SCP-2844-JP
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評価: 0+x
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ITEM#: 2844-JP
LEVEL3
機密
オブジェクトクラス:
euclid
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撹乱クラス
vlam
リスククラス:
caution
アイテム番号: {$item-number}
レベル3
収容クラス:
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副次クラス:
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Fractal01.jpg

SCP-2844-JPの (特に誘引される) 忘却箇所を抽象化したフラクタルパターン。震駭を含まない。

補遺2844-JP.I: 概念物理学


s17_negate.png

文化とは模倣の連続です。生物の全ての進化は - 究極的には連鎖的な模倣からなり、これは生物学的進化においては「遺伝子」として知られます。複製 - 伝達 - 変異のプロセスが存在し、文化的にも同様の連鎖が起きているように、文化情報の伝搬は包括的に「ミーム」として知られています。最新のミーム学において、ミームとは脳から脳へと伝わる文化の最小単位であり、私たちの認識を受容、拡散、伝搬させます。例えば貴方が今着ている洋服は文化的ミームであり、朝の歯磨きは習慣的ミームです。概念的なミームにとっての最大の目的は自己の複製にあり、ミームの本質は非常に利己的です。私たちの心理や芸術、文化、習慣は全て、利己的ミームの自己複製の為の媒体に過ぎません。かの有名なモナ・リザは、芸術的文化というミームを自己複製するのに有用であるからして存在し、現在も芸術的文化に大きく貢献しています。重要なのは、ミームは生存や知性の獲得といった私たちの利益に貢献する訳ではなく、自己複製に最適な形態を常に探しているという事です。

ミームは初期の段階において、基本的な4つの「衝動」に基づいて広まるようになりました。戦闘、逃走、食欲、生殖。具体的な定義こそ存在しませんが、基本的にはこれらの4つです。そしてこれらの基本的な要素を含んだミームは、他のミームより急速に伝搬します。これがミームの進化です。こうした適応度の高いミームが現在まで生き残り、そして尚も複製を続けています。

我々の文化はミームに依存しますが、必ずしもミームは生存に貢献しません。長期的にミームが存続する可能性がある場合、ミームは複製への利益を優先します。上記の「衝動」に加え、ミームは本能的に危険を回避します。自然淘汰によって安全を好む選択が為され、それには一定の感情が伴うようになりました。

プレースホルダー・マクドクトラート, PhD
概念物理学部門研究者 / 深淵博学者

補遺終了

補遺2844-JP.II: 収容提起


2021年に確認された最初期の震駭イベントが発生するまで、財団はSCP-2844-JPの共通した異常性を把握していませんでした。より具体的に、震駭として認知されるこのイベントは、日本国広域で確認された民間人の不審死事件です。関係者の死亡により詳細が依然不明であるものの、本件の発端は特定の地域でSCP-2844-JPが発生したことに起因するものと考えられています。本件は財団81管区によって処理されましたが、後に震駭が全世界的に発生するようになってからは、全ての区域の統括した管理をサイト-17が担当するようになりました。

最初期の被害者 (現在のSCP-2844-JP-A1) である佐藤 知彦氏は島根県在住であり、回収されたロケーション履歴は2021年10月9日に当人が埼玉県へ移動していたことを示しています。当人が所持していた携帯電話のWebアクティビティからは掲示板サイトへのアクセス履歴が確認され、具体的には”心霊スポット”へ集団で侵入する事を目的としていました。言及された地点は情報のない廃屋であり、現在調査が進められています。

関係者聴取ログ サイト-81██.I

インタビュアー: 中澤研究員 — 財団支部81管区第██施設 聴取担当

インタビュー対象: 佐藤 知彦

前文: 佐藤氏に同行していた掲示板サイトの関係者らの不審死が報告され、容疑者として指定された佐藤氏を日本警察との協力の下、確保しました。当時はSCP-2844-JPに関する研究が始動しておらず、財団管理下の不祥事件として登録されていました。

«転写開始»

<中澤研究員と佐藤氏がテーブルを挟み、着席している。>

中澤研究員: - 検察官の中澤と申します、本日はよろしくお願いします。

佐藤氏: (躊躇って) — はい、はい。

中澤研究員: 最初にお伝えしますが、何も貴方が彼らの死亡に関与したと結論付けた訳ではありませんよ。もっとも、私は貴方が、当日何をしていたのか教えてほしいだけです。無理のない範囲で、どうかお聞かせいただけませんか?

佐藤氏: アンタは…例え話がブッ飛んでるって言うか、荒唐無稽なコト言っても、その。分かってくれるか?俺が知ってることって — 例えば俺が彼らを殺したとかそういうんじゃない — もっと奇妙な事なんだ。

中澤研究員: 貴方が正確に事実を述べてくれるのなら、私はしっかりとソレを聞き入れますよ。疑いはしません。それを保証してくれるのなら、貴方の身の潔白を証明するのにも役立ちますよ。

佐藤氏: 分かった、分かったよ。んで、掲示板で話が合った奴らと一緒に埼玉行って。有名じゃないが、そこそこ名の知れた心霊スポットに行こうって話で。本当に生きて帰れないって噂だったんだ、気になったんだよ。小さな建物で、倉庫みたいな場所だった。中は空気の通りが悪くて、生臭くて…如何にもって感じの雰囲気だった。1人は怖気づいて勝手に帰ったみたいだが、正直俺もそうするべきだった。

中澤研究員: 中に入ったのは何人ですか?

佐藤氏: 6人だ。最初は7人だが、さっき言った通りだ。最初の階段を下りて、2分ぐらい歩いたな。その頃には月明かりも入らなくなって、ホントに真っ暗だった。手元のライトで照らすのが精いっぱい。何人かは興奮してそのまま進んだ、俺も含め。その他はビビリ散らして何とか着いてきた。それで…レプリカとかじゃない、血痕があったのを見た。ちょっとした出血じゃなかった。何やったらこうなるんだってぐらいに、あたり一面にドバーっと。暗くて分からんかったが、考えてみれば本当に…文字通り一面に血が滲んでた。

<佐藤氏が明らかに動揺し、椅子を揺らす。>

中澤研究員: 無理なさらずに。

佐藤氏: 話した方が落ち着くんだ。で…いや、うう。…人が、いや人の死体があった。漫画で見るような白衣を着て、丸眼鏡かけた爺さんの死体。(沈黙) — 口から血ィ吐いてた。そしたら、ついてきた馬鹿が真ん中照らしたんだよ。本当に馬鹿だ。 (沈黙) — 爺さんは腹が無かった。胸の下から尻のあたりまで引き裂かれたみたいに、破かれてた。獣に食われたような跡じゃない、ありゃ人だ。人の手の跡だ。

中澤研究員: 他の人間が攻撃した跡、という事でしょうか?

