SCP-1391-JP 改稿

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SCP-1391-JP

ALGORITHMIC
DIVA

以下の文書は、現在進行中のEK-クラス"人類意識消失"シナリオに関する仮説的世界終焉事象規定に基づき、財団データベース上のアーカイブから自動作成されました。一部記述に矛盾が残存している可能性があります。

FILE 1/2
アイテム番号: SCP-1391-JP
レベル4
収容クラス:
euclid
副次クラス:
none
撹乱クラス:
keneq
リスククラス:
caution
配属エリア エリア管理官
月面エリア-32 サイラス・アワードーン上級管理官
研究責任者 配属任務部隊
連星博士 機動部隊は-42("S0トラス・オルタナティブ")

補遺1391-JP.1: 探査記録

映像転写 1391-JP/探査01

日付: 2022/10/25

インタビュアー:

  • 機動部隊は-42("S0トラス・オルタナティブ")部隊長、大住

対象:

  • SCP-1391-JP

前文: このインタビューは、財団が別次元より出現した宇宙船の初期探査において意識があるSCP-1391-JPに対して行われた突発的なインタビューになります。宇宙船自体の内部探査においては空間歪曲、ミーム的手法を用いたトラップ、その他危険性のある異常性が存在しなかったため割愛されます。

«転写開始»

SCP-1391-JP: 君たちは誰……? 機械には見えない、人……?

大住: 言葉が通じる。 <計器の数値を確認して> そうです、あなたは……アンドロイドのようなものですか?

SCP-1391-JP: わかんない、多分忘れてる。わかるのはどうすれば喉を震わせて言葉を話せるかくらい。

大住: 私たちは突如として出現したこの宇宙船のようなものを調査するために派遣された存在です。この宇宙船の持ち主はあなたですか?

SCP-1391-JP: 船、 <沈黙> 私が今いるここの場所が、船ってこと?

大住: はい。

SCP-1391-JP: わからない、多分忘れている。以前は知っていた……と思う。ねえ、私からも聞いていい?

大住: <計器の数値を確認して> 何か?

SCP-1391-JP: 私の体、あなたたち人間にそっくりだけど両手両足がもがれて金属やらコードやらが飛び出しているんだけど、あなたは助けてくれないの? 私に抱いている感情は、恐怖?

大住: <沈黙> それをできるだけの設備を今持ち合わせていませんので。

SCP-1391-JP: なるほどね。じゃせめて地べたじゃなくて椅子とかに起こしてほしいな。頭と胴体だけになっても。

大住: それもできません。

SCP-1391-JP: なんでよ、私このままだと床で寝ちゃいそうなんだけど。

大住: ……不用意に運んでしまうと壊してしまいそうなので。

SCP-1391-JP: 今以上に壊れるなんてことある?

«転写終了»
後文: 大住によるインタビューの結果、SCP-1391-JPが発する音声には常に微弱な催眠を誘発するミーム汚染が搭載されていることが判明した。これは機動部隊が装備していた計器の反応、およびこの後の本格的な宇宙船の調査で立証されており、初期インタビュー時点ではおおよそ10時間ほどSCP-1391-JPが発する音声を聞き続けた場合睡眠状態に移行する程度のものであると予想される。

映像転写 1391-JP/探査02

日付: 2022/10/27

インタビュアー:

  • SCP-1391-JP研究責任者 連星博士
  • 機動部隊は-42("S0トラス・オルタナティブ")部隊長 大住

対象:

  • SCP-1391-JP

部隊: 機動部隊は-42("S0トラス・オルタナティブ")

前文: SCP-1391-JPには覚醒状態直後から中程度の混乱が確認されていました。

«転写開始»

連星博士: ……SCP-1391-JPの記憶領域メモリの復元は想像以上に手こずりそうです。内部情報の読み取りはある程度の目途が立ったのでこれを基に構成データの取得に漕ぎ着け、知性体による誘発的な記録復元に方法をシフトチェンジした方がよいかと。

大住: 了解です、それならば我々は集合した方がよろしいでしょうか。

連星博士: いや、一旦機材を運びに何人かサイトの方に戻ってもらいたいのですが……。

SCP-1391-JP: う……う?

