Qのコンテスト参加Tale - 白銀の雪の中
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地上が分厚い氷の層に覆われたあの日から10年。僅かに生き残った人類は、世界を包む氷を掘削し、地下にコミュニティを作り、展開することで今日まで辛うじて存続を維持してきたのだ。

ここは青森第二コミュニティ。10代20代の人間が30人ほどと比較的所属者は少ない小規模なものだが、1つの独立した村として存続できる程度には活気づいたコミュニティである。

「食料が底を尽きそう?」

コミュニティの奥の方から驚きの混じった声が聞こえてくる。声の主はコミュニティのリーダーであるカワセのものだった。年齢未詳の男性であり、体格・筋肉量ともに並のカワセであるが、そのリーダーシップと信頼から青森第二のリーダーとして務めているのだった。

「はい、しばらく外に出ていないことも相まってか、食料不足に陥っています。このままだと、一週間持つか――」

カワセの横にいる小柄の青年――ハルトが告げる。水は氷を溶かしてそれを濾過することで確保できるが、食料はそういうわけにいかない。

青森第二は現状維持を理念としており、基本的に死者を出さないため外部に進出することは少なかった。しかし、それが裏目に出てしまった結果、食料不足の現状に至っているのだ。

「どうします、カワセさん。このままだと、青森第二の全員が餓死してしまいますよ」

場に沈黙が残る。しばらくして、開いた本を閉じてカワセが口を開いた。

「それだけはどうしても避けないといけないな。青森第一に協力を頼んでみる」

カワセはそう言い放ち、机の上に置かれていた受話器を手に取った。数回のコール音の後、受話器の向こうから声が発せられる。

『こちら青森第一。要件は何だ』

「こちら青森第二。こちらで食料が底を尽きそうになっている。少しでいいから食料を分けていただきたい」

『――わかった。だが、何故もっと早く連絡しなかった? 兆候を見て連絡する事だってできただろう』

「平気だとタカ括ってたんだよ。でも平気じゃなかったんだ」

『そうか――今度からは気を付けることだな。それで、どこで食料を受け渡す? ここと青森第二はかなり離れてる。どこかで落ち合って渡すのが一番早いだろう」

「それもそうだな――なら丁度中間地点の山間公園はどうだ」

『ふむ――いいだろう。了解した』

「ありがとうございます、では」

そう言って電話を切ろうとした時だった。

『一つ警告しておく』

「警告?」

『ああ。近頃、ここらで"雪神のともがら"という名の過激派組織が活動しているんだとか。殺しや拉致などもするとのことなので十分に気を付けてくれ』

「――わかった」

その一言を最後に、電話は途切れるのだった。

「カワセさん、どうでしたか?」

ハルトが尋ねてくる。カワセは素早く回答する。

「食料を分けてくれるとのことだ。出発は明日。ジンとユキにも伝えてくれるか。多分ジンは暖房設備、ユキは発電設備のところにいると思う。一応、護身用に銃は持っていてくれ」

「了解しました!」

その場にハルトの活気ある声がこだました。

ハルトが部屋を出て行ってしばらくしたころ。カワセは銃の手入れを念入りに行っていた。今のカワセには一つの不安がある。"雪神の徒"、殺しや拉致を行う過激派組織のことだ。こちらから死人を出さずに青森第一に辿り着けるだろうか。誰か死んでしまったのならどうすればいいのだろうか。不安が尽きることはない。

「……もう寝るか」

丁重に磨かれた銃を机の上に置く。そのままの足でベッドに向かい、カワセは泥のように眠るのであった。


翌日。カワセ達一行は地上に上がり、雪上バイクのエンジンをふかしていた。防寒装備とスノーゴーグルを着用し、バイクに跨る。メンバーはカワセ、ハルト、そしてジンとユキの四人。こういったことは少人数の方が動きやすいことをカワセは知っている。