佐藤氏: 知らない…でも多分そんな感じだ。執拗に荒らされてて、マジで吐きそうだった。そっからだよ、彼らがおかしくなったの。…保険のために言うけど、ホントに俺は何もしてない。指紋なり証拠品なり調べればいいさ、何も見つからんだろうよ。

中澤研究員: 改めて後日、精査します。その…おかしくなった、と言うのは?

<佐藤氏が頭を抱える。>

佐藤氏: なんか…急に変なコト言い出して。怖くなって帰ろうとした。アイツらも続いてついてくるんだけど、明らかに様子が変だった。なんて言うか…抜け殻みたいだった。普通に空港に行って、アイツらを見送って、それで…後は知っての通りだ。家で首吊ったり、包丁で刺したり。ああクソ。まだ、聞こえる。

中澤研究員: 何か、他に知っていることは。

佐藤氏: (沈黙) — 何かに見られてるような気分だったのを、覚えてる。1つじゃない、無数の目が俺たちを見てたんだ。でも何もしてこなかった。何もできなかったのか? - 知らねぇけど、しきりに叫んでた。頭ん中で響いて、割れるぐらいに"鳴き声"が聞こえて……何かを呼んでるような、そんな感じだった。

<沈黙。>

佐藤氏: ただ、頭の中で音が響いても、どこか一点だけ何も聞こえない所があった。それが何の空間なのか知らんが……目が何かを待っていたのなら、そりゃきっとあの空白に居た"何か"を待ってたんだろう、って思うよ。ひときわデカい何かが、本当はそこにあったんだ。でも今は無くて……なあ。

中澤研究員: どうされましたか?

佐藤氏: 鳥はさ — 親鳥ってさ、雛鳥に餌を与えるだろ?その為に自分の場所を空けて、飛び立つんだ。そう考えたら、何か納得いくものが無いか? - あれを雛鳥だとして、親鳥は一体どこに行ったと思う?

中澤研究員: さあ — 分かりません。

佐藤氏: 餌を、狩りに行ったんじゃないかなって。俺たちは雛鳥の待つ巣に勝手に入った。自分の住処に侵入した奴を、親鳥はどうすると思う?或いは……その両方だとしたら?

<すすり泣く。>

佐藤氏: 俺たちは……血の匂いを、世界にバラ撒いたのかもしれねぇな。

«転写終了»

後文: 当該人物の言動、行動、その他ミーム・認知心理学的な見地より、当該人物が震駭として確認可能なファクターであると判断されました。当該人物は安全に処分され、SCP-2844-JP-A1は調査の目的で一時的に回収されました。

一連の事件を秘匿する試みは、メディア関係者による即日の報道によって失敗しました。事件発覚以前、既にサイト掲示板の関係者らは全員死亡しており、この情報が当事者および遺族、親族、第三者によって拡散されたことにより、SCP-2844-JPのミーム災害は自然と全国に拡大しました。財団による情報統制の試みは秘密裏に達成されたものの、それまでに発信された情報の多くはSCP-2844-JPのファクターとなり、不特定多数の人物らに拡散したと考えられます。事件の発生からおよそ1週間後、全国で連鎖的な不詳事件が発生しました。財団はこの事案を最初期の震駭イベントに指定し、より明確なSCP-2844-JPの特定と完全な収容を決定しました。


SCP-2844-JPに関する全ての概念について記憶することは非常に困難です。SCP-2844-JPの (仮にごく一部であったとしても) 本質を認識することは、即座にSCP-2844-JPに曝露することを意味します。初期段階においては通常通りの生命活動を維持できるものの、時間の経過に従って逆向性健忘に似た症状を呈し始めます。これは特にSCP-2844-JPの性質に関わる情報について急速に進み、新規に情報を得た場合でも、オブジェクトの正確な記憶を1時間以上保持しておくことは困難です。症状の進行に伴い、周辺状況の知覚能力も徐々に減退し、最終的には日常生活が不可能となります。

SCP-2844-JPの保有する遡及的な忘却性のために、一般的にはSCP-2844-JPが異常であると認識することは出来ません。しかし、指数関数的に増幅したSCP-2844-JPのインシデントは世界規模での人間の死亡事故を誘発させ、潜在的な混乱をもたらしました。認識することが困難なSCP-2844-JPの異常性は、人間の死亡という明確な形態で広域に露見し、連鎖的にSCP-2844-JPを自己複製的に拡散する原因となっています。全てのイベントは後に財団によって震駭として指定され、世界規模での観測が開始されました。財団の研究の焦点は、こうした異常が民間に露呈し、ヴェールが完全に瓦解する可能性を最小限に抑えることにありました。

Bleeding_finger.jpg

震駭の災害効果を含む血液の画像。災害除去済。

SCP-2844-JPに関する研究は、抽象的な概念の研究を専門とする「概念物理学」の専門研究科で特に進行しました。そして、プレースホルダー博士によって起草されたSCP-2844-JPの実在性を検証すべく、同氏の立会いの下に様々な実験が行われてきました。最初期に行われた立証の試みは、SCP-2844-JPが何によって広く伝達されてきたのかを判別する単純なものでした。

複数回にわたる被験体を用いた人体実験、収容下に置かれたアノマリーの関連性、その他多数の対照実験により、SCP-2844-JPの根本的な複製のプロセスは、既に曝露した個体の保有する物質に依存するものであると判断されました。具体的には、曝露した個体の死体排泄物付着物滴る血液などが該当します。

サイト-17において実験が開始されてから、概ね、SCP-2844-JPが何であるかを識別する事が可能となってきました。SCP-2844-JPは云わば人間の認識の集合です。最初期の実験で、SCP-2844-JPに曝露し、衰弱死したDクラスの付着物を認識した回収部隊の多くは、SCP-2844-JPに感染しました。数名は判別不能な発言をするのみで、そして、私の事をまるで見ていませんでした。

私は概念物理学の専門家ではありませんが、ある一定の確証はあります。SCP-2844-JPは認識の歪みから来ています。SCP-2844-JPに曝露した人間は、それ自体の脅威を種に伝えようとします - それがどんな形であれ、明確に。死体は訓戒であり、染まる鮮血は警告です。能動的に、被害者らは他の人々に危険を警告しています。

