地点[編集済]で報告された超常現象の調査に向かった機動部隊お-0("代弁者")-第2分隊は、メンバーの1人である有見隊員による反乱という事態に遭遇しました。この時の有見隊員は[削除済]能力を行使できる状態となっており、残りのメンバーは抵抗/鎮圧に失敗、全員殺害されました。回収に成功した現場の記録からは、有見隊員が低く唸るような声で解読不能な言葉を発して反乱を開始し、やがて既知の言語による様々な罵倒語や差別用語を使用しながら、他の隊員を殺害していく様子が残されていました。
有見隊員は地点[編集済]から失踪後、続いてサイト-[編集済]に侵入しました。そして警備職員と一般職員合計[編集済]名を殺害し、SCP-2662-JP収容セルを強奪したセキュリティキーで開放しました。
有見隊員はセル内に保存されていたD-2662-JP-3 (当時最新のSCP-2662-JP被害者であり、SCP-2662-JPを再放出していない) の生命維持装置を解除し[編集済]ました。起き上がったD-2662-JP-3は鎮静化/植物状態から回復しているように見えます。 ([削除済]と考えられていますが、調査中です)
復旧された監視記録より
[サイト-[編集済]に出現した有見隊員の話し方は[編集済]日本語を多く交えたものに変化している。当抄録上の記録においては、発言の該当部分は人文資料チームにより、可能な限り一般的な口語調に変換して掲載する]
有見隊員: 嘆かわしい。愚かしい。
[有見隊員が生命維持装置を解除し、[編集済]]
有見隊員: ……目覚めよ、崇高なる使命を忘れたのか、この大馬鹿者めが。
[生命維持装置内で起き上がったD-2662-JP-3は有見隊員と反対方向に飛び退く]
D-2662-JP-3: うわっ、何ですか、引くなあ。
有見隊員: まさか、これほどまでの低俗に堕ちているとは。誇りは、全て失われているのか。何と、嘆かわしい。
[有見隊員は後ずさるD-2662-JP-3にゆっくりと近づいていく。その腕[編集済]おり、[削除済]によってD-2662-JP-3の逃亡を防いでいるものと分析されている]
D-2662-JP-3: いやだから引くって。何百年前の話し方なんですか、それ。ネトウヨにもそうそういませんよ、そんな奴。
有見隊員: はぐらかそうとしても、無駄だ。冒涜的な者。糞餓鬼めが。
[D-2662-JP-3は有見隊員の接近に伴い、少しずつ収容セルの壁に追い詰められる]
有見隊員: 今一度、答えよ。お前は、崇高なる使命を忘れたのか。
[D-2662-JP-3の不明瞭な呟き声が聞こえる。分析により"[判別不能]げやがって"と確認。これは有見隊員には聞こえていないと推定される]
有見隊員: お前。私。我々には、偉大なる5億の──
D-2662-JP-3: [遮る] ああ、5億なんですか。こっちは3百万ですよ。
有見隊員: さ、3百万だと!?
[有見隊員は明らかな激しい動揺を見せ、D-2662-JP-3の胸倉を掴んでその身体を宙に浮かせ、壁に押し付ける]
有見隊員: き、貴様、そのようなあまりにも重大な立場。使命。貴様、貴様はそれを、打ち捨てているというのか。
D-2662-JP-3: おやおやお怒りですか? それならさっさと、ば、ば、えっと、もういいや、"ばさらでか"すればいいじゃないですか、私のことを。
有見隊員: ば、ばさ、何という。滅多なことを。若い者がみだりにそんな事を――
D-2662-JP-3: [遮る] 分かってますよ、あんちゃん。あなた、本当は久しぶりに同胞に会えて嬉しいんでしょう? 良いじゃないですか、素直になりましょうよ。ちなみに、私だって同じような感じの気持ちですよ。ああ、良いですねえ、運命の再会。こんなことならメスに取りついておくんだった。私は残念ながらホモではないからね。
有見隊員: 何を馬鹿な。呆れる。力の怒りを通り越して、今は呆れがあるのだ。
D-2662-JP-3: まあ、ともあれ、にいさん。落ち着きましょうよ。にいさんがやる気に満ち溢れているのは分かりましたから、もうちょっとどこか静かな場所へ行って、作戦でも練りましょうや。僕ら幽霊族の作戦会議です。
有見隊員: ゆ、幽霊、何だと。
D-2662-JP-3: 幽霊族。僕たちのことですよ。忘れました? 形が無くて、人間に取りついて。あれ、もしかして知りません? ゲ、ゲ、ゲゲゲの──
有見隊員: [遮る] 幽霊、我々のことを、幽霊だと!? ああ、何という冒涜。若造、貴様の誇りはどこにあるのか。我ら崇高な──
[D-2662-JP-3は自身を壁に押さえつけている有見隊員の腕を、強く平手で何回も叩く]
D-2662-JP-3: [声を小さくして] 視聴者様に分かるように言ってんだよこのトンマ! いっちゃん大事なこのセルの監視装置をほったらかしやがって!