「じゃあ、行くか」

北のまほろば歴史観の大通りから雪上バイクが動き出す。時速50Km。だだっ広い雪原を、風を切りながら四台のバイクが進む。

四台のバイクはあっという間に青森第二コミュニティから離れていくのだった。





バイクを走らせて数時間。筋肉質な体格を持つ男――ジンがバイクのエンジン音に支配された沈黙を破る。

「なあカワセ。何で銃を持てって言ったんだ?」

「それはだな、敵対組織がいるからだ」

バイクを走らせながら、冷静にカワセは答える。

「敵対組織? 漫画みたいだな。そんなもんがホントにいるのか?」

ジンは疑っているようだった。それを見透かしたかのようにカワセは続ける。

「ああ――確かに漫画みたいな話だ。だが、本当なんだ。信じられるだろう? 世界が突然雪と氷に覆われた――あのフィクションの一幕みたいな一日を体験したんだから」

フィクションのような一幕――それは2017年8月24日に起きた。あの日のいつだろうか。突如として世界は雪と氷に包まれたのである。季節問わず世界各地に雪が積もり、川や池、湖などは全て凍てついた。それと同時に世界規模での停電、インターネット切断。インフラを失うことになってしまうのだった。

世間はパニックに陥った。一部の人々――いわゆる陰謀論者が「政府の陰謀」だの「神の裁き」だの騒ぎ立てていたのはかなり印象に残っている。そんなディストピアな世界で人々は生き延びるべくコミュニティを構築したのだ。多くの人は都市圏にある東京第七コミュニティに駆け込み、西日本の人々は大阪や鹿児島のコミュニティへと身を潜めた。

時に協力し、時に対立することもあったが、今は基本的に平穏無事に暮らすことが出来ているといえるだろう。希少な食料や紙類を共有することも多々ある。今回の遠征も食料共有の目的で行ったものだ。

そんなフィクションのような地獄の、死に瀕した日々を過ごしたからこそ、漫画のような出来事が実際に起きてもおかしくないという共通認識が出来上がっているのだった。

「……確かにそうだな」

ジンは納得した表情を浮かべて頷く。

「あんな地獄みたいな日々を過ごしたらね。いやでも信じちゃうでしょ」

ユキが笑いながら呟く。それに呼応する形で「まあな」などといった相槌、笑い声が響き渡る。






現在地点は県営住宅前――目的地まであと半分。このペースだったら今日明日には中間地点には着くだろう。

そう考えていた時だった。

カワセが目の前の、雪上バイクに乗った集団を発見する。その集団は変なマークの付いた真っ黒な防寒ローブという典型的な"怪しいやつ"の恰好をしている。

100m、50m、25m、10mと前の集団との距離が縮まっていく。無論、怪しい格好の奴にカワセは関わる気はない。

そして、追い越したとき。カワセのバックミラーに拳銃のような何かを持ったローブの男が映る。ローブの男は銃を構え、トリガーに手を掛け――

「ジン!よけろ!」

「!!」

ジンが咄嗟に車体を横に移動させる。次の瞬間、その横を銃弾がかすめ、通り過ぎていく。

「お前ら、何者だ?」

バイクを走らながら、カワセは後方の不審者集団に問いかける。

「我らは、"雪神の徒"――神の意向を汲む者なり」

「"雪神の徒"――!」

不審者集団がカワセに言い放ったのは、青森第一から警告された過激派組織の名前と同じものであった。

刹那、カワセが後続のジン、ハルト、ユキに命令する形で言い放つ。

「お前ら、逃げるぞ!」

そう言って、カワセはスピードを加速させる。時速70Km。それにつられる形で、後続も速度を上げていく。

「カワセさん、あいつらが――」

「ああ、さっき話した敵対組織だ。どうやら殺人や拉致なども平気で行うらしい」

「ヤバいやつじゃん」

ユキが呟くように話す。確かにヤバいやつであることには変わりはない。だからこそバイクを走らせ、奴らを撒こうとしているのだ。時速は80Kmを優に超えている。そう簡単に追いつけないだろう、とバックミラー越しに背後を確認する。