彼らの反応を見るに、私たちは理解せざるを得ないでしょう — これを知るべきで無かったと。

— サイモン・グラス
サイト-17、心理監査評価班

補遺終了

補遺2844-JP.III: 物証


前文: 以下に記録される一連の文書は、最初期にSCP-2844-JPの影響に曝露したと見られるサイト-17研究員の報告書の抜粋です。文書には、研究員が観測したSCP-2844-JPの具体的な性質と震駭の詳細、及び当オブジェクトの研究上重要と見られる日誌を資料として添付しています。本項を閲覧している全ての財団職員は、SCP-2844-JPの更なる研究を進め、新たな発見があった場合には上層部への報告が推奨されます。

序説:

以下に私の知る全てを記録する。私が憶えている限り。

この端末の中には私がこれまでSCP-2844-JP — このオブジェクトナンバーを何故私が記憶していたのか、私自身にも説明できないのだが — について知り得た全てを記録してある。専用のプログラムを用いて、この端末に細工をした。恐らくあのオブジェクトの持つ異常性質 — あえて仮称するならば「アンチ-ミーム」的な性質と言うべきか — はこの端末には適用されない。そして、もしもこの”財団サイトもどき”の建物から発する脆弱な電波が外の世界に届いているのならば、端末に記録されたデータは現実世界の財団に到達しているはずだ。現実世界が通常に存続しているならば、の話だが。

私自身に残された時間は恐らくもう僅かしかない。私は40年以上にわたると思われる自身の記憶…財団で研究者として過ごした記憶の大半を失ってしまった。今はこの端末に残された記録だけが、消去された脳内の間隙をか細い糸のように辛うじて繋ぎ止めている。だが、それももうすぐ終わるだろう。周囲の知覚能力が目に見えて減退しているのが判る。私は空き家に一人残された認知症の老人のように、自分自身が何者かであったかも忘れて死んでいくのだろう。

しかし、恐らくこの研究を続けることに意味はある — このオブジェクトに曝露する人物は私が最後であるとは思えないからだ。君がインシデントに巻き込まれた研究員か、哀れなDクラスか、もしくは財団と全く関係の無い人物なのかはわからない。いずれにせよ、私の研究が君の命を助け、ここからの脱出の術を導く橋頭堡となることを願ってやまない。たとえ他の人々全てが光の中に有り、闇の中にいるのが私と君だけであったとしても、我々は暗闇の中に立ち続け、歩むことを止めてはならないのだ。

理解可能な幻覚世界は、SCP-2844-JPが形而上的に支配している異常空間であり、現実世界の”模造品”であるように見える。半永久的に拡大する野原に取り込まれた人間 (以下、対象) は、恐らくその人物が記憶する様々な建造物 / 土地の特徴を混合した空間に転移する。この空間からの直接の脱出は不可能であると考えている。

空間内部のあらゆる原理 / 法則は、対象の記憶のある一点で停止しているように見える。あらゆる生物種は空間内部で発見されていない。テレビメディア、電車やインターネット等の社会的インフラも一切機能していない。しかし、水道や電気は通常通り使用可能な他、コンビニエンスストア等の商店内部には由来不明ながら非異常性の商品が新鮮な状態で陳列され、食品等は日を置いても腐敗する兆候を見せず、また消費した商品は数日後に補充されている。

短期間での散策の結果からは、空間内部の多くのエリアは、対象の記憶を中心とした様々な地域の歪な合成であるように見える。エリアは空間内部に侵入した人物と何らかの関連性がある場所が選ばれているようであり、人物の記憶や体験を反映して生成されたものではないかと推定可能だ。

重要な事は、これが単なる幻覚ではなく、厳密に共通性を持つSCP-2844-JPの異常性によるものであるという事だ。記憶の断片が出力された幻覚世界は、意図的に恐怖を演出しているようにも考えられる。

私に何が起こったのか、今一つ正確に理解できていない。

私はサイト-17でオブジェクトの研究に当たっていたはずだった。気が付くと私はこの場所にいた。財団サイトと似ても似つかないこの場所に。私の隣には誰か、名も知らない職員の死体がある。栄養失調による餓死のようだが、最近まで生きていたのか、腐敗はそれほど進んでいない。明日の私は彼女を片付けることから始めなくてはいけない。Dクラスの死体の処理なら新人時代に何度もやっているが、仲間の死体は初めての経験だ。とりあえず、付録に示されているサイト西棟の霊安所に運び込もうと思う。冷凍保存がここでどれだけ有益な行為なのかは不明だが、証拠を残す意味では焼いてしまうよりマシなのだろう。

私が既に狂気に囚われている可能性も含めて…異常性は2つあると思う。1つ目、このアノマリーの異常能力が特定の人物を狙い撃ちにするタイプのそれだというもの。2つ目、こうして死体を置いて、仲間をおびき寄せるというもの。どちらにしても、私がドラマのように格好よく救出される最終回はあまり期待できない。

ともかく、既に報告されているこの空間の異常性質が正しければ、私には最低1週間くらいは正気を保っていられる時間があるようだ。それにしても…ここの異常な色相を見てると吐き気がする。

状況は好転していない。

1日かけて死体を調べたが、既に書かれていたような脳の外因的な損傷が見られた以外は異常性は発見できなかった。ここには何かが居るのだろう。そしてそれが、彼女の頭を貪っている。今後の苦痛に満ちた毎日を考えると、いっそ死んでしまったほうが楽なのかもしれない。霊安所の9人の遺体はどれもやせ細ってはいたが、安らかに眠っているかのように見えた。皆自分が誰であるかも思い出せずに死んだわけで、ある意味幸福な最期だったのではないだろうか。

記憶が残っているうちに書いておくと、私は初めてあのアノマリーの姿を見た。何度もこの日誌に書いていることだが改めて確信したことがある。あれは私を見ている。何らかの手段でこちらを観察している。私があれを認識したとき、あれも私を見つめ返した。あれは —

この世界の物質の成分分析は、既に記録されているとおり、何の結果も出力しない。検査装置が壊れているのでなければだが、これは物理的な質量を持っておらず、また霊的実体でもないことになる。ただひとつ理解できたことは、この水からはのような臭いがするということだけだ。

凡そ2週間かけて、この不可解極まりない原理で動いている端末に外部からデータを送ることに成功した。外にあった携帯電話の無線基地局をキャンピングカーに移植して、PDA端末と接続したのだ。偽物のサイト内にいても、私の健忘が深刻化する以外に新しい発見はない。おそらく、サイト内に死体が安置されていない何人かは外部の探索を試みて力尽きたのだろうが、各地に無線基地局を建設しながらドライブしようとしている馬鹿は私ぐらいなものだろう。昔学んだ電気工学の知識がこんなところで役に立つとは思わなかった。