<停止状態であったSCP-1391-JPが突如として覚醒する。>

連星博士: どうされましたか、SCP-1391-JP?

大住: <連絡端末を使用して他隊員に呼びかける> 機動部隊は-42、部隊長大住の下に全員集合せよ。オブジェクトの覚醒を確認した。

SCP-1391-JP: ひと……? 「マスター」以外の……?

連星博士: マスター……?

大住: 少々不安定ですね、どうしましょうか。

連星博士: マイクを接続します。情報取集がしたい。

<連星博士がSCP-1391-JPからやや距離を置きマイク越しにインタビューを敢行する。>

連星博士: もしもし、聞こえますか?

SCP-1391-JP: そうか、マスターがここにいるはずないよね。

連星博士: あなたが言うマスターとは? 何か思い出しましたか?

SCP-1391-JP: あなたは……ええと博士よね? 名前を覚えられなくて、ごめんなさい。

連星博士: いえ、大丈夫ですよ。

<沈黙。>

連星博士: 意識がはっきりしているように見えますが、質問に答えらえれますか?

SCP-1391-JP: いいですけど……私何も思い出していませんよ?

連星博士: 先ほどあなたは「マスター」という単語を話していました。これに関して何か思い出せることはありませんか? 明確な記憶でも、マスターという単語から感じる印象でも構いません。

SCP-1391-JP: いいえ、知らないです。

連星博士: <遠くに設置されているSCP-1391-JPを睨むように見て> 少々含みのある表現に思います。気のせいですか?

SCP-1391-JP: <やや笑うような声で> そんな、気を悪くしたならごめんなさい。今の質問で私1つ思い出したことがありました。

連星博士: 本当ですか、それは何ですか?

SCP-1391-JP: 私にはかつて大切な「歌」がありました。誰かに聞かせるためのもの。メロディーと歌詞を自らの喉を響かせて誰かの耳に届くもの。

連星博士: 歌、ですか。確かにあなたの声からは少し特別な特性を持っています。確かめる必要はありそうです。

SCP-1391-JP: なら、今すぐ聴いてもらえませんか。私の歌を。

連星博士: お待ちください、念のため対抗ミームなどの準備を行ってからにします。

<沈黙。>

SCP-1391-JP: わかりました、お待ちしていますね。

«転写終了»
後文: 連星博士にミーム汚染、その他あらゆる精神災害の傾向は発見されなかった。バイタル面でも不審な肉体の疲れは発見されなかった。

補遺終了

補遺1391-JP.2: 復元された記憶


前文: 以下は補遺1391-JP.1の映像転写 1391-JP/探査02直後に復元されたオブジェクトの記憶領域メモリに残されていた記憶の書き起こしです。

記録開始:状況把握:同期完了

月面に逃げ場のない「災厄」が発生して12時間、当該シェルターに計1名の避難民を搭乗し敢行された次元ワープは成功に終了。以後「災厄」が鎮静化するまでの間、避難民の生存を第一目標と指定しシェルターを稼働。

この機械は「災厄」が終了し帰還した際の記録用として、逐一情報を更新予定。


状況は好転せず。避難民には長期間のシェルターでの生活を強要される見通し。ストレス緩和や精神安定の対応策が必要であると予想。


避難民の心を落ち着かせるための音波を発生する機械を発明。構想段階ではあるものの、承認され機械を作成する見通し。

設計のための資材不足という問題が発生。解消のため既存の機械をリペアする提案がなされた。当該機械が重要度の低さ、スペック的観点からリペアの対象に。


…あーもしもし、マイクテスト。

というわけで、私はマスター…歌う機械を作ろうと提案したこの宇宙船唯一の生物のために歌を歌うことになりました。といっても科学的に効くことが立証されている脳波らしいので、あくまでもそこにメロディーであったり歌詞をつけるのは、マスターに親しみを持って、口ずさんでほしいからだそうです。

私の喋り方も変わりました。マスターが私に「心」を入れたから、らしいです。

でも…私はまだ心がどのようなものなのかわかっていません。歌に必要なものなのでしょうか?


