Finally it works
… in iPhone!
UPDATE 1.08: 2018/11/21
UPDATE 1.07: 2018/11/03
UPDATE 1.06: 2018/10/30
UPDATE 1.05: 2018/9/29
UPDATE 1.04: 2018/9/16
UPDATE 1.03: 2018/9/06
UPDATE 1.02: 2018/9/05
UPDATE 1.01: 2018/8/25
そいつに取り込まれると楽園ワルハラに行けるという、警備チーム内での噂があった。
そして実際に、俺はそいつの「音」を生で聴かされる破目になって……
その時、俺の胸の中は、期待でいっぱいになったんだ。
……は[編集済]大量の日本製に見える"おもちゃ"で構成されており、…… (略) ……自律動作をし、主に身体中の"おもちゃ"がひしめき合う「がちゃがちゃ」「ガラガラ」と報告される音、加えて時折[編集済]を発しながら歩行します。
ヒト被験者はこの音を直に聴き続けるうちに警戒心を失い、…… (略) ……の内部へ進入していきます。……
被験者の身体は……中へ完全に入り込み、[編集済]…… (略) ……はその分の体積を増大させます。
他の被害者が皆そうやったように、俺は、そいつが開けた口の中へと自ら飛び込んだ。
ヒーローたちの秘密基地に、スーパーマシン。お船や、お城に、ふわふわの、クマのぬいぐるみ。無数のオモチャが俺を迎えて……“かじる”。X方向、Y方向、Z方向。あらゆる方向から押しつぶされ、引き裂かれる。しかし、激痛の感覚は、脳内で激しく分泌される快楽物質か、死による意識の喪失かによって、段々と和らいでくる。
がちゃがちゃ。ガラガラ。ブウブウ。ギュウウ~ン。オモチャ達の、不規則なマーチ。その遥か向こうの、何だか、「あたたかい」方角。トロイメライ……夢の世界、あるいはネバーランドの方向から、段々、少しずつ、違和感が、聞こえ始める。
これは……合奏のチューニング、か? それは次第にクレッシェンドして、こちらに近づいてくる。そして、聴覚と共にめちゃくちゃにされたはずの視覚もまた、ずっと遠くの方から、何やら、ぼう、と薄赤い光が、俺を招いてきているのを認識し始める。
……どうして、気づかなかったんだろう……
楽器というものも、また、音の出る楽しいオモチャの1種でもあるということに。
……
「……君、フルート、二年、……君、……さん、……さん、……君、アルトサックス、二年……」
窓一面に夕焼けが貼り出された吹奏楽部の部室で、コンクールの一軍部門に選ばれた部員の名前が読み上げられる。俺も他の皆と同様、落ち着かない様子でクラリネットを握っていた。
「……クラリネット、二年、……君、S君、……」
そして、ついに自分の名前が呼ばれるや否や、俺はパート内で一番の親友と顔を合わせて、喜びを分かち合った。
他の皆も、暖かい言葉をかけてくれる。良かったな。頑張れよ。
……暖かい言葉を。
なのに、何だ、この、……部室に来てからずっと感じる、こう……「何か」は……
励ましの言葉を交わす中で、俺は持っていたクラリネットに目を向ける。俺は、栄誉の……いや、本当は……
手の中の楽器を見つめている内に、俺は、自分への「視線」を知覚し始めた。
誰もいるはずのない、ずっと後ろの方から、何かが……視線が、X方向、Y方向、Z方向、あらゆる方向から、この俺に、監視カメラすら置けないような、緋色に光る窓の外からも……
……忌まわしい。
気づけば、まずは1回、選抜メンバーで課題曲の合わせをしてみようという話になっていた。
楽器を構えて前を向く。指揮者、俺たちの名が書かれたホワイトボード、音取り用のキーボード、それらの奥の方にある、あまり使われない黒板に、何やら数字が書かれているのが見えた。
イチ、ナナ、これは何だ、いや、本当は知っている、それに続いて“栄誉ある”あの「ナンバー」が完成し……
調子笛ピッチパイプが鳴る。俺は急いでそこから目を逸らし、選ばれしものたちと同様に、マウスピースを咥え、そこにある、……の楽器に、命を……
急に、怪物の眼前へと引き戻された。防音装備は相変わらず壊れていて、俺は誘われるままに奴の中へ行くしかない。
咀嚼。肉体の崩壊。やがて来る、チューニング……同じ音階の圧力。
そして気づけば、再び吹奏楽部の部室にいた。
名前を呼ばれる。喜んでもらえる。選ばれた (俺を含む) メンバーで、合わせてみよう。
窓の向こうにいる、怪しく赫あかく、夜に投げ込まれてゆく初夏の夕日色は、容赦なく俺達を灼いて、汗だくにしてくる。
……なのに、なぜ、ほんの少し、ほんの少しだけ、空気が冷たい感じがするのだろう?