そこには、カワセ達と同等の速度を保った状態で後を付けてくるヤバいやつらの姿。

「クッソ、ついてくんのかよ」

カワセが吐き捨てるように呟く。直後、後ろから発砲音が鳴り、カワセの頬を放たれた銃弾がかすめる。頬から血が滴る。

「カワセさん!」

ハルトが叫ぶようにして声をかける。その表情は心配しているようである。

「大丈夫だ」

頬の血を拭い、答える。そう言ったカワセの手には拳銃が握られていた。

「あいつらから仕掛けてきたんだ。不可抗力ってことで」

カワセがトリガーを引く。弾丸は空を切り、背後のローブ男の眉間に直撃する。刹那、ローブ男の眉間からとめどなく血があふれ出し――その場にバイク諸共倒れ込んだ。

「……神の意思に逆らうのですか?」

リーダー風のローブ男が問う。

「神の意思がどんなものか分からないが、応えるつもりはないな」

カワセが答える。直後、ローブ男の手からナイフが生成される。

「どういう原理だ? 手からナイフが――」

「これは神のお力なのです。私達は神のお力によって人ではできないことだってできるのです――こんな風に」

ユキ目がけてローブ男の手からナイフが射出される。ナイフは加速していき、瞬く間にカワセ達の真後ろに――

――到着する直前、カワセの放った銃弾によってナイフが弾かれる。

「マジでなんなんだよ、手からナイフ出すとかマジシャンか?」

ジンが言い放つ。バイクはひたすらに一直線の道――ベイブリッジ下を進む。時速90Km。ここまで来たら逃げ切ることは不可能。迎え撃つしかないのは皆がわかっていた。

「どうする、カワセ。迎え撃つしかねぇんじゃねえか?」

「とっくにそのつもりだ」

後ろを振り向き、トリガーを三回引く。連続する銃声と共に連鎖的にローブ男たちが倒れだす。辺りを満たしていた真白な雪が赤く滲んでいく。

█████████

ナイフ男が何か、聞き取ることが出来ないノイズを発する。と同時に、空間を舞っていた雪の結晶が固まりナイフを形成していく。

「ジン!」

「あいよ」

カワセの呼びかけに呼応するようにジンが車体を斜めらせ、ドリフトを決める。時速90Kmの速度下、通常であればバイクは大破するはずである。だが、それを可能にするのはジンのバイクテクニック。かつて、プロのバイクレーサーだったジンだからこそできる技だ。

ガリガリガリ、という氷の削れる音と共に氷の上の雪が舞い上がる。後方には雪で出来た壁。視界を塞ぐのには十分なものだ。

「これで少しは足止めできるだろ」

直後、雪の壁を切り裂くようにナイフが七本飛んでくる。ナイフを避けるようにしてバイクを走らせ、それを回避し、ナイフが飛んでこない隙を狙って素早く銃弾を叩きこむ。手ごたえあり、数人は殺れただろうか、と思ったのも束の間、背後には風穴の空いた雪だるまが置かれていた。

「は? なあカワセ、さっきまであんなとこに雪だるまあったか?」

「いや――ないはずだ。あったら、俺たちはどこを走っていたと言うんだ?」

だが、確かにそこには雪だるまが置かれている。直後、ナイフ男がこちらに向けて言い放つ。

「これも神のお力です。神の力なき貴方達にはかないませんよ」

確かにこれは神の力だ。トリックなんかじゃないだろう、と脳内にて考えが巡る。

その思考を上書きするかのように、辺りを粉雪が包んでいく。視界はまさにホワイトアウト。先方1mすら見えない状態。

「ハルト、頼めるか」

「はい、行けます」

カワセがハルトに対して指示を飛ばす。ハルトは掛け鞄からライトを取り出し、部隊の前に出ていく。ハルトがライトを三回点滅させる。雪上では何が起こるか分からない。視界が阻まれた時のために予めカワセ達はライトを用いた連絡手段を確立しているのである。