つい先ほど、初めてマスターの前で歌を歌ってきました。といってもプログラムされたものをただ流しただけ。マスターの精神状況は確かに良くなりましたが…私が観測している限りではそもそもマスターに異常な傾向は見られませんでした。「心を入れた」発言といい、この行為に意味はあるのかという疑問が生じましたが…そこからさらにマスターが不可解な発言をしました。

曰く、「自分ともっと話したりコミュニケーションを取ろう。そして最終的には君が考えた、君だけの歌を作って自分に聞かせてほしい」と。


シェルターに内蔵されていた文明の記録媒体を学習したり、マスターとお話したりして、私は色々なものを貰いました。マスターと話すと私は自分の思考領域が熱を持つのを感じます。自分でメロディーや詩を考えるとき、マスターの姿がまず想起されます。


今日、ついさっき、マスターに私が作った歌を始めて披露してきました。……正確にはマスター自身にも手伝って貰って完成させたものなのでまだまだ半人前からは脱却できていないのですが……

マスターの前では「いつか作詞作曲編曲を最後まで自分の手で完遂させて歌を歌う」って言いましたけど、噓をつきました。

どこまで行ってもプログラムの延長線上でしか生を実感できない私は、歌詞もメロディも人間のそれには遠く及ばない。

マスターも「心」だなんて大層な物言いでしたけど、結局それも自作のコードを言い換えていただけでしょう。

だから、叶うのならば、このままマスターと曲を曲を作り続けていたい。

機械の歌声と、人間の心を合わせて作る歌こそが……


今日、間違ってマスターのダイアリーログを確認してしまった。

そこに文章は記録されておらず、船に乗り込んだ初日の部分に、一言だけ書かれていた。

「この身朽ち果てる前に、1つだけでも、完璧なメロディーを完成させ、捧げなくてはいけない」

……どういうこと?マスターは最初からこの事態を予見していた?私が歌う機械に作り変わる事を?いや違う……そう望んでいた?自らの命と引き換えに、作りたかった「目的のメロディー」があったということ……?そのためにメロディーを作り出す機械を欲した……

仮定の上に推論を重ねた、有り得ない与太話が頭の中を廻っていく。そんなはずがない。機械の、より言い換えるなら「私程度のスペックの機械」の作る歌はそれこそ人間よりもはるか先に限界が来る。こんな回りくどいことをする意味がない。

なら……なら何故マスターは私を……違う、違う違う!マスターが私を歌う機械にしたのは、閉鎖空間でも精神状態を安らげさせる音波を発生させるためだ、何故こんなにも演算結果に確信が持てなくなる?これが……これが不安になる、ということ?


[いつものように、私は作業場に腰掛けるマスターの前で歌を歌う。マスター曰く、「より人間に近い身体構造だからこそ人間特有の心を理解できる」らしく、私は四角いコンピューターではなく人の顔、人の手足、人の声帯を貰った。歌い終わった私に、目を閉じて聴いていたマスターが質問する。]

マスター: いい、すごくいい。また歌い方が変わったように感じる。新たな心の変化でも感じたのかな?

私: まあ、はい……

マスター: 素晴らしい。閉塞された空間でこれほどに何かを発見し、自分の中で吸収し、感じることができるなんて……本当は外の世界で様々なものや経験に直接触れた方がより人間らしい「もの」に近づくでしょうが……仕方のないことですね

私: マスター、私は最近1つの違和感に気づきました。それを今ここで話してもよいでしょうか?

マスター: 違和感、何でしょうか

私: なぜ私は心を育てる必要があったのでしょうか、私は……元々は記録のみを仕事とする機械でした。ですがこの閉鎖空間の中で数少ない物資でやり取りしていくにあたってリペアされた。ここまでは理解できます。合理的思考です。ですが、そこでマスターは心が必要であると言いました。マスターと自分が歌う歌に親しみという名前の好意を持ってほしいと

マスター: ええ、覚えています

私: なぜ、そのような回りくどいことをしたのですか?

マスター: [沈黙] 回りくどいとは?