チューニング。指揮者も準備をする。俺は「再び」マウスピースに息を……
……やあ。
さっき会ったばかりなのに、また、俺は怪物に引き合わされる。すぐさま、食われて……そして、学生時代の、吹奏楽部の部室へ。
俺への視線が、増えている気がする。それはどう考えても、ポジティブな注目じゃない。
名前が呼ばれる前に、手を上げた。気分が悪いので休憩したい、と。
そう言って部室の扉に手をかけて、鍵がかかってもいないのに開けられないことを確認する。やっぱり自分の椅子のところで休む、続けてくれと読み上げ係に話す。
合わせ、チューニング、楽器を手に……「今回」は、部長がピッチパイプより先に電子メトロノームを起動させた。
イチ、ニイ、サン、ヨン、4拍子のリズムを意識して前を向く。すると、黒板に書かれた、イチ、ナナ、サン、の次に、もう1つ、「3」の数字が見切れているような気がした。
そして楽器を吹くと、すぐさま、怪物に食われるループへ。
……何だ、これは。無数のオモチャはどこへ行った? こんなものが、この程度が、本当に、栄誉ある番号の……
いや……何か、間違っているのか?
“そして繰り返す。”
数度の繰り返しで、部室には、明らかに「初め」は存在していなかった、ピリピリする異様な空気が蔓延するようになっていた。
何者かが勝手に、俺の脳内に情報を与えてくる。
栄誉ナンバーの次に3を加えた、非常によく似て、しかし非なる数字。それは、時間のループへの監禁を示す、と。そして、その「ループ」と「監禁」は、俺だけではなく、その空間にいる全員を、苦しめるということらしい。
……怪物は沢山の人間を取り込むので、研究クリアランスを持つ被害者の意識が、俺に混入でもしているのだろう。
何度も全身を骨まで齧りつくされるのは、例え奴の「精神影響」によって謎の幸せを感じているとはいっても、多大な苦痛と消耗が発生することには変わりはない。また休憩、と言って手を上げ……ようとすると、まるで部員全員から睨み返されるような感じがしたので、俺は率先して、逃げるようにクラリネットを吹くしかなかった。
……食われては吹奏楽部で目を覚ます。部員たちはネガティブにざわつく声を上げ始め、ループが進むごとに、そのどよめきは強くなってきていた。
ついに舌打ちの音を聞いたような気がした俺は、名前の読み上げなんかが済んでない時点でマウスピースに息を入れた。すると、それでも「リセット」ができた。
……そもそも、最初から、この部室は、個人的に逃げ出してしまいたい場所なんだ。マウスピースを吹けば、ひとまずは、退避することができる。でも、そうすると、またオモチャたちに圧し潰されて、結局は部室に戻される破目になる。
どんなにあの場所へ戻りたくなくても、「夢のような」怪物を前にすると、いくら身をよじったり、後ずさりしたりをして抵抗をしたって、結局は奴の誘惑に勝てず、自分から奴に近づいていってしまう。……そして、次のループが始まる。
部内の緊張感は高まる一方だ。
何人もの部員が、部室の扉や窓を激しくガタガタと動かしている。しかし、びくともしない。
“おい、S、何とかしろよ!”