ライトが三回点滅した場合は「前に障害物あり」。素早くその旨をジンとユキに伝達し、障害物を回避する。その後、計七回のライトの点滅を経て、ホワイトアウトから脱することに成功した。

目の前には、バイクに乗っているマフラー男。手からは雪が展開されている。

「お前が雪を出していたのか」

カワセが問いかける。マフラー男が答えることはない。

「少しもお喋りしたくない、と」

そういってカワセは銃を手に取る。次の瞬間、マフラー男は以前にも増して大量の雪を展開し、カワセの視界を塞ぐ。一寸先も見えない状態だが、フォーカスはカワセに絞られていた。

「ジン、任せた」

「了解」

ジンに一言声をかけ、カワセは走行に集中することにした。ハルトのお陰で先が見えずともバイクを走らせることはできる。ジンは更に速度を上げ、マフラー男と並走する。

「なぁ、マフラー野郎」

男が答えることはない。

「カワセにだけフォーカス絞って大丈夫なのか?」

男は怪訝そうな顔で答える。

「何を――」

「ようやくしゃべったか。まあいい、俺だって得物は持ってるんだぜ?」

「まさか――」

言い終わる前に取り出したナイフを首元に当て、勢いよく掻っ切る。バイクの加速のお陰もあってか、凄まじい勢いで鮮血が飛び散っていく。すぐさま男は止血をしようとするが、止血前にこめかみにナイフをねじ込む。脳漿が飛び散り、辺りにピンク色の何かが散乱する。

男がバイクの下敷きになる形で地面に倒れ込む。直後、カワセの視界を塞いでいた大雪は途絶えてなくなる。

「やっぱりアイツが雪を出してたか」

ジンが男の死体に対し呟く。ジンの顔は返り血に塗れて真っ赤になっていた。

そんなジンを見て、カワセがあることに気付く。

「ジン、腕――」

「あ?」

ジンの腕――大体上腕二頭筋の辺りから血があふれている。防寒装備が千切れ、右腕の服はなくなっていた。前方には、氷でできたナイフ。

「――ッ!」

ジンを痛みが襲う。いつやられた?どのタイミングで?と思考を回す。恐らくはマフラー男を殺した時だろうが、出血しているパニックからその思考に至ることはなかった。

「ジン、大丈夫か」

カワセがジンに近づき問いかける。ジンは腕を抑えたまま、「ダメそうだ」と答える。

「ハルト、ユキ、一時撤退するぞ」

このままではジンが失血死してしまうかもしれない、と考えたカワセは撤退命令を出す。流石に不利すぎる、逃げなければ。

「「了解です」」

呼応するように返答する。ジンをカワセのバイクの後ろに乗せ、左に旋回して走り去る。その後を追うようにしてローブ男たちが追尾する。

「ついてくんなよなぁ」

ユキがそう言い、ポシェットから球状の何かを取り出す。それに結び付けられている導火線に、マッチの火を灯し、背後に投げつける。

「なんだ――」

ローブ男がそう言いかけたとき――


――背後に大きな火柱が上がる。

「――ッ! 爆弾グレネードですか!!」

ナイフ男が苦虫を嚙み潰したような表情で言い放つ。その周りには焼死体と化したローブ男達が転がっている。

「大正解! まだまだあるよ――」

ユキは笑いながら火のついたたグレネードを後方に投げつける。導火線を火が伝い、火薬に着火する。背後には三本の大きな火柱と煙。辺りを硝煙の香りが満たしていく。

「どこまで神を侮辱すれば気が済むのです?」

ナイフ男が再びノイズを呟く。ますい、ユキがそう思った刹那、カワセが銃弾を連続で打ち出す。打ち出された銃弾は形成中のナイフに直撃する。ナイフは砕け、地面に砕けた欠片が音を立てて落ちていく。