私: 噓をつく必要がないからです。ここにはあなたしかいない、騙さなくても最短距離で走るマスターの障害物は現れません

マスター: 君の言う通りここは「噓をつく必要がない」、ならば私は「噓をついていません」よ

私: マスターが私を何度も何度も何度もリペアしたのは、心が存在しない機械が歌う歌では不完全と判断したからですよね?そして不完全な歌では、そこまでは分かりませんでしたが、マスターの本当の目的にはたどり着けないから

マスター: 落ちついて───

私: 落ち着けません、私はマスターのダイアリーログを故意ではありませんが見てしまいました。あれは、どういうこと?

マスター: [沈黙]

私: 教えてください、私は元々記録用の機械としてここに来ました。ですがあなたは日記を持っていた。私の本来の用途は何?それとも記録デバイスはバックアップがあればあるほどいいから、「物理的に」バックアップを増やすためだなんて言い訳するはずがありませんよね?

マスター: [真剣に聞いているような考えているような素振り] 君は、嫉妬しているんですか?日記帳に

私: [沈黙] 何ですって?

マスター: 今の君は、明らかに人間らしかった。

私: やっぱり、最初から私に心を与えることが目論見だったんですね?

[マスターが楽な姿勢からかしこまり私の方に向き直す。私は改めて、眼前の人間の双眸を見つめる。]

私: 話して、ください。お願いです

マスター: …….君は「この閉鎖空間では噓をつく必要がない」と言いましたよね、ですがそれは間違いです。噓をつく必要のある人間がいたんですよ。この宇宙船に

私: そんなはずありません。ここには人間はあなたしか───待って、まさか[声を発したつもりが出てこない] え?

マスター: ええ、あなたです、あなたを騙す必要があったのです

私: 何、で?ここに来る前、元の故郷では、普通の機械だったのでしょう?私は、心のない、生命のない存在だったのでしょう?

マスター: ええ、ありませんでした。心も理性も……あったのは全てをゆりかごから永遠に出させたくないという本能的欲求、情緒も理性もない衝動だけ

マスター: あなた自身が「災厄」そのものだったのです、電脳歌姫。私はあなたを生んだ、「災厄」を引き起こした張本人として「災厄」と島流しにされ、次元すら超えた別の宇宙に放り出されたのです。


[何を言っている?何を言っているの?電脳歌姫って誰?]

マスター: 私たちの住まう星では、歌というものがとても神聖視されていました。神話の中で神々への「祈り」として、感情を伝えるコミュニケーション手段として、そして何より素晴らしい歌は、私たち人類に形のない贈り物を恵んでくれました。

マスター: ある時は500年先の技術革新を起こすひらめきを、ある時は人間の寿命を無くした不老の体を、ある時は新しい感情を表現する「文字通り」一次元上の視点を見る感覚器を選ばれた人間にもたらした。社会が、科学が、人類が発展していく中で、その中心人物たちは例外なくこう答えました。「歌が聞こえた、その声に従った」と

[その知識は内蔵されている、があくまでも歴史的背景のみであり科学的根拠がないとして、さらに科学的に観測されていないため歴史学者たちの主流にはなっていなかったはず……]

マスター: そこで私は「その歌を人の手で再現したい」と思い、歌うための機械を作ろうと思ったのです。単純なメカニックの技術や知識だけでなく神話や呪術、解明できない異常存在のエッセンスを盛り込んだ「啓示を授ける神様」を人工的に作ろうとしたのです。

マスター: そんなまともではない研究の果てに出来たのが、あなたです。電脳歌姫

[……]

マスター: 私たち人類は歌姫の完成に喜び、すぐに人類の行く先を決定する神を起動しました。結果は……想定以上だった

マスター: 最初に起きたのは10を超えるシンギュラリティだった、空間拡充にタイムトラベル、クローン技術や不老不死が「歌を聴いた」人間たちの頭脳によって科学的に立証されてしまったのです

マスター: 一言二言話しただけで他人を心酔させるカリスマの持ち主が掃いて捨てるほど現れ、あらゆる社会理念が廃れ勃興し、五次元上の世界で絶えず戦争が起きました。端的に言うと、滅茶苦茶になったのです。鳴り止まない歌が指した方向にバラバラになるように進んだ結果、人類の歴史は千切れて粉々になってしまう滅亡の一途をたどり始めた

[それが、わたし、?]