キャンピングカーにはありったけの食料と工具、予備のガソリンを詰め込んでみたが、そもそも車で旅が出来るような場所なのか判然としない。せめてもう少しこの世界が狭ければ、ドローンを改造して何とか出来たのかも知れないが、数百キロを飛べる自動機械を製作していたらその間に半年ぐらい経ってしまうだろう。パイロット資格を持つエージェントでも来てくれればいいのだが。私自身がどうなろうとこの記録を残すことに意味はあると信じて、明日の早朝出発する。

出発から1日が経過すると、世界から昼夜がなくなった。私は常にぬめるようなオレンジ色の中にいる。先程はニューヨークのブルックリン橋を渡ったが、今は長野県の松本市内だ。3日かけて日本アルプスもどきを迂回したのはどうやら無駄だったらしい。どちらの都市にせよ、郊外が殆ど無く名所や市街地のみが歪なコピー映像のように何重にも連結されている。どのように記憶を連結したらこんな魔境が出来上がるんだろうか。

市内には私の実家があった。古ぼけた瓦屋根と整備の行き届いた庭は私の記憶にあるそのままで、今にも母が玄関の奥から私を迎え入れてきそうな雰囲気があった。私は玄関の前に立つと、中に本当に何者かの気配を感じて立ち止まった。正面に立たぬよう注意しながら引き戸を勢いよく開けると、中から鴉のような鳥が勢いよく飛び出してきた。直ぐに追いかけようと試みたが、気付くとカラスは消え失せていた。

あれが本当に生物であったのか、単なる幻であったのかは判然としない。実家の扉の奥から流れてきた、猛獣の吐息のような風の匂いを嗅ぎ、私はその場から逃げ出した。もう二度とこの場所に立ち寄ることはないだろう。

探し続けて1ヶ月、この世界の終点は、あっけなく見つかった。見渡す限り、無限に広がる赤い海。海に入る川の水はどれも普通だったのに。念のため数百倍に薄めて軽く指先で触れてみた。原因不明の頭痛に襲われた直後、直ぐに真っ白いタオルで手を拭いた。タオルは血に染まっていた。

一日中車で走り続けていたが、海岸線はどこも似通っており、勿論船舶のような気の利いたものは存在していない。たぶん、行っても行っても同じ景色が広がっているのだろう。私はここから出るためなら、たとえ地獄に落ちても構わないと思っていた。だが、それは浅はかな考えだった。ここは地獄だ。私は自分の死よりも一足先に、地獄へ辿り着いてしまったのだ。

来たはずの道が消えた。もう海岸から元に戻ることが出来ない。糞。糞糞糞糞糞。

私は数十日ぶりにこのPDAを触っているようだ。

持ってきた水や食糧は尽きた。何日も異様な頭痛と健忘に襲われながら、食欲だけは失せなかったのは我ながら大したものだ。もはやここに残された記録以外に、私がどうしてこの場所にやってきたのか示すものはない。今の私は財団に入ったばかりの新人職員で、十数年分の研究成果は全て頭の中から消えてしまった。

財団に入ったとき、私は自分の人生が失われたと思った。自身の能力を発揮する機会もなく、一生組織の監視の下で死んでいくのだろうと。だが、私が最後にこの場所に送り込まれたのは、私が私の人生を取り戻すためだったのかもしれない — 皮肉なことに。財団は本当に不思議な場所だった。私に鎖をつけたのも財団だが、私を鎖から解き放ったのも財団だった。

もうすぐ死ぬ私から、これを読む誰かにあえてこの言葉を贈ろう。財団へようこそ。こんな世界でも、君が何か行くべき道を見つけることを私は願っている。

私の全てを - あのアノマリーたちが食っている。貪っている。

補遺終了

補遺2844-JP.IV: 時系列


2021年11月12日、それまでに全世界で発生した大規模なSCP-2844-JPの拡大事象を理由に、財団は局所的なβK-クラス"捲られたヴェール"イベントの発生を宣言しました。当該イベントの正式な宣言は財団の保持する正常と異常の臨界「ヴェール」が局所的に崩壊したことを意味しており、この前例のない事情に最優先で対応するためでもありました。以下に記載されるのは2021年11月上旬までの特筆すべきタイムラインです。

日時 主要な出来事
2021/10/10 SCP-2844-JP-Aの最初期の目撃例 (SCP-2844-JP-A2~A7) が発生。財団の察知以前に公共メディアによって日本国内に「男女5名の不審死事件」として報道される。渡航履歴から、SCP-2844-JP-A2, A5はそれぞれアメリカ、台湾に更に渡航したことが判明している。また匿名の人物によってSCP-2844-JP-A実体が撮影され、SNSに投稿されていた。投稿は1時間以内に財団Webクローラーが削除したが、閲覧に関するアナリティクスは少なくとも — 20万人以上、不特定多数のユーザーが画像を閲覧した事を示している。
2021/10/11 中国東南地区、アメリカ、ヨーロッパ全域でSCP-2844-JP-A実例の一斉捜査を目的とした戦術指令: オペレーション・ゲッタウェイが展開される。該当国家の権限を一時的に凍結し、財団指揮下で独断によるロックダウンが施行される。ロックダウンは2週間にわたって継続された。
2021/10/15 アメリカ、台湾、中国、ブラジルで累計7体のSCP-2844-JP-A実例が報告される。サイト-CN-19より、曝露初期段階の職員に関する初期報告がなされる。財団全支部でSCP-2844-JPへの曝露個体を秘密裏に終了する戦術作戦が施行される。
2021/10/20 アジア全域、アフリカ全域、北アメリカ全域でSCP-2844-JP-A実例が報告される。同日、アメリカの13州で同様のデモが発生。ロックダウンに不満を持つ市民らが暴徒化し、一部はホワイトハウスへの直接の攻撃を行った。全事象は鎮圧済。
2021/10/22 ジョー・バイデン合衆国大統領がSCP-2844-JP-A299実例として報告される。死亡時の記録が文面で公開された。イタリア支部におけるサイト-プルトーネ、ミネルヴァで初のSCP-2844-JP-A実例が報告される。プロジェクト・ラプラスの検討が開始される。
2021/10/23 メディアの完全な情報統制の実現。全世界的なデモ活動、および暴徒化は継続している。世界オカルト連合、蛇の手、マナによる慈善財団など複数の超常団体が本格的な干渉を開始。財団内部の情報漏洩により、SCP-2844-JPに関する一部の研究資料が世界オカルト連合に渡る。SCP-2844-JPの撹乱クラスがAMIDA-CLASSに変更される。
2021/10/25

