O/O: シシバ / アイス / ファック
popfuck.png

テクノブレイン・ポップファック (Tekknobrain Popfuck) は、知る人ぞ知る電脳犯罪者カウボーイだ。サカイ地区ディストリクトのコリアン・ストリートにおいて、かつて露天商から買った電極を電化脳に直載し、200 Vの瞬きとともに神聖なる啓示を受けた少年がいた。彼は後に背搬者バックランナー──地獄への道を安価で背負うフリーランスども──を名乗り、企業への侵入・データ窃盗を繰り返すようになった。

そして、致死的ギミックにまみれた企業ICEアイス……つまりは侵入対抗エレクトロニクス (Intrusion Countermeasure Electronics) を突破するたびに、彼はこめかみのダイヤルを回して、回路を伝う聖霊の導きによって神へのお伺いを立てるようになったのだ。具体的には、それは激しい性的絶頂を伴うもので、“バタフライ” 216 mL同時摂取に匹敵するエゲツない快楽と全能感を男に与えるのだった。

今現在、テックは換装腕でゴムの剥げ始めている薄汚い黒のハンドルを握りしめ、ある一つの古代的な搭乗物に乗っていた。それはルーフを突き抜けて十字架が突き刺さる (具体的には下半分が車内に埋没している)、素人仕立ての祝福されたキャンピングカーだった。窓の尽くは工業用義手の力そのままに引き裂かれた、古めかしい欽定訳聖書のページで塞がれている。完全なる隔絶。聖俗分離原則。

では、運転手たるテックは何を見ているのか? 一つは電脳ディスプレイのライト・サイドの隅に映し出される車外の景色だ。車体各所に搭載された360°全景カメラの映像を複合的に合わせて作り出された映像は、O/Oハイウェイを駆け抜ける一台の白い箱を示している。それをもとに、テックはハンドルを切っている……。

もう一つは──というよりもメインの情報は──拡張視野の大部分を占めている、ウィンドウ、ウィンドウ、ウィンドウ。現在この男は一つのICEを攻略中だった。難攻不落と名高い、神々廻シシバ コア・ICEを。


テックはぶつぶつとコード羅列を呟きながら、運転席で聖典を開く神父のように佇んでいた。頭部に刺さった6本の電極には車内の薄明かりが反射し、その表面に奇怪な紋様が刻み込まれていることを明らかにする。6つの柱のいずれもに、黙示録の一節がナイフで刻まれているのだ。

その内の一本にはこう書いてある: 「女は男の子を産んだが、彼は鉄の杖をもってすべての国民を治めるべき者である」。当然、鉄の杖とはこのホーリーディックを意味するのだと、彼は常日頃から言っていた。

彼の脳内はフル稼働だ。電化脳の拡張メモリでも足りず、果てには車体後方にいくつかの追加脳を設けないといけなかった。すべての筐体には金色の十字架が取り付けられている……素人なりの聖別手段。

すべては“それ”に対抗するためだった。生ける穢の主、不具なる子、太陽神に成りそこねた存在。

「テック!」

車体後方──追加脳の更なる奥地──から、切羽づまった少女の声が轟いた。

「4人死んだ!」

「クソ──こちとら神サマ積んでんだぞ──」

「仕方ない。4人で済んだだけまだ相当マシだよ。奴なら地区ディストリクトごと落とすのだって容易いはずだ」

ミレニアム・アメーバ (Millennium Ameba) はそう言って、薄黒いナイフを翳す。LEDを背に生み出される影から、一つの雫がドロップした。

「あと5人作る。酷いBGMでも流してて」

アメーバは再びタオルを噛みしめる。顎が外れそう。それでも、これは必要だ──テックが上手く行くためにも。己の指にナイフをあてがいながら、アメーバは思う。僕らは全てを征服するんだ。

……落とした顔の向こうから、猥雑なテクノロックが流れ出した。


神々廻シシバはこの異空混沌都市国家、アウターオーサカの王の一つだ。6つある玉座に座る、巨大企業集団の一つ。そして王の上には神がいる──しかし、テックはそいつを神だと認めたことはない。ジャポンの悪魔だ。いや、等身大の“悪魔”ならサカイにでも行けばいくらでもいるが、そんなものじゃない。そいつは本物の悪魔なのだ。