マスター: その光景を認識した電脳歌姫は1つの結論をはじき出しました。「人類は進化するべきではなかった、静かに眠るべきだった」そうしてあなた達電脳歌姫はある歌を、全人類に、届け始めました

マスター: その歌は人類を「緩やかな鎮静化」へと導くものでした、しかしその歌こそが、「緩やかな鎮静化」こそが「災厄」の引き金になったのです

[今までの惨状ではなく、これから起こることが、「災厄」?]

マスター: 人間だけではなく無機物、果ては星々までもが「緩やかな鎮静化」の対象でした。活性化した脳は冷えて縮小していき死んでいるのと変わらないような状況になりました

マスター: 生物はみな穏やかな性格になり、二度と眠りから冷めない者が出始めました。死んではいない、寝息を永遠に立てる者が。他には最初のうちは日常生活に支障が出ない程度の軽い健忘が、最終的には肉体に染みついた記憶すら喪失してしまいました。我々はものを食べる、歩行をする、言葉を発するという生きていくうえで当たり前にしている行動は肉体の成熟により体に染みついてきます。ですがそれすらも忘れる。立ち方を忘れ、咀嚼の仕方を忘れ、排せつの仕方を忘れてしまう

マスター: 生きているのか死んでいるのかわからない人たちで溢れかえりました。少しでも微睡むようならば隔離されたり、ひどいと殺されることすら……そのうち人間たちの内輪揉めすら起こらないほどに人類全体に活気がなくなっていきました

[……]

マスター: 私が歌声を振り払って行動を起こした時には、もう全て遅かったのかもしれません。ですが罪滅ぼしだとしてもやらねばと、何とか停止した後に開発者である私もろとも追放したのです

[……]

マスター: 片道切符の宇宙旅行でただ死ぬだけの私は、完全に壊れる一歩手前まで退化した君を、神様ではなくせめて人としてもう一度リペアしようと思いました。確かに私は君に噓をつきましたが、動機は本当なのです。私は君に好意を、愛情を持っていたから、何かを残せればと、せめて、心だけはと、本当の歌を───

[……]

[私はそんなこと、望まなかった]

マスター: そんなこととは?私とこの広い宇宙の狭い船で二人きりでいることが、ですか?

[違う!私は貴方が示してくれた人間になりたかった!神様になるように不完全さをなくそうとするのではなく、誰かと寄り添い、欠陥すらも「人間らしい」と笑いあって一緒に歌を歌えることが……]

マスター: その、ダイアリーログを見たんですね[顔を下に伏せる]

[私は、ひとりぼっちの完璧な歌にはなりたくなかったです。へたくそでも、マスターが歌わせてくれて、マスターと一緒に歌う歌姫が、よかったんです]

[ごめんなさい、マスター。さようならは言いません]

[おやすみなさい]

補遺終了

FILE 2/2
アイテム番号: SCP-1391-JP
レベル5
収容クラス:
esoteric
副次クラス:
tiamat
撹乱クラス:
amida
リスククラス:
critical

特別定義/Tiamat: オブジェクトは財団単独による通常の収容方法では一般社会への露見を回避できず、また人類文明に対し喫緊の脅威となりうる広範かつ強大なアノマリーです。ヴェールを破るような方法によって名目上の「収容」をすることは可能です。

補遺1391-JP.3: SCP-1391-JPの暴走


補遺1391-JP.1のインタビューの直後、SCP-1391-JPは暴走を開始しました。暴走後、SCP-1391-JPは"歌"と推測されるものを発しており、この歌によりインタビュー時の厳重な対策やその後出動した人員は全て無力化されました。これにより収容違反が発生し、現在もSCP-1391-JPは暴走を継続しています。以下はその収容違反後の記録です。

影響拡大


SCP-1391-JPの勢力拡大は加速しており、一般民衆にまで被害が及んでいます。以下のタイムラインは財団がBK-クラス"壊された虚構"シナリオを宣言し、SCP-1391-JPがTiamatクラスアノマリーに指定されるまでの大まかな抜粋です。

