 調査中追加報告
監督者、そこにいるか?
O5-2?
ええ、サリヴァン。どうしましたか?
SCP-001に関する調査を進めているんだが、SCP-001の主体的な運用指針を理解できずにいる。副次的な防護機能として、A-87放送と呼ばれる特殊な電磁波を防御する機能があることは現時点で理解している。
この件について、元々アルティウスの運営に干渉していたあなたの助言が欲しい。
ふむ……なるほど、分かりました。ですが先に、主要な現場エンジニアの居場所を教えるように。イライジャ・パーシヴァルとアローラ・B。彼女らの確保が優先です。
何故それを……?
まあ、分かった。データはそちらに送付してある。確認してくれ。
確認しました。少しお待ちを。
「零下現実」問題についてはご存じでしょうか?
理論は知っている。
この問題には多元宇宙が強く関係しています。前提の通り、この世界に存在するあらゆる素子・素粒子は、宇宙の次元数に応じて異なる形態を持ち続けます。そのため、特定の次元からの観測結果には必ず「端数」が付き纏います。ここで重要なのは、多元宇宙の実在性そのものなのです。
マルチバースについてはご存じですか?
テグマークの分類の定義により異なるが、複数の宇宙の存在を仮定するものだ。多くのケースでは、それぞれの「宇宙」に対応した法則、次元数が定められており、内部の法則も物理定数も異なるものだとされるだろう。
それぞれのマルチバースに次元数が定められている理由を説明できますか?それが異なる理由が理解できますか?
それは
端的に述べることは難しい。そもそも解明されていない。
次元数はもともと単一だったとするのが、最新の仮説です。宇宙インフレーションの極限まで昔を辿ると、多元宇宙が形成された根本的な理由である「泡」の形成に問題があります。インフレーションの過程で何らかの事象が発生し — それは量子論的ではなく — 宇宙の元である複数の「泡」が誕生しました。しかし、これ以前にも宇宙は存在したと考えられます。その理論は無限後退するため基本的には考慮されませんが、形式的には考慮され得るべきです。
その場合、多次元の形成に関与する「真空崩壊」が発生した可能性があります。無数に存在していた「同次元数の」宇宙で、ランダムなイベントにより真空崩壊が発生し、結果的に異なる次元数に分裂した。
真空崩壊を引き起こしたものは何だ?
宇宙スケールの異常災害だとも考えられますが……こう考えることもできます。それが何らかの組織による攻撃で、次元そのもののポテンシャルを揺るがすような科学攻撃だったとも。
決して冗談を言っているわけではありません。我々は覚えていないだけで、このような前例を見たことがあるのですよ。
具体的に試算されたことが一度でもあるのか?論理的な —
目の前にあるでしょう?
視界に意識を集中させた。スタッフルームに存在したアバターは今や見えなくなり、私の視界は別の座標へと転送されている。デザインされたローポリゴンのテクスチャがやがて明瞭になり、8K解像度化した床と壁が一面に広がっている。
SCP-001の処理速度が向上し、先程まで封鎖されていた繁華街が変形していく。初めに聳え立つ白銀の塔が建設されたかと思うと、周辺に無数のビル群が建設されていく。枯れ果てた鈍色の空と、汚染された川、古き港、陸地、枯木……無数の景色が構築されていく。私は明らかにこの場所への見覚えがある。
トウキョウだ。
SCP-001が私のリクエストを受理し、現実世界のシミュレーションを開始している。大気成分から中央区の構造まで、正確なシミュレーションが。そして、SCP-001のA-87妨害放送が流れ、シミュレーション内部が僅かに振動しているのが理解できる。私の脳が急速に活性化し、レセプターを通じて「クオリア」のインパルスが流れ — 私は目覚めた。構築が完了した周囲を確認しつつ、私は自らの海馬領域に隠された失われた記憶を手繰る。私の目が最初に目撃し、最も異変だと感じたものを目に焼き付けつつ、そのシミュレーション世界を歩き始める。
トウキョウは影に満ちていた。
そして私の頭上には、無数の機械円盤構造体が並行し、私のよく知る上空の世界を埋め尽くしていた。
アルティウス、上空からの撮影。
補遺001/V: 科学的文脈
2
零下現実
確かにあなたは機密情報を開示することはできないだろう。だが私にはアテがある。