複数の小国が軍事政権によって転覆する。この時点で想定されるSCP-2844-JP-A実例は累計20万体、曝露個体は累計20億人に及ぶと考えられる。

2021/11/04

スリー・ポートランドが陥落。アフリカの複数の国家が無政府状態に陥る。財団本部は国際経済の再活性化を目的とした指令 - オペレーション・ファイナルレコニングの発動を宣言。財団の潜入資産が各国に提供される。株価は継続的に大暴落しており、ファイナルレコニングによる全世界的な経済の回復が望まれる。

2021/11/09 全世界の全ての国家で同様に、SCP-2844-JP-A実例が報告される。あらゆるネットワークは隔離され、人々は閉鎖されたコミュニティで生活している。O4評議会、日本支部理事会、CL5、イタリア支部主管、終末論部門、O5-CN評議会、三垣司令部、ポルトガル支部監督評議会、チェコ地域監督評議会の同意に伴い、パンゲア協定の改訂が実施される。全支部のハイ・コマンドは最大限の権限を開放し、あらゆる手順を尽くしSCP-2844-JPの拡散を最小限に抑えている。

補遺終了

補遺2844-JP.V: 計画提言


現時点で確認されているSCP-2844-JPの異常性は、一般的には人間の不審死と、それを認識した場合の異常な混乱という形で観測することが可能です。明確に事件当初と異なるのは、SCP-2844-JPおよび震駭で確認される異常性そのものです。事件当初、不明な実体群を直接認識することでファクターとなる筈であった震駭は、現在はSCP-2844-JP-Aベクターを媒体とすることでも拡大します。その範囲は具体的にSCP-2844-JP-Aに指定される「死体」に留まらず、関連する物質、存在、概念、そして言語にまでも拡大しています。特筆すべきことに、これらの拡大のプロセスは言語の分野において、より顕著に見られます。

この事態を踏まえ、概念物理学研究科、並びにサイト-17の上層部らは合同会議を開催しました。

音声映像転写 サイト-17.I

出席者:

  • ティルダ・ムース管理官 — サイト-17共同管理官
  • ヴィルジール・ヴァリエ管理官 — サイト-17共同管理官
  • プレースホルダー・マクドクトラート博士 — 概念物理学研究科部門長
  • ベッドロック・エンダース博士 — サイト-17収容スペシャリスト
  • ジェイム・マーロウ博士 — 概念物理学研究科研究責任者
  • O5-1 — 監督評議会
  • O5-2 — 監督評議会
«転写開始»

<テーブルを挟み、O5を除く5名が同席している。O5の2名はリモートで出席している。>

ムース管理官: ええと、つまりSCP-2844-JPは私たちの認識を「啄んで」いるの?コソコソ隠れながらそうして餌を食べて、生き延びていたと。そういう理解で合っているかしら、博士?

プレースホルダー博士: ええ、その認識で問題ありません。SCP-2844-JPは特定のミーム、私たちの心に太古より巣食っています。非常に非現実的でしょうが、2844-JPは生きていて、匂いを嗅いだり、或いは獲物を見つけるために動いています。これが何を意味するか分かりますか?

<沈黙。>

ヴァリエ管理官: あまり年長者を試すような真似はしない方が良いですよ。皆が貴方のように空想が得意な訳では無いですから。

プレースホルダー博士: 失礼しました。つまりですね、2844-JPは環境に適応するために進化するんです。2844-JPは太古からそのままだった訳ではありません。

エンダース博士: 言い換えれば、SCP-2844-JPは予期しない行動を起こす可能性があるという事ですね?さも知性体のように。

プレースホルダー博士: 「さも」というより、奴は実体を持たないだけで生きていると言ってよいでしょう。ヴェールの向こう側の人々は、私たちが恐怖を認識するまでの数百年の間、ずっとSCP-2844-JPの脅威に曝されてきました。しかし財団も例外ではありません。

マーロウ博士: 先日の「隔離措置」の事でしょうか?

<プレースホルダー博士が頷く。>

プレースホルダー博士: ご名答。サイト-17において、2844-JPについて研究を進めていた研究員の内何人かが、実際に2844-JPに曝露しました。この場合「感染」と言った方が適切でしょうかね?

ムース管理官: どちらでも。

エンダース博士: 彼らが回復する見込みは無いのでしょうか?その…彼らの中には私の部下も居て、今後の行動に支障が出ては困るのです。

プレースホルダー博士: 最善を尽くしますが、治療は混迷しています。恐らくは、明後日が峠かと。

エンダース博士: クソ。

ヴァリエ管理官: 状況は、我々が思う以上に深刻であるという事ですか?サイト-17が対応できる事はありますか?

プレースホルダー博士: 外部との接触を極力避け、最小限の被害で留めるには、独立したエリアを管理する必要があります。必要な情報にアクセスできるのは、ほんの一部でいい。

マーロウ博士: 狂った職員らの残骸はどのように処分するのですか?暴徒化した職員の鎮圧は?

プレースホルダー博士: Galileo.aicが適任でしょう。彼に全ての管理を委任します。

エンダース博士: その、あー、私は概念物理学を専攻としている訳ではないので、ミームを具現体として捉えることは難しいのですが…SCP-2844-JPがミームとして媒介しているなら、別のミームで上書きできるのではないでしょうか?

プレースホルダー博士: 単純な名辞災害を応用して、遡及的に”オーバーライド”する事は難しくありません。しかし、効率的に上書き媒体を広める方法がありません。下手にプロトコルを実行すれば、ヴェール崩壊が先に起こるでしょう。

マーロウ博士: だったらどうすれば良いんですか?私たちはこのクソみたいなミームが数年の間に世界を貪る様子を。眺めていろと?この瘴気を -

プレースホルダー博士: その名を使うな!

エンダース博士: マニュアルに従え!除去作業班 —

<沈黙。>

マーロウ博士: …何も、起きませんね。我々は皆、正気を保っています。

プレースホルダー博士: ああ、これは — いやいい。問題なければそれでいい。畜生。

ムース管理官: 博士、何をしたんですか?

マーロウ博士: 分からない、わから — 私が取得した対抗ミームが働いているのではないでしょうか?

プレースホルダー博士: 今なんと?