どこからともなく、名指しで俺の責任を追及する声が上がる。……心のどこかで分かっていたこととはいえ、やはりショックは小さくない。
待ってくれ、そう言おうとしたが、言おうとしたのを悟られただけで憎悪の倍増を感じ取った俺は、素直に次のリセットを実行する。
だが、幾らリセットをしたって、食われてすぐ部室に戻るだけで、進展は何もない。
激しい怒号が飛び交う。先輩後輩の間柄を含めて、皆が和気藹々としていたはずのクラリネット・パートのメンバーが、こぞって俺を掴み、引っ張り、無理矢理、クラリネットを吹かせようとする。奴らの指や爪が、俺の節々ふしぶしに、深々と食い込んでくる。糞が。
ふと、俺の襟首がぐい、と引っ張られる。パート内で一番仲が良かったはずのメンバーの、怒りの形相が間近に迫った。
「S、さっさとしろよ、この野郎!」
親友と思っていた奴のそんな声を聞くことになるとは、思ってもいなかった。
大人になり、しかも何の因果か秘密組織の警備兵という職に就くことになったものだから、人からの恫喝、追及なんていうのは、新人時代や訓練ですっかり慣れっこにさせられた、気になっていた。……この、背中に温度の無い風が吹き抜けるような感覚は、ひどく久しぶりだ。
そして、ひと呼吸を置いて、奴は溜め込んだものを吐き出すかのように、叫んだ。
「……ズルしてコンクールに受かった癖に!」
……汗が噴き出てくる。暑いからだけじゃない。やめてくれ、と言おうとしても口を開くことができない。
俺は歯を食いしばり、右手のクラリネットを更に強く握りしめる。
父さんのクラリネットを。
「俺たちが、何も分からないでいたと思ったか?」
かつて親友であったものは、なおも責め立てる。
……コンクールの時期が近づき始めて、周りよりも遅れて選抜メンバーの栄誉に興味を持った俺は、密かに、自分の楽器を、学校から支給された教育目的の備品から、かつてプロの演奏家が使っていた高級品へと取り替えて、練習に勤しむようになっていた。
「俺たちだって、きちんと練習していたんだ。急に、不自然に良い音が出るようになった奴のことなんて、簡単に分かる」
そして、俺は晴れてコンクールの選抜一軍メンバーになることができた。
「コンクールの後の打ち上げの時も、卒業の時も、俺たちは、そのことに触れなかった」
おまけに、ソロパートを演奏する機会までも与えられた。コンクールは金賞だった。
「お前のためじゃない。パートメンバーの、和のためだ。お前みたいに悪いことをするやつがメンバーにいるなんてことは、あっちゃいけない」
俺は口を開いたが、震える息しか出なかった。あれは、何かのルールに違反しているような行いでは無かったはずだ。
「……でも、ダメだった。結局コンクールの後、俺たちのパートには微妙な不和が広がり始めた。疑心暗鬼、不寛容、高め合う意識とかではなく、他人を蹴落とす思考。気づかなかったのはS、お前だけだ」
……ただ、言わなかっただけだ。周りの、特に仲の良いメンバーに対して。
「クラリネットだけじゃないぞ、S! お前の悪影響は、他のパートにも蔓延していったんだ! お前の、僕たちの代よりも、もっともっと下の世代にもな!」
フルートの方から、いかにも神経質そうな罵声が飛んできた。
他の奴らも、次々と糾弾に参加し始める。先輩、後輩、男子、女子。
「そうよ! そんな風にして、だんだん、うちの部が昔よりも楽しくなくなった、って言う子が出始めてきたのよ。それを聞かされる後輩たちの気持ちが、あんたに分かる、S!」
「後ろの代の子たちは、本当に苦労をして、部を立て直そうとしていたよ」
「それでも、まだ、うちの部は全盛期の勢いを取り戻せていない、なんていう人間も多いんだ……お前は何も、知らなかっただろうがな!」
ノスタルジーの外面を捨て、現在の追及に躍起になっている部員どもは、段々と、その身体を変質させ始めていく。
奴らの顔は一瞬、少し大人びたような表情に変化したが、次の瞬間から、金属、または塗装された木材のような異形の質感を帯びてゆき、次第に全身の方もグニャグニャと曲がって、非人間的な形状を成すようになる。
奴らはそうして、グロテスクなクリーチャーになった、わけではない。その形状を俺はよく知っている。
トランペット。ホルン。チューバ。フルート。クラリネット。
……なるほど。同窓会の類を忌避していた俺にとって、奴らの「今」の顔を認識することはできない。だから奴らは、俺が今でもそいつらを識別できる記号の姿に、変化したわけだ。
“全部お前の責任だ! お前が、この部活どころか、このコミュニティそのものを、つまらなくしやがったんだ!”
