見様見真似の扶桑紀色変更
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渡辺白泉

赤く青く
黄いろく黒く
戦死せり



皇紀弐千六百五年 九月拾弐日


振り仰いだ空は鈍色に、我々の胸中を暗示しているかのような重苦しさで圧し掛かってきた。
季節外れの寒気吹きすさぶ東京の街を急ぎ足で歩く人影は少ない。誰も彼もが怯えきっていて、半ばやけを起こしたように足を突き出して進んでいく。
我々三名も例外ではなく、見咎められぬ様に足早に行く。カーキ色の国民服は世辞にも暖かいとは言えぬ薄さで、この寒波に襲われる秋口にはまったく適当ではなかった。とはいえ、これを着ないことには出歩くにも難儀する御時世なのである。

「ここだ」
「応よ」

二歩先を行く南方みなかたが示す。我々もまた頷く。通りの向こう、見覚えのある真四角の建物が灰色の姿を晒している。
焼け残りのけ残り、などと口さがないものに噂される日比谷の一帯には、親不知おやしらずとまで言われた交通難所の面影は既にない。トラックの群れがそこかしこでオイルと鉄の汚らしい臭気を撒き散らし、ワイワイと無作法に叫ぶ人影が引っ切り無しに出入りする。
それに活気を感じられぬのは、偏に我々の心情によるものか、あるいは──それらの言葉がすべて異国のものゆえか。

「入ろう」

同い年の研儀官の密やかな声に、我々は従容と頷くほかない。
日比谷第一生命館。かつて陸軍の司令部だったここは、今やGHQと呼ばれていた。

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