H.R.K.ヒルコ

異邦の国産み神話において、違法の性交渉が生み出した“生まれ損ない”。海の彼方へ流され、他界へと没したそいつは、3000年ほど経った頃、一つの街を喰らって成り代わった。それがこの街だ。

王どもはH.R.K.ヒルコと契約している。連中の経済活動は信仰となってH.R.K.ヒルコの腹を潤わせ、H.R.K.ヒルコはそれに“祝福”でもって報いる。その一例として、神々廻シシバのICEはそいつの力を借りている。

都市全域に及ぶ逆探知神罰システムによって、侵入を試みた馬鹿なハッカーどもに呪いをかけるのだ。具体的には、そいつの脳内に子供が生まれる。比喩ではなく、文字通りの意味だ。脳が丸ごとガキに変わって、頭蓋骨を中からコンコン、コンコン叩いて死んでいく。

だから、当初依頼が来たときは断ることも視野に入れていた──当然だ。お前の頭を孵卵器インキュベータにされるかもしれないのに、誰がそんな依頼を請け負う? 頭イッちまってるのか?

生憎、その時の俺は頭がイッちまっていた。電極6本200V、フルでリズムに合わせて連続御神託オラクル。ジェネシスだって見てきたし、全ての終わりも目の当たりにした。10分間で聖書の頭からケツまで旅行してみせた。

つまり、俺はそのとき預言者キリストだったわけで、だから何でもできたんだな。安請け負いしてからまた聖書を3周ぐらいしてたんだが、その後落ち着いてくるとやっぱり不味いんじゃねえかという気になってきた。なるだろそりゃ。普段の俺は一介のランナーにすぎないんだ。

だが、そこで扉がバカスカ叩かれた。どこのどいつが取り立てに来たのか知らねえが、念の為にマグナムを掴んで迎えに行ってやった。BPM300ぐらいの勢いでドアノブを回しまくるそいつは、聞き慣れた声でこう言っていた。

「テック! 飲ませろ酒!」

そいつを聞いたとき、俺の身体に文字通り電流が走ったよ。素晴らしい天啓があったのさ。


車体後方をこれまで詳しく描写してこなかった。そこには何があるのか? 答えはこう。何人ものアメーバが鮨詰めってわけだ。

ミレニアム・アメーバは自己分裂性疾患の患者だ。ある閾値を超えた負傷をするたびに、彼女は新たな分裂体を生成する。彼女だって最初は治したがっていたらしい──誰も気味悪がって近寄らない。特に分裂中の光景が不味かった。一度、彼女を受け入れてくれたクラスがあった。それはこじんまりとした中学校だったが、教師やクラスメイトの皆が何らかの“異常”性を共有していた。

花籠みたいなものだ……実際にはややカルトのケがあったらしいが、そんなことはよくあることだ。実際、花籠だってそうだろう? これまで自分一人でお友達を作るしかなかったアメーバにも、ようやく友人と呼べるような人々ができた。パーティは家族だけのものじゃなくなったし、ケーキは1つじゃ足りなくなった。

しかし、平穏はある日突然失われる。それは手榴弾のピンを抜くときと似ている。実際、アメーバとクラスメイトの分かれも爆発によって引き起こされた。その日、

これまで自分一人でお友達を作るしかなかったわけだが
事故で木っ端微塵になった肉塊や内臓がうめき声を上げながら何十人ものアメーバになる
O/Oにおよばれ

精度がおかしい
アメーバの頭を突き破って何かが出てくる
新式だ あいつら実地試験 (サクリファイス) に使いやがった

人身御供 (フィールドテスト)

頭が痛い

電流を頭に流す! オラクソガキ! 神の威光を喰らいやがれ!
まだ走る! アメーバのガキは蹴落とす

あるいは新たに生まれたデカ赤子にそのまま電極がブッ刺さってテックの支配下になり、テックの身体も2つに増えるか
洗礼だよ テメーにテクノポップなクリスチャンの名前を与えてやる
「」

電技泡夢テクノポップ

そうさ 鉄の棒は俺の手にある
支配者は俺だ あんな野郎じゃねえ
その時不思議な光が!(電圧)
相手の自我を自分ごと消し飛ばして代替自我をインストール (自我破壊に備えて10分間隔で変更点をコピー済)

ポップファックは死んだので神罰は止み、アメーバは吹き飛んだ脳味噌の破片からワチャワチャと再生して車内がギュウギュウ詰めになる

特に明記しない限り、このページのコンテンツは次のライセンスの下にあります: Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License