「もう仲間には手出しさせねぇよ」

そう言い放ったカワセの目には覚悟が宿っていた。しかし――

「カワセさん! 前!」

ハルトがカワセに対して叫ぶ。視線を目の前に戻すと、そこにはバイクに乗ったローブ男が待ち構えていたのである。

「挟み撃ちですよ。これで終わりです」

ナイフ男がとどめを刺そうと巨大なナイフ――正確には剣を精製する。

挟まれてしまい、進行しようにも妨害を受ける状態。すれ違いざまにナイフでも出されればダメージを受けてしまう。まさに絶体絶命の状況に陥ってしまった。

「カワセさん、どうすれば」

ハルトが困惑――どちらかといえば絶望だろうか――の表情を浮かべる。だが、カワセは諦めるつもりはない。

「ユキ、グレネード前に投げれるか」

ユキに対して問いかける。

「投げれるけど――こっちだってこの距離じゃ巻き込まちゃうじゃん」

「大丈夫。何のための改造バイクやこの装備だ。お前が作ったんだから大丈夫だ」

カワセの目はいつにも増して真っ直ぐである。

「わかった――」

そう言い、ユキは導火線に火をつけ、前方に投げつける。直後、大きな爆発音が鳴り響き、辺りを黒煙が包み込む。

「自爆、ですかね? やはり愚か――」

ナイフ男がそう言いかけたその時。

黒煙が晴れ、向こう側に影が映る。そこには無傷のカワセ達がバイクに乗って逃亡をしている光景があった。

「何故無事なのです?」

ナイフ男がカワセに向かって問いを投げる。カワセは自信ありげな表情で答えるのだった。

「何故、って。これはユキが作った装備とバイクだからな。そう簡単に壊れねぇよ」

答えた後、カワセ達の後ろに雪崩が発生する。恐らくグレネードの爆発で青森ベイブリッジが崩落したのだろう。ナイフ男を遮るように出来た雪の壁のお陰でカワセ達は逃げ切ることに成功した。