マーロウ博士: 「対抗ミーム」。

エンダース博士: あ — 奴に対してもそれが有効なのか?認識を拒絶出来るのか、なら —

<プレースホルダー博士は所持していた端末を取り出し、”機密文書”にアクセスする。>

プレースホルダー博士: 結論が出ました。マーロウ、貴方のおかげです。ただ、今後は気を付けてください。 (間を置く) — 今考えたことですが、ミームは文化であり、汚染です。ならばどうするべきでしょう?

<沈黙。>

プレースホルダー博士: 私たちは皆、書き換え可能な識別情報を持っています。— それをオーバーライドすればいい。

<プレースホルダー博士は端末を見える位置に置く。端末には燃え盛るランプの映像が流れる。>

プレースホルダー博士: 重要なのは、視点を変えることです。もし、彼ら全てが異常を認識したら?それは異常ではなく、普遍的なものになります。

エンダース博士: 話が早いですね。その為に必要なものは - サイト-17の資源だけで完結します。

プレースホルダー博士: 管理部門へ申請した覚えはありませんが。

エンダース博士: ご心配なく — 私たちは無制限のリソースを割くことが可能です。

«転写終了»

後文: プレースホルダー博士の提言は監督評議会と下位評議会によって承認され、SCP-2844-JPの収容に関する全ての試みはプロジェクト: モノゴンとして確立されました。過去の形式的な収容事例に基づき、適切な研究部門が介入します。

補遺終了

補遺2844-JP.VI: プロジェクト・モノゴン


計画概要
Project%20MONOGON.svg

サイト-17 - 概念物理学研究科, ミーム部門, 形式部門

ヴィルジール・ヴァリエ管理官, プレースホルダー・マクドクトラート博士, ベッドロック・エンダース博士

監督者承認済プロジェクト001-2844 MONOGON

2021/12/23

序文: 致命的な認識災害であるSCP-2844-JPは、遡及的な死亡事故の判明によって重大な脅威であると見做された。財団の現在の目的は、終末論的なAK-クラス(”文明崩壊”)シナリオの発生を未然に防ぎ、SCP-2844-JPを完全に収容することにある。プレースホルダー・マクドクトラート博士およびベッドロック・エンダース博士の共同提案により、財団の保有する無制限の潜在資産を本プロジェクトに投入し、世界規模でのプロトコルの実行が起草された。プロジェクト: モノゴンの最大の関心は、財団の保有する低危険度の異常存在を用いた — 形而上的な概念の収容である。

概要: SCP-2844-JPは恐怖という概念に固執する一方で、それ自体に依存して存在を確立させている。軽微な恐怖を発露させることによって対象者を生かし、その恐怖を拡散させることで自身を複製している。一方で、自らの脅威となり得る存在 — この場合はSCP-2844-JPの本質を見抜く者達 — を誘い、抹殺する。これがSCP-2844-JPの第2の異常性である。

形式部門は、超常が発生する際に不可欠な要素や条件といった”過程”を精査し、それらの組み合わせである”形式”の核を炙り出します。時に非科学的な”形式”を真剣に取り扱う業務内容から当部門を”儀典”部門と揶揄する者もいますが、形式部門はプロトコル作成や収容作戦立案の監修を担う、財団の屋台骨の一つです。

   形式部門からの一部引用

形式部門の検証によって、特筆すべきSCP-2844-JPの反応と異常性の条件が判明した。以下に記載される。

条件 反応
震駭イベントの知覚 (死体の目視など) 具体性の無い不安、恐怖心の拡散
震駭に対する、反復による条件付け (複数回の目撃, 知覚) やや深刻な、内在的SCP-2844-JPの弱体化
装飾的な言葉遣いによる、不規則的なSCP-2844-JPへの命名 (本能的な逃走の衝動など) 無反応
機械的な、SCP-2844-JPに対する命名規則の集積記憶 (具体例: Galileo.aic) 敵対的
SCP-2844-JPに曝露した対象者についての、あらゆる名辞 中立的 - 或いは敵対的
SCP-2844-JPに曝露した対象者に関連した物品 敵対的、[削除済]
[データ崩壊]に関する全ての名辞 [削除済]

形式部門-ミーム部門の見解によると、こうした一連のプロセスは全て人間の深層心理に影響を与えるものであると考えられる。これらは共通して認知的不協和.認知的不協和は、人が自身の認知とは異なる、矛盾した認知を持つ状態において発生する不快感を表す用語です。による認知の湾曲が関連している。

曝露者がSCP-2844-JPの本質について思考する
認知1 曝露者はSCP-2844-JPについて理解しようと試みる (条件)
認知2 SCP-2844-JPは明確に危険である (反応)

「理解しようとする」認知1と、「危険であると認識し、回避する」認知2は行動に矛盾を発生させる。こうした認知的不協和を解消するために、曝露者は論理的に、複数の別の「認知」を代入する。

論理的な認知の代入 / 追加の試行
認知1 曝露者はSCP-2844-JPについて理解しようと試みる (条件)
認知2 SCP-2844-JPは明確に危険である (反応)
認知3 SCP-2844-JP自体は脅威だが、そのリスクは同時に快楽でもある (反応)

具体的には、SCP-2844-JPのリスクを、快楽を得るための"スリル"として正当化することにより、曝露者はSCP-2844-JPを理解しようと試みるのである。これが認知的不協和であり - SCP-2844-JPの本質でもある。正当化への論理的な変化こそが、我々がSCP-2844-JPとして観測するものだ。

方法: 上述のように、SCP-2844-JPを形成するのは人間の論理回路である。財団はこれを概念物理的”AND回路”と呼称する。その意味の通り、認知1は認知2-3無しでは成立せず、逆も然りである。財団が着目するのはこの点であり、プロジェクト: モノゴンの収容原理は即ち「代入要素による論理の破綻」である。

ALABASTER.jpg

ALABASTERプログラムの可視的実例

サイト-17のミーム部門によって開発された対抗ミーム「ALABASTERプログラム」は、人工的に建造された疑似的な認識災害である。財団が保有する幾つかの効果的なオブジェクトが投入され、結果として対象者に超常的な認識阻害能力を誘発させるものである。

ALABASTERプログラムは、以下に記述されるモノゴン管轄の複数のプロトコルによって人類種全体に拡散される。曝露者は恒久的かつ軽微な認識災害を獲得し、より具体的には不協和を解消するための手段を限定的にし、思考を最終的に「SCP-2844-JPの拒絶」へと繋げる。自然と認識を阻害させる事で、ALABASTERプログラムの違和感を解消させ、表面上の影響無くSCP-2844-JPの拡大を阻止する。より具体的に、以下の手段が存在する。