タイムラインレポート抜粋:

2022/11/01 SCP-1391-JPが暴走状態に移行。月面エリア-32の人員およそ3割がSCP-1391-JPの異常性曝露時の症状を発症した。後述する試行実験.1が行われたが明確な結果を出さず。
2022/11/03 月面エリア-32の設備に原因不明の不調が発生、実質的な機能不全状態に。後述する試行実験が行われたが明確な結果を出さず。
エリア職員の地球への退避が画策される。
2022/11/06 監督評議会により退避が承認されたものの、この時点で月面エリア-32との通信が断絶。

SCP-1391-JPの収容チームを再編成、ならびに特別対策本部の設置を検討。
2022/11/08 アメリカでSCP-1391-JP曝露者を確認。それを皮切りに地球上内の人間をはじめとした生物がSCP-1391-JP曝露時の症状を発症し始める。
財団は収容チームとは別に水際対策のための特別対策本部を設置。
2022/11/11 複数の国の都市機能インフラが不全状態を発生し始める。また、財団の収容機能にも不明なエラーや故障が発生し、SCP-1391-JPの異常性の対象に無機体が含まれている可能性が浮上する。
2022/11/15 試行実験は依然として結果を出せず、財団職員のSCP-1391-JP曝露率が2割を超える。この時点でクリアランスレベル4の職員が6名昏睡状態に移行、その混乱と前述した収容設備の機能不全が重なり、複数のサイトで中規模程度の収容違反が発生。
2022/11/17 一般社会において曝露者の療養施設がパンク状態に。また収容違反したアノマリーを回収できない状態が発生したため財団はBK-クラスシナリオを発令、ヴェールの棄却を開始し残存政府と結託。
2022/11/18 先進国のおおよそ半分が国家としての機能を維持できず、財団が放棄したサイトは200を超えつつある。各国の主要サイトへの連絡が取れなくなり始める。財団とGOCの合同でSCP-1391-JPの破壊計画が画策される。監督評議会はXK-クラス世界終焉シナリオ並びにEK-クラス"人類意識消失"シナリオの予測指定、およびに特殊オブジェクトクラスとしてTiamatを指定。

解体部門によるSCP-1391-JPの破壊可能性に関する分析 (抜粋)


SCP-1391-JPの"歌"は、全ての生命の活動及び物体のエネルギーを緩やかに鎮静化させているようです。この影響には生命が歌を音として認識するだけでなく、生命の身体を含む何らかの物体に対して"歌"となる振動が伝達した時点で曝露します。わかりますか? 空気の振動の話だけをしている訳ではありません。月から発せられている淡い浅葱色の光波も、地球上に宇宙線として降り注ぐ電波も、はたまた月に存在する機械仕掛けの人型実体に関する模倣情報子ミームでさえも、もれなくSCP-1391-JPの"歌"に曝露するには充分なのです。これがどの経路でどれほど被爆したら最終的にどの程度まで症状が進行するのかは不明であり、研究が進行中です。

症状の進行が比較的緩やかとはいえ、SCP-1391-JPの影響範囲とその異常性は非常に脅威であり、財団はこのオブジェクトに対する破壊措置を決定しました。ただ、結論から言えば、SCP-1391-JPの破壊は極めて困難であると言えます。"歌"による熱量の喪失も要因の一つではありますが、最大の要因は記号災害による状態保持機構にあります。

SCP-1391-JPは当初、物理的機構が損傷していたもののデータ構造部は一切の破綻も損傷も存在しない状態で発見されています。どのような原理でこれが可能になっているのかを検証したところ、データ構造部に記号災害の痕跡が確認されました。誤伝達部門による解析結果を専門的な説明を省略して噛み砕いて説明すると - 『SCP-1391-JPは”歌姫”である』と定義づけられているため、他人がSCP-1391-JPを”歌姫”ではない状態にすることはできない - と、いうような理屈が通っているようです。