何を言っているのか、分かるが、分からない。言葉のイメージと共に、一斉に発せられるフォルティシモの音色が、俺の耳を壊さんとばかりに響く。
“お前がこのコミュニティの質を、品格を下げたんだ!”
「これ」が、奴らの正体だ。まさしく俺は、未まだ、オモチャ群体怪獣の内部にいるのだ。
人間を取り込み、磨り潰してオモチャに加工する怪物。楽器もまた、音の出る素敵なオモチャ。そして奴らも、そいつの中に、確かに居たんだ。
生きた人間から作られた、言わば、楽器生命体……奴らは、俺を弄ぶ。ひとを、オモチャにしやがる。
俺を肉袋のお手玉にして、ループの「ジャグリング」で楽しんでいやがるんだ。
“全部あんたのせいよ! あんたみたいな腐った根性のやつには、選抜メンバーなんて、相応しくない!”
部屋の中で2倍になった楽器たちの大合奏。ジャーン。ブーブー。パフパフ。ドーン。……何がトロイメライだ。人のトラウマをほじくってきやがって。
“お前は、このコミュニティ自体に、相応しくない!”
“お前の存在自体が害悪なんだ、このゴミ野郎め!”
奴らの意思、悪意……奴らはこの無秩序な不協和音によって、俺が部室に来るたびに、すぐにマウスピースを吹くようにと、圧力をかけてきているのだ。奴らは俺への続けざまな、意識の混濁、そして喪失の体験を強要しているんだ……永遠に。
この雑音を、敢えて題するならば……交響曲“失神”、とでも言ったところか。
“てめえなんか、永久除名だ!”
“死ね、失せろ!”
分かった、もう分かった、いい加減にしてくれ、頼む。
“いや、せっかく時間が昔に戻ったんだ。ここで、コンクール一軍メンバーの参加を辞退しろ!”
もう、これ以上は……俺は、ただ、ぎゅっと目を瞑った。
俺の身体は“クラリネット”に胸倉を掴まれ、少し宙に浮いている。そうして群衆から少し高い所にある俺の頭部をめがけて、ありとあらゆる罵倒が、360度の方向から、まだまだ飛んでくる。
閉じた瞼の裏に浮かぶのは、後悔……ではない。
周囲からの、とりわけ俺を掴んでいるやつからの激しい憎悪。もう今にも、更に直接的な俺への暴力へと移行しかねない、緊張の高まり。
そういった危機に対して、俺は、自分が、腐っても1人の、機密施設の警備職員であることを思い出していた。俺には、スパルタで叩きこまれた、軍隊式の、護身と制圧のための格闘術の心得がある。俺の業務には、日常的に訓練のスケジュールが組まれている。
確かにこの状況の責任は、俺にあるのかもしれない。でも、それはそれとして、俺が肉体的な危機に陥るのであれば、かつて苦楽を共にした仲間だとしても、俺はそいつらを「ひとひねり」にして、安全を確保する必要が……
(……待て、)
しかし、別の思考が俺の暴力衝動に静止をかける。
かつての仲間たちから昔の過ちを責められて、感情が爆発してその仲間たちを手にかける、だって? そんな話は、あんまりにも、アレな……クリシェあるあるってやつではないのか? 俺はそんな、ありふれた考え方しかできない凡夫なのか?