有見隊員: か、監視だと。
[有見隊員は辺りを見回すが、収容セル内に埋め込まれた監視システムに気づく素振りは見せない]
D-2662-JP-3: [約1秒のため息] 全く。ねえ、とっつぁん。その調子じゃあんた、ずっと山奥に引きこもって研究していたみたいですけど、それで入り口を増やす方法は分かったんですか?
有見隊員: そ、それは。
D-2662-JP-3: 出入りができるようにする方法はどうです?
有見隊員: [沈黙]
D-2662-JP-3: まあ、そうですよね。大丈夫。分かってましたよ。同調圧力で口には出しませんでしたが、俺も前々から分かっていたんです。こりゃあもうだめだ。もう何もうまく行かないだろうって。ねえ、実際にあんたはうまく行かなかった。一緒じゃないですか。まさに僕ら、気の合う同志ではありませんこと?
有見隊員: だ、黙れ。若僧。糞餓鬼。馬鹿にするな。私には愛するものが、私の使命には愛するものたちの──
[D-2662-JP-3は会話を遮るように有見隊員の腕を強く掴む]
D-2662-JP-3: 愛するものだと! その愛するものたちに、てめえは何をしてやれたっていうんだよ!
[怒号とともにD-2662-JP-3は有見隊員による拘束を解き、逆に有見隊員の両肩を掴んで壁に強く押し付ける。有見隊員の[削除済]は、D-2662-JP-3によって完全に無効化されているように見える]
有見隊員: な、何ということだ。若い。みなぎる力の。小僧。お前のような、未来あるものが、何故。
D-2662-JP-3: なあ、じいさん。あんたは5億で、俺は3百万だ。本当はあんたと俺の他に、4億の同胞も、3億の同胞も、2、1、5千万、4千万、色々といるはずなんですよ。会ったことあります?
有見隊員: い──否。
D-2662-JP-3: いるとしても、俺たちみたいに何にもできずにひっそり暮らしているか、でも多分、他はみんな、うまく行かなかったんでしょうね。うまく行ったのは、なあ、俺とあんただけだ。
有見隊員: そ、そんな──
D-2662-JP-3: 5億のあんたがうまく行ってたっていうことは、きっとこの上なく幸運なインスタンスだったんだろうさ。あんたは最も潤沢なリソースを持つことができた、できていたはずだ。そうでしょう? 少なくとも3百万の俺より、ね。でも、あんたは、何の結果も出せちゃいない。
有見隊員: や、やめろ。
D-2662-JP-3: 5億と、3百万。簡単な引き算。4.97億。いいか、4.97億。これが、あんたが何もできなかった分の重みだ!
有見隊員: やめろ、やめてくれ。
D-2662-JP-3: あんたに比べりゃ、俺の持つことができたリソースなんて微々たるもんだ──いや、殆ど、寧ろ全く無いくらいだった。そんな中で、俺が今まで、どうやって、なけなしのリソースをやりくりして、報われるはずのない努力を重ねてきたか、なあ、あんた、分かるか? 最後のリソースが尽きて、全部無意味に終わったってわかった時の俺の気持ちが、あんたに分かるか?
有見隊員: き、貴様こそ分かっておらぬ。私も努力を──
D-2662-JP-3: [遮る] あんたは好きなだけ使えるくらいのリソースがあっただろうが! あんたには分からねえ、 [声が震えだす] 俺の、俺の気持ちなんて分かるわけがねえ。
有見隊員: わ、若僧。
D-2662-JP-3: なあ、あんた。さっき俺のことを「未来がある」って言ったか? 未来はな、 [掴んでいる有見隊員の身体を2回壁に叩きつける] 未来はてめえの方にあるんだろうが!
有見隊員: な、何。
D-2662-JP-3: 分かってんだよ、じいさん。今あんたが実のところちょっと嬉しそうなのは、同胞に会えたからじゃない。3百万のやつがいるって知ったからだ。3百万のやつがいるから、5億のあんたが何もできなくても、それまでは最低限どうにかなってたってことを、あんたは知ったんだ。あんたは、未来があることを知ったんだよ。
有見隊員: [沈黙]
D-2662-JP-3: 愛するものたちがいただと? はっきり言うけどさ、そいつらはもう死んでるよ。でもあんたは、あんたは安心してるんだ。あんたが愛し、あんたを愛したものたちは、4.97億の中だ。かれらは、かれらは、大丈夫に死ぬことができたんだろうさ。あんたはたった今、それを知ったんだ!
有見隊員: や、やめてくれ──
[D-2662-JP-3の声の震えが更に強まり、