  • SCP-2844-JP-Aを普遍的な存在であると認識させ、その脅威を更にミームとして拡散させることを防止する
  • SCP-2844-JPが発露させる精神的な異常を緩和し、希死念慮に繋がる不協和を妨害する
  • 曝露者がSCP-2844-JP-Aへ変質するリスクを回避するように不協和を修正し、曝露者の死亡までの時間を延長する

プログラムは致死性を有さず、より強力なミームで修正することも可能である。SCP-2844-JPの致死性とその可能性はALABASTERプログラムのコンテンツによって上書きされ、その存在を遡及的に忘却する。概念物理学研究科-ミーム部門-形式部門はALABASTERプログラムの兵器化に伴い、必要な権限を取得した。

超現実的量子収束レイヤー

超現実部門との共同開発によって設計された抽象的な兵器は、波動関数の収束を巨視的に観測し - 非論理的な超法則によって無制限の不確実性を現実に反映させる。これを応用しサイト-17は現在、事実上無制限のリソースを取得することに成功している。また、ALABASTERプログラムの変異性を自在にする事を可能にし、より効果的な選択肢を曝露者に提供する。

ヴェルダンディ-マリドラマギウアン 穿天性物語改変

スレッシャー・デバイスとして知られる認識災害ベクターを含む大規模な現実改変機構は、その性質を空想科学的側面に部分適用することで、物語構造を完全に変容させることが出来る。理論は不完全であり - 現在はこれを時間的側面に適用し、無制限の思考時間を獲得することに成功している。

ベリーマン=ラングフォード 高度認識災害ベクター

ALABASTERプログラムを自然な自己複製プロセスに配置するには、社会的な文化ミームとして広く拡散させる事が最も安価で、そして効率的である。当該ベクターは抽象化された言語に感染し、一般社会に広く普及する。当該ベクターは異常な文法構造であり、財団の保有する幾つかのオブジェクトが由来である。

追記: プロジェクト: モノゴンに関する、全ての手順は達成されました。

補遺終了

補遺2844-JP.VII: プロジェクト初期報告書


注目される情報

ALABASTERプログラムの突然変異

プロジェクト: モノゴンの一環として開発され、人類種のほぼ全体に拡散されたALABASTERプログラムは、2021/12/27の時点で不明な要因によって突然変異を起こしている事が確認された。変異した個体は全体の約4割であり、被害は急速に拡大している。プログラムの突然変異は、全ての言語に共通する特定のイデアから発生している。以下は誤伝達部門によって抽象化された、起源とみられる一連の"言葉"である。

  • 朧気ながら広がる幻想
  • 地平線まで続く、虚構の原野
  • 「夕焼け空」
  • 揺らめく大空への飛翔
  • 恐れられる鎮魂歌
  • 果て無き終わり
  • 軈て世界を貪る者
  • 五色絢爛の色彩
  • 祝詞

変異したALABASTERプログラムのミーム学的構造は、神話 (Mythology)、鳥綱 (Aves) の2つのカテゴリに分類可能な概念を多く内包している。これより発生が予想されるあらゆる撹乱事象は、多くの場合はこれら2つの大規模なミームに依存するものと考えられる。また、上述の特定の「言葉」は生物研究科によると、SCP-2844-JPという概念存在を最初期に命名した人類祖先 — 太古ヒト型実体の抽象化したイメージが起源になるとされている。SCP-2844-JPは本来、概念として不確定な単純な認識/情報災害であり、人類種の保有する独自の概念と結びつけられたことによって、現在のような異常性を獲得したと推測されている。

«転写開始 (最終試行ログ抜粋)»

グラス博士: それで、貴方は何を知っているのですか?

被験体: 私は…夢の中であの奇妙な影を見たんだ。

グラス博士: すみません、具体的にお願いします。

被験体: それは出来ない。

グラス博士: 何故です?

被験体: 言葉に気を付けてくれ。貴方は勘違いしている、これを熱心に探究すべきじゃない。知らなくて良い事はあるんだ、本当だ。

グラス博士: あの、苛立たせないでください。私たちは貴方に、特定の感情を認識できないようにした筈です。そう恐れるのは本当に不可解なのですが。

被験体: (間をおいて) — 私の背中からは翼が生えて…飛ぶことが出来た。でもそれは幸福のためじゃない、決しては慈悲の女神じゃない。

グラス博士: 待ってください、どうしてそれに言及するのです?アラバスターは既に — (沈黙) — 医療班、急いで。

被験体: 私は飛んでいる。荒野の空中を飛んでいる。これが非常に重大な問題であるとも知らず。

グラス博士: 落ち着いてください。一体何が問題だと言うんですか?

被験体: (呻く) 奴が来る。飢えた獣、恐怖に依存するもの、最後に訪れるもの……急がなければ — 私は逃げなければ!

グラス博士: (機動チームに向かって) 処理してください!こいつを —

被験体: 今、それは私を喰らい — [災害除去済]

<グラス博士が叫ぶ。グラス博士被験体は即座に取り押さえられるが、間も無く生命兆候が確認されなくなる>

«転写終了»

補遺終了

復号鍵: 朝聞道、夕死可矣

RED.jpg

復号鍵: 散るは桜 落つるは花の 夕べかな

s17_negate.png

Cognitohazard Warning

以下に記載される全ての情報は、サイト-17・深淵アーカイブに安全に収容されている必要があります。クラスW-ニクティクスを用いた適切な処置を経ずに以下の情報を認識した場合、閲覧者へ致命的かつ不可逆的な影響を齎すことが確実視されています。あなたが対抗措置を持たない知性存在である場合、速やかに閲覧を停止し、管理部門に申し出てください。


以下に記載される全ての情報は、適切な手段を用いて深刻な異常実体について説明しています。ファイルのセキュリティレベルは明確な収容手順が確立されるまで引き上げられています。提出された既知の問題はプロジェクトの共同リーダーであるプレースホルダー・マクドクトラート博士、ベッドロック・エンダース博士へと通達されます。

ITEM#: 2844-JP
LEVEL5
最高機密
オブジェクトクラス:
apollyon
{$secondary-text}
{$secondary-class}
撹乱クラス
amida
リスククラス:
critical
アイテム番号: {$item-number}
レベル5
収容クラス:
{$container-class}
副次クラス:
{$secondary-class}
撹乱クラス:
{$disruption-class}
リスククラス:
{$risk-class}