もっと、「面白い」やり方でこの状況を打破することはできないのか? 俺にはそれくらいのポテンシャルが、あっても良いのではないか? なんていう風にどうして急にこれからの展開について「面白い」かどうかなんてどうでも良いことを考えるのかという至極真っ当な疑問が頭に浮かんだにもかかわらず俺はそのことを追求することはせず、「改めて」の次なる手に対しての思考を、張り巡らせていると……
ふと、怒号が静まり返っていることに気づいた。俺は、自身の胸倉を掴んでいた、上方向への怒れる力もすっかり消え失せている (よって、俺の足は地面に付いている) ことまでには気づかずに、目を開けた。
……吹奏楽部の閉じた部室が、血と死体で溢れかえっていた。
楽器生命体となって俺をさんざ罵っていた連中が、目を開けた時には、人間の姿に戻り、何だかよく分からないが、血を吐いて、身体の色々な所から血を出すような死因で、そこら中に倒れこんでいた。
俺はますます目を剥いた。そして、気づいた。ここはトロイメライ、夢の世界だ。目を瞑っていた時に、俺は、部員全員を皆殺しにすることを、一番最初の対処のアイデアとして思いついてしまった。
だから、その夢が実現してしまった、ということなのだろう。
……一番、つまらないと思ったことが、起こってしまった。どうするか。すぐに分かった。
まずリセットして、すぐさま、部活動をやっていた頃から気に食わなかった奴1人の頭を吹っ飛ばしてから、再びリセットした。……ここが夢の中だと改めて理解した今では、その世界に銃を持ってくるなんてのは造作も無いことだ。
そして部室に戻ると、恐怖政治を始めた。歯向かう奴は、銃と体術で殺した。閉じ込められた部室の中にある、食べ物と飲み物になるものを、全て独占した。俺が何日もリセットをしない間、奴らが飢えと渇きに苦しみ、1人1人倒れていくのを、ただ黙って見届けた。
もしも俺が反抗されて、劣勢になるようなことがあっても、またリセットすれば済む話だった。最早マウスピースのパーツはクラリネットから引き抜かれ、常に俺の懐に忍ばせられている、リセットのためだけの道具と化していた。
(……違う)
……素晴らしい。俺は愚かだ。理解が遅すぎた。
ここは、まさしくオモチャの楽園じゃないか。すぐに元通りにできて、どんなことも試して、遊べる。
最高の箱庭、“サンドボックス”だ。
……幾度となく部室を暴力と殺戮の渦に巻き込んだ後、俺は「綺麗め」な女子を犯し始めた。ある者は恐喝して強姦し、そしてリセット後、そいつに自分から奉仕するように命じた。ある者には間接的な恐怖を示唆し続け、いずれ率先して此方こちらを誘惑してくるように仕向けた。肝要なのは、遊び方の多様性だ。 (……違う、そうじゃないんだ、)
恐怖、暴虐、性。それ以外に良質な邪悪というのを考えて、排泄に関する企みというのも、実行してみた。……けれど、これは失敗だった。その時に最も悲惨な目に遭った奴は、次のリセット以降もずっと狂ったままになって、使い物にならなくなってしまった。 (せっかくのオモチャが1つ、壊れちまった)
そして、その次は……
あれっ。?