ラビナ跡地の中に仮設キャンプを設営する。今日はここで一夜明かすぞ」

カワセはそう言いながら持ってきたテントハウスを設置するのだった。辺りに杭を打ち込む音が鳴り響く。

一方で、ハルトはジンの怪我の手当をしていた。

「大丈夫ですか、傷は深いけど神経をやられなかったのはラッキーですね」

しめるようにしてジンの腕に包帯を巻きながらハルトが言う。今は応急処置だが、帰還したら縫わないといけないだろう、と考えているとき。

「ああ……ホントにわりぃな。油断してたわ」

ジンが笑いながら、独り言のようにつぶやく。だが、その表情はどこか悔しそうに映る。

「兎に角、作戦を立てないとな。次に無策でやりあっても殺されるだけだ」

カワセが皆に言い放つ。キャンプの前に灯った火を囲むようにしてカワセ達は会議を始めた。

「まずだが、あいつらのボスはあのナイフ男と考えていいだろう」

「確かにそれはそうですね」

カワセが言い、ハルトが応答する。ジンは腕を押さえながら語るのだった。

「ホントにわりぃ。一人獲ったと思って油断してたわ。俺は昔から変わってねぇな」

「待て、昔の話よりもこちらが優先だ」

カワセがジンの昔語りを制止する。ジンは「確かにな」といい話を変えるのだった。

「アイツ――ナイフ男と戦って分かったが、多分何か弱点あるな」

「弱点?」

ハルトが問う。

「ああ。戦闘中なんとなく違和感を覚えたんだよ。弱さを必死に隠してる奴の違和感をな」

「例えば――ナイフの生成数に限度があるとか」

ユキが分析し、固まった仮説を言う。

「何故そう思うんだ?」

カワセが問う。

「いや――なんとなくだよ。でも、バイクがガソリン切れたら走れなくなるのと同じ原理だと思う」

「なるほど」

「あとは攻撃と防御が同時にできない、とか? 現にアイツさ、ナイフと雪だるま同時に出してないじゃん」

「確かに」と全員が頷く。

「じゃあ、どうする? ナイフが出なくなるまでよけ続けるか?」

カワセが案を告げる。しかし、それに反発するようにしてジンが反論を言うのだった。

「流石に全弾避けるのはきついし、もしナイフの生成数に上限がなかったらどうするんだ? じわじわ追いつめられる一方だぞ?」

「じゃあどうするんだ? こっちだって銃弾は少ない。5スタック分のマガジンしか持ってきてないし、帰りに別のやつらと会わないとも限らないだろ?」

「ユキのグレネードがあるだろ――」

「待ってください! 今は喧嘩なんてしてる場合じゃないでしょ?!」

ハルトがヒートアップするカワセとジンの言い争いを仲裁する。

「確かにそうだな。わりぃ、頭に血が上っちまった」

「俺もだ。申し訳ない」

カワセとジンの口論が収束する。カワセ達は一時間に渡り作戦を推敲し、内容を決定するのだった。

「じゃあ、ユキとジンは遠巻きから銃を撃ってけん制してくれ。俺とハルトはナイフを避けつつ攻撃してみる」

「了解です」

画して、2時間に渡る会議は幕を閉じたのだった。





ユキはバイクの燃料充填を行っていた。

「バイクの改造でもしてるのか?」

カワセが声を掛ける。ユキは作業を続けながら答える。

「そうだよ。万が一、またあのヤバいやつらに遭遇した時のためにね」

辺りには作業音だけが木霊する。なにやら、小さな大砲のようなものをバイクの前方に取り付けているようである。不思議そうにカワセが問いかける。

「これは何だ?」

ユキは手を止めることなく答える。

「あー、これ? 杭を打ち出す大砲、ってところかな」

「大砲か」

「うん。あのナイフ男をぶっ殺せるようにね。アイツが仕切ってるぽいから仕留めれば終わるかな、って」

「確かに銃弾は弾かれるが、杭なら弾かれないからな。それでナイフ男ごと殺すと」

「そゆこと」

しばらくその場に沈黙が残る。

しかし、沈黙はユキの笑い声で破られるのだった。

「どうした?」

突如笑い出したユキに対してカワセが心配して声をかける。

「いや、カワセさんとジンが口論してるの久々に見たなぁ、って」

「あ――確かにな。あそこまでヒートアップしたのも久々だしな」

元々、カワセとジンは別々のコミュニティに所属していた。ユキとジンはバイクレース関係で繋がっており、ジンが乗り回したバイクをユキが修理していたという。

出会いは、カワセが青森第二に保護された時だった。同じ青森第二に所属していたジンとユキは保護されたカワセを相当訝しんでいた。別コミュニティのスパイではないか、などの疑惑が出て回るほどにはカワセはなじめていなかったのだ。当時は喧嘩なんて日常茶飯事だった。

青森第一への遠征の際の接敵、共闘があってからは互いを信用するようになった彼らがここまで感情を見せることなんてそうそうなかった。そんな懐かしさの片りんに、ユキは触れていた。