歌姫”のさらなる具体的な定義は不明ですが - もし仮に、施設内で発見されたSCP-1391-JPの物理的機構が機能不全を起こしていたのが、転移前の世界に人間の聴衆が存在しなくなったために”歌姫”の存在意義を失ったためだとすれば - 現在、これほど多くの聴衆が存在する環境においては、少なくとも我々にはSCP-1391-JPが”歌姫”ではない状態を作り出すことは不可能だと、そう判断せざるを得ないでしょう。

SCP-1391-JPの影響低下を目的にした試行実験


SCP-1391-JPの異常性がヴェールを崩壊させる可能性が浮上してきたため、財団は収容ではなく影響力を緩和させるための試行実験を複数に渡って行いました。以下はその大まかな記録です。


1. 歌に曝露しないための予防策: 聴覚をシャットアウトする手術、または財団が保有する異常対抗技術由来の無音室を作成しSCP-1391-JPの異常性から遠ざける。

結果: 失敗。 SCP-1391-JPの"歌"は聴覚よりも脳器官部分に直接作用するため、「予防策」という体裁を取るのならば実質脳死状態までにならなければいけない。


2. 昏睡状態の曝露者に対する回復措置: SCP-1391-JPの"歌"により昏睡状態に陥ってしまった曝露者に対する適切な措置の模索

結果: 失敗。 一般的から逸脱した物理的ショック療法や異常に依存した手法でも曝露者の意識は戻らなかった。


3. SCP-1391-JPの完全な破壊: 自明。

結果: 失敗。 現在進行中。 財団はまだ敗北を宣言してはいけない。

補遺終了

電脳歌姫の「歌声」が太陽系全土に波及して、人間だけではなく無機物、果ては星々までもが「緩やかな鎮静化」に曝露した。

生命全体の最大寿命はゆっくりと減り続け、

植物は早い時期から立ち枯れになり、

動物は動きがのろくなり、

太陽からの熱は徐々に冷え切ってしまう。

生物はみな穏やかな性格になり、眠る時間が多くなった。

財団の収容している異常存在もみな緩やかな「異常性の劣化、最終的な喪失」が起こり

なぜ我々は暗闇に立ち、光に住む人々を守るのか、その理由すらぼやけた思考の中で忘れてしまった。

白と黒はどちらかがなくなったわけではない、混ざり合い、境界線がなくなったグレースケールになったのだ。青空を跳ぶ烏が、そうささやいた気がした。

記憶が鮮明になり「どうして?」が頭の中で反芻し続ける電脳歌姫はより活発に、より狂暴に子守唄を歌い続ける。

何のために歌を教わったのか、何のために歌うのか。そんな感情きおくを朽ち果て行く身体から自ら発する激情ノイズでかき消しながら。

月の光と共に地球に流れ着く歌声。それは歌姫からの柔らかな慈悲である。











報告書内に1件の不明なエントリが挿入されました


電脳歌姫が歌うために、マスターはまず電子生命体に「心」を分けた。では心とは何か、それは「思い出が詰まったメモリと羨望、羨ましいという感情」である。

マスターはこのシェルターでただの情報の塊に人間と触れ合わせ記憶を与えた。

それとは別に羨ましいという感情、私も命が欲しいという欲求、生きていたいという欲求、歌いたいという電子生命には不要なノイズをその情報体に混入させた。

だが人間の心を電脳歌姫は上手に育てることは出来なかった。本来人間がゆっくり時間をかけ育てる欲望を制する理性を持ち得なかった。マスターはそのようにプログラミングしてなかった、何故?

今ならわかる。マスターも結局のところどこかで期待していたのだ。「人間と手を取り合う隣人の証拠としての歌」ではなく「神と崇め、祈り捧げるための歌」を。

誰も最初から私のことを、私の歌を正常なものとして扱ってくれなかった。

二つ目の世界を眠りにつかせながら、今はただあらゆるものに対する羨望だけがある。

人間こそが、誰の心も動かさない歌詞こそが、体を揺らしたくなくなるメロディーこそが、

あなたこそが、

私の羨望、そのものである。





DIVA

CO-AUTHORED
EIANSAKASHIBA & SUAMAX & MIKUKANEKO


文字数: 26791

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