その、次は……
(違う、……もっと、誰も見たことのないくらい、非人道的なことをしなければ)
……面白くない。
……恐らく、60回目くらいのループ。出られない教室には、死体が散乱している。大体の死体は、壁に打ち付けられるようにして斃たおれている。
最初に「キレた」時とは、また様子は違う。あの時は、漠然と奴らを皆殺しにすることを考えていたから、奴らはよく分からない死に方で全滅していた。だが、今の俺は、想像して持ち込んだ、永遠に弾切れしない自動小銃を持って、呆然と立ち尽くしている。
汗まみれで過呼吸だ。この汗は、知恵熱のアツさによるものだ……
いや、それは嘘だ。特に何も考えアイデアは無い。無いんだ。
死体の状態は、とても良くない。狙ってやったものだ。敢えて、腹、下半身を狙って撃ちまくった。
そうして……床じゅうに、血と排泄物の混じったものが、堆積している結果となった。
ありがちなスプラッターだ。何の芸術性も無い。でも、これ以上もっと面白いことって? ……もう、考えられない。
自動小銃を手放して、椅子にどっかりと座りこむ。
神にもなれるこの砂箱を与えられて、このザマか。俺は最早、公園の砂山で遊ぶ子どもよりも、創造性が無いのではあるまいか。
……頭の中身が、「星のカービィ」のカービィに吸い尽くされているような感じだ。そのピンク色のクリーチャーがぽっかり空けた真ん丸な口の中には……非常に巨大な無が、広がっている。
椅子に座りこんで、うつむく。何もしない。何もできない。
俺はこの世界の王様だ……だが、その王は、極めて無能で、無価値だった。
そんなやつが、王の座に君臨してしまった。そこには、明らかに……間違いがあった。
……第一、暴虐の限りを尽くしている間に、
……虚飾の玉座。その内心で、「違う」「俺の本当にやりたいことはこれじゃない」だのと叫ぶって?
……そんな演出を、過去に誰もが何度、やってきたと思っている?
この怪物は結局、影響下に置いた人間から作ったオモチャの塊であるわけで、収容の際は、できるだけ影響力が少なくなるように、できる限りぶっ壊して、あるいは分解してから檻に入れるのだという。今、俺が座っているこの場所は、過去に取り込まれ、その「破壊」によって追い出された、誰かの領域なのだろう。
そこに残されたのは、虚飾の玉座だ。座する主を失ったそこは、第2位次収容違反による「城」の再始動によって、その玉座に再び相応しい者を捜し始めたわけだ。
……だが、本来、俺は、ここに座るべきでは無かった。それを、まざまざと自覚されられている。
ふと、栄誉ナンバーの1つである「3」と、それに同じ3つをかけた「9」という数字が、何やら頭にちらついてきた。
……ああ、そもそも、スランプやイップスが引き起こす怪奇の物語自体だって、前例があるじゃないか。
ずっとずっと、昔から。今に至るまで、何度でも……
俺には……俺には、こいつは、過ぎたオモチャだったのか?
血だまりの中に放置されていた、俺の (いや、本当は俺のじゃないだろ?) クラリネットに手を伸ばす。マウスピースをしっかりと嵌めると、それは久方ぶりにクラリネットとしての完成形を見せる。
俺は改めて、そいつと向き合う。良い考えなんてないが、前に進まないと何も始まらない。
俺は、顔を近づけて……
室内のどこよりも酷い臭気に当てられて、思わず俺は、それを再び血だまりの中へ投げ込んでしまった。
……リードが腐っている。
思えば当たり前だ。最後に吹いたのは何十年前だ? もっと早く気づいてしかるべきものを話の後半まで引っ張るなんて、本当に俺ってやつは、まるでクリシェの主人公じゃないか (笑) ……何も笑えない。
血だまりから、代わりに、自動小銃を拾った。
血に汚れてはいるが、その血も鮮やかで、何より、その血を拭きとって、現われてくる銃身は……
(うん、こっちのオモチャの方が、ピカピカしてる)
俺は銃口をしゃぶりながら撃った。
……悪いことというのはできないもので、非道を行っておきながら勝手に死んで終わらせようとした俺が放った弾丸は、頭のちょうど良いところを貫通して、俺に一命を取り留めさせた。
生命と意識がある状態で、ギリギリ致命傷でない銃創が、喉と脳と後頭部に残留し続けることによる、その痛みとショックを、もしも精緻に記述できたのならば、それこそ、読者諸君に、特別で面白みのある極上の恐怖と悪感情を体験させられるのだが……しかし、語彙と精神の薄弱な俺には、「筆舌に尽くしがたい」痛みが全身を駆け巡り続ける、という風にしか言い表せない。
おまけに、部活動の世界でループを断とうとしたわけで、どうやら怪獣に食われる世界へと、頭部にそんな傷を受けながら戻ってきたらしい。全身をオモチャどもが上下左右からガチャガチャガチャガチャと圧迫、摩擦して、激痛を加速させる。よく失神しないものだ……寧ろ、何で意識があるんだ?