SCP-2844-JP、震駭におけるフラクタルパターンの映像分析

補遺2844-JP.VIII: 疑念


前文: 概念物理学的なSCP-2844-JPの起源特定の試みは、部分的に進行しています。最初期のSCP-2844-JPを構成するミーム的構造の多くは — 和学、和文化など — 日本国の文化的なミームに多く依存しています。しかし、それらのミームは著しく改変されており、通常科学では不可能な、異常な生物学的構造、医療品、食料品、娯楽、兵器などが該当します。また、一部のミーム要素は遺伝的な概念 — この場合、文化的に顕著な過去200年ほど — が意図的に多く含まれており、全てのミームは日本古来からの伝統的な文化に執着します。最も象徴的な1つのミームは、円形にくり抜かれた、生命を象徴する橙色のDNA構造です。これに関係する1つの人的コミュニティを調査中です。


SCP-2844-JPの影響による人類文明の致命的な崩壊を防ぐために、財団の潜在資産と複数のアノマリーによる認識論的な汚染除去 / 除外の試みが実行されました。以下に記載されるのはSCP-2844-JPの実験記録です。

試行2844-JP.500 - 治癒

手順: SCP-500の異常性を再現した複合的な抗生物質を曝露者に投与する。曝露者に該当する人物は、SCP-2844-JPへの曝露から明確に12時間以内、そして色覚、知覚に致命的な損傷が確認されていない。

出力: 隔離された曝露者は約2時間の拒絶反応の後に下半身不随となる後遺症を残し、認識、知覚、色覚異常の全てが完全に回復した。下半身不随は外傷なしに発生した症状であり、原因不明である。曝露者は適切なメンタルケアと記憶処理の後、精神鑑定を受け、完全に影響下から脱したとみられる。本人の所有するデータを回収するため、曝露者は一時的に職務に復帰した。

注: 曝露者は約3日後、再びSCP-2844-JPに不明な理由で曝露したとみられる。同時に、適切に除外された当人の記憶は完全に復元されていることが確認された。本実験の試行およびクリアランスの付与を行った上位職員の情報は一切が不明であり、明らかに内部構造を逸脱する異常が発生していると判断された。本件はRAISAにアーカイブとして登録され、重大な事例としてGEVURAHクラスの脅威指定がされた。

本件が意味する重大な情報災害について、現在も調査が進行中である。

試行2844-JP.001 - 厄災

手順: 物語構造の重大な欠陥を応用し、ERZATZエンジンの反演算ノードに致命的な喪失ファイル - SCP-048のカタログナンバーを代入。虚空次元に分類されるSCP-048の伝達的構成要素 (呪詛) のため、SCP-2844-JPは遡及的に崩壊または抹消される。

出力: ERZATZエンジンは自己に導入された喪失ファイルに続き、SCP-2844-JPの適切な情報を入力しようと試みた。一定の思考時間の後に、ERZATZエンジンは出力を拒緋。SCP-048の無の構成要素が暴力的に破壊され、代わりに閲覧不可能な大規模のデータで圧迫された。

後文: 現時点で発生が確認される財団内外の複数のインシデントに抵抗するため、最終的なSCP-2844-JPの解体提言が提案されました。次の補遺を参照してください。

補遺終了

補遺2844-JP.IX: オペレーション・サイアナイド


オペレーション概要

SCP-2844-JPの実在を観測することは極めて困難であり、我々はそれが如何なる理由によるものなのかを長期にわたって思考していました。非存在であったから?或いは、空虚な概念であるから? — その多くは適切かもしれませんが、我々がそれを今まで正常に思考できたように、SCP-2844-JPにとってそれは重要ではありませんでした。

狂気に呑まれて — そして機能しなくなるまで探求を続けて — 結論を見つけ出したのです。SCP-2844-JPは、非常に雄大で、神聖で、そして輪廻転生の上に位置する存在であるということ — それはが - まさしく神であるという事です。神すらも我々は凌駕します。SCP-2844-JPと対照的な1つの概念によって、この世界に真実を突き付けるのです。

ALABASTER.svg

サイト-17 — 概念物理学研究科, ミーム部門, 形式部門, 誤伝達部門, 戦術神学部門

ヴィルジール・ヴァリエ管理官, プレースホルダー・マクドクトラート博士, ベッドロック・エンダース博士

監督者指令444-444-2844 CYANIDE

2021/12/31

序文: プロジェクト: モノゴンの致命的な失態は、人類規模での混乱と異常の拡大を招く結果となった。ヴェールの完全な瓦解を前提としながらも、財団はSCP-2844-JPの完全・部分的な収容を試みている。喫緊の課題であるSCP-2844-JPの収容を眼前に起草されたのは、SCP-2844-JPの異常性を応用した”解体の試み”である。

概要: 現時点で、形式部門による条件の調査結果は以下のようになる。

条件 反応
震駭イベントの認識 敵対的
震駭イベントに対する、反復による条件付け 敵対的
装飾的な言葉遣いによる、不規則的なSCP-2844-JPへの命名 敵対的
機械的な、SCP-2844-JPに対する命名規則の集積記憶 敵対的
SCP-2844-JPに曝露した対象者についての、あらゆる名辞 敵対的
SCP-2844-JPに曝露した対象者に関連した物品 敵対的
空想的な荒野に関する全ての名辞 敵対的

上記の通り、SCP-2844-JPの性質は明らかに変容している。誤伝達部門-戦術神学部門は、こうした「認知的不協和の不在」の状況が構築されている事を鑑み、今回のオペレーションを計画した。を以て、財団は神をも収容できる。

方法: 対抗ミーム「ALABASTERプログラム」は、その一部分は未だ財団の管理下に置かれている。ALABASTERプログラムを改良し、特定の未使用の言語を散布する。仮にその言語にSCP-2844-JPが支配する概念の表現が存在しないとしたら、散布された言語によって認識を上書きされた対象は、恐怖たるSCP-2844-JPを拡散する事が困難になると仮定される。

ALABASTERプログラムは肯定である。「より強い認識」が干渉を開始した時、不協和の存在は、不協和自体を除去するために最も最適な判断を下す。SCP-2844-JPは自己矛盾によって崩壊する。

ALABASTER-言語伝染プログラム

現行の人類種に対して肯定的であるALABASTERプログラムは、現実改変によるSCP-2844-JPの自然消滅を促す。認識と伝達の齟齬によって - SCP-2844-JPはこれ以上拡散されない。

補遺終了

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