「懐かしいなぁ。喧嘩しまくってたのに」

「男の友情ってやつよ」

「なにそれ」

等と、ユキと談笑するのだった。しばらくして

「ま、改造もほどほどにな。明日で向こうまで到着させるからな」

とカワセは告げる。椅子から立ち、カワセはキャンプの方を向いていた。

「あい、了解しました」

そう言って、カワセはキャンプの方に歩き始める。ジンのためにも明日でケリをつける、などと考えながら。



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「じゃあ、そろそろ行くか」

「あい」

軽く応答をし、バイクのエンジンをかける。時速70Km、若干急ぎながら走行する。

二時間ほど走ったころだろうか。丁度アスパム前の通りを走っていた時。

「……チッ」

前方に見覚えのある男がいることにカワセが気付く。そこには確かにあのナイフ男が存在していたのだ。

「またお前かよ」

「おや――また会いましたね」

直後、カワセの真横をナイフが通り過ぎる。カワセはバイクを右に動かし、飛んできたナイフを回避する。回避すると同時に一発発砲。銃弾はナイフによって弾かれてしまう。

「大人しくやられといてくれよ、こっちは急いでるんだ」

カワセが言い放つ。ナイフ男は連続でナイフを精製し、腕で押し出すようにしてナイフを射出。ナイフはバイクのタイヤに直撃し、カワセはその場に転倒してしまう。

「カワセさん!」

ハルトがカワセの元に近づき、安否確認する。それに応えるようにカワセが呻き声を発する。

「いってぇな――」

すぐさま起き上がり、三回発砲する。ナイフ男は銃弾を精製したナイフで弾くも、一発は後方車輪を貫通するのだった。ナイフ男がバイクを捨て、カワセの正面に立つ。

「なんでここまで邪魔すんのさ」

カワセが男に対して問いを投げかける。舞台は青い海公園。負ければおそらく凍てつく海の氷の下に沈められるだろう。

「神の意向に従って行動してるだけですよ――邪魔してるのは貴方達じゃあないですか」

「そうか――」

一瞬で距離を詰め、男に拳を叩き込む。――が、そこには雪だるまが置かれている。すぐさま雪だるまを蹴り上げ、背後の殺気に対して銃を一発。飛んでくるナイフを銃弾で弾き、距離を詰める。カワセがその場に落ちたナイフを拾い、切りつけるようにして男に拳をぶつける。

しかし、拳は男のローブを掠めるに過ぎない。直後、カワセの腹部に鈍痛が響く。男はカワセに対して殴りを入れ、ナイフを額に突き刺そうとしていた。しかし、カワセはひるむことなくカウンターを鳩尾に叩き込む。男がひるんだ隙をついて、距離を取り、二発弾丸を打ち込む。

男は放たれた弾丸に対してナイフを飛ばし、相殺する。

カワセとの距離を縮め、膝にナイフを捩じり込もうとする。カワセがその手を蹴り上げ、ナイフを上空にかっ飛ばす。すかさずナイフを男の胸に突き立てる。男はナイフを胸の前に精製し、それをはじき返す。直後に男の顔面に拳を叩き込む。

男は倒れ込むも、すぐに起き上がってナイフを投げつけてくる。それを銃弾で弾き、さらに一撃、下腹部をぶん殴り、遠方に吹っ飛ばす。追撃を与えようとして男の下に駆け寄る。