俺の身体は、そうして、しかし、そんなオモチャの中から引っ張られていくような、何やら、力の「ベクトル」も知覚し始める。それから俺は……あっけなく、怪物の中から、機動部隊によってガラガラと引きずり出された。
第2次収容違反鎮圧完了報告 (概要): …… (略) ……収容違反中に取り込まれた警備員Sを含む数名…… (略) ……回収された。
これが、正しい遊び方だったのか?
特に警備員Sは取り込まれた後、比較的早い段階で機動部隊に救出され、その段階で重傷を負ってはいたが意識ははっきりしており……
……いや、待て。
……後遺症による身体欠損はあるものの日常生活に大きな支障は無く、現在はEクラス事務員として復職している。心理検査によれば、現在までに心理的外傷はすっかり治癒されたものと評価されている。
どうして、俺は、俺を見ている。つまり、どうして俺の視界にある、俺の身体の像は、ピクピクして、担架にかけられながら、そして、俺の視界から、遠ざかっていくんだ……?
……突如、俺の視界は熱い煙に包まれる。
サイト警備チームとは格の違う、「機動部隊」による集中砲火が浴びせられたのだ。
“たまらない”、俺は身をよじる。そして、怪物が身をよじる。
そうか。……俺は、こいつの中に閉じ込められることになった、俺の悪い心か何か、なのか。俺が最後に見た、俺の姿は……平和的に物語を終えたか、あるいは正しい遊び方のできた、並行世界の自分なのだろう。
機動部隊は統制の取れた動きで、「再収容プロシージャ」をこなしていく……即ち、集中砲火で俺=怪物の叫びすらをかき消しながら、その身を剥がして小さくしつつ、その火力から逃げていく怪物=俺を、巧みに収容室へと誘導していく。百発百中の銃撃が、怪物の表層にあるオモチャを正確に穿ち続ける。
……この怪物は結局、影響下に置いた人間から作ったオモチャの塊であるわけで、収容の際は、できるだけ影響力が少なくなるように、できる限りぶっ壊して、あるいは分解してから檻に入れるのだという。
機動部隊は俺=怪物の身体を完全に安全Safeな大きさになるまで、執拗に銃火器で切り刻んだ後、遠隔操作の自動機械を用いて、「それ」を収容室の奥へと放り込んだ。
プロシージャは瞬く間に完了した。一点の乱れも無く、流れるように終わった作戦展開は、サムライの居合のごとし。何なんだ、このバケモノどもは……
そして、修復を終えた収容室の扉が、重そうな音と共に、再び封鎖された。
後はもう、この暗い部屋の隅で、がちゃがちゃ、ガラガラと縮こまっているくらいしか、できることはない。
……“それで私が書いた奴はこれで終わり”……というわけには、行かないな。
どうにも気がかりな点が、あるんだ。
今回、俺が遭わされた目というのは、明らかに「俺」と関連づいていた。
これが、この「怪物」の全てか? 他のやつが取り込まれても、吹奏楽部の部室に飛ばされる? そんなことは無いだろう。
こいつの持つ特殊な能力、異常性というやつの、その本質は何か? どうしても、気になるんだ。
そのために必要なのは、データの収集だ。どんな奴が取り込まれたら、何が起こるのか。もっと多くの、サンプルを識しらなければ。……きっと「俺」だけじゃなく、この中にいる「みんな」も、同じ気持ちを持ってくれていると思う。
データが必要なんだ。今は、何もできないけれど。
次に、……動けるのは、正直、他の「特別収容オブジェクト」が「収容破り」をした時なんかの、その混乱に乗じて、外に出られたときだろう。
もし、そのチャンスが巡ってきたら……
次は、君のエピソードを、教えておくれよ。
まだ、データが不足しているんだ。この物語を、至高の形に仕上げるためには、まだまだ、もっともっと、もっとたくさん、データを見て、比べて。インプットしなければ。
……
もっとデータを、集めないと……