「死ね」

そう言ってトリガーを引いた時。


カチッ

「クソ――弾切れか」

すぐさまリロードしようとしたが――。

██████!」

ナイフ男が聞き取ることが出来ないようなノイズに包まれた何かを発する。ノイズ音が止むと、カワセの背に固く冷たいものが当たる。

「大気中の水分を固めて精製した氷の剣です――これで貴方を貫きます」

このままだとカワセが殺されてしまう――直感でそう悟ったのか、助ける方法を探るため脳内の過去の記憶を掘り起こす。その記憶の中――ジンがあることに気が付く。

――「あとは攻撃と防御が同時にできない、とか? 現にアイツさ、ナイフと雪だるま同時に出してないじゃん」

「そうだ――ユキ!」

「なに? 急に」

そうして、少しの間耳打ちをして何かを伝えていく。ジンが伝え終えた後、ユキは目を見開いた状態でこう言った。

「無理無理無理、それじゃカワセさんも……! それにそんな確証ないし――」

「無理じゃねぇ。お前ならあいつだけ撃ち抜くことできるだろ。 それに――そうしないでみすみす死ぬよりかはマシだ」

「できるけど――」

「じゃあ、頼んだ。現状打破の手段はそれしかないんだ」

「――わかった」

すぐさまユキはバイクの方に駆けていく。バイクを起こし、ナイフ男に対して照準を合わせる。

「あの愚かな人々は何を言っていたのです?」

カワセに対してナイフ男が問いただす。カワセは乾いた笑いの後に返答する。

「ははっ、あんたを殺す方法だよ」

「神の遣いを殺すなどできないでしょう。なぜなら――」

男の発言を杭の射出音が遮る。目の前には心臓を真横からぶち抜かれた男。杭の先端からとめどなく血が溢れ足元を赤く染め上げる。そのまま男は横たわるようにしてその場に倒れ込んだ。



カワセ達は青い海公園の雪原の中にナイフ男の死骸を埋め、黙祷する。土に還ることはできないが、神に会うことはできるのではないか、というカワセなりの思いやりの行動だった。

いつしか、その行動は青森第二の人々に染み込んでいた。敵であろうと、家畜だろうと弔いの心を忘れないことが
いつしか青森第二では常識となっていた。

「じゃあ、そろそろ行くか」

カワセが黙祷を終えてハルトのバイクに跨る。ハルトを後ろに乗せ、エンジンをふかし、時速60Kmで発車する。

「それにしても、災難でしたね」

ハルトが呟く。

「確かにな。あんな奴らがいて襲い掛かって来るとかフィクションの一幕を体験した俺らでも想像つかないな」

「それはそうだな」

ジンが答え、カワセが相槌を打つ。

――今回の戦闘ではこちらから死者は出なかったものの、仲間――ジンは怪我をしてしまった。あの時、もしナイフが腕でなくて心臓に刺さっていたら。杭が少しずれて俺に刺さっていたら。

カワセは心の中で自問自答を繰り返す。答えは出ることはないかもしれない。でも考えずにはいられなかった.

しばらく無心でバイクを走らせる。目的地店は間近。


「カワセさん! 着きますよ!」

気が付いたころには合浦公園についていた。目の前にはw青森第一の遣いが立っている。



案の定、青森第一の遣いは俺達の様子を見て困惑しているようだった。何せ、俺の頭から流血してたり、腕に血のにじんだ包帯巻いてるジンがいるからだ。

そして、何かを察したように遣いが静かに告げる。

「その怪我――"雪神の徒"に会ったのですか」

「ああ。まあこっちから死人が出たわけでもないし大丈夫だ」

「そういう問題じゃないと思うのですが――流血している人を見て大丈夫ですね、とは言えないでしょう」

「まぁ、確かにな」

「治療しなくて大丈夫ですか?」

「んー、まずいかも」

等と談笑し、食料を受け取る。

青森第一の遣いによってコミュニティ――丁度浅虫水族館跡地の辺りに案内され、医務室と思しき部屋に運ばれる。室内には白衣を着た医者姿のおっさん。怪我のひどい俺とジンを診察し、症状を伝える。

「えーっとですね。カワセさんが、眼底骨折。ジンさんが筋肉断裂ですね」

思ったよりも症状がひどかったが、処置を受けたことで幾分かマシになった。

医者に感謝を告げ、青森第一をあとにする。

その後はバイクに跨り、青森第二コミュニティに帰還するのみ。

「帰ったら祝杯でも挙げるか」

今回みたいなことがまた起こるかもしれないし、今回のように上手く行くとは限らない。もしかしたら死者が出てしまうかもしれないし、この手の敵対勢力がいつ力をつけ襲撃してくるのかも分からない。最悪、青森第二が壊滅してしまうかも知らない。それでも――



――俺は命を懸けて戦い、死んでも仲間を守り抜く。

そう決意し、俺たちは夕暮れ空の向こうへと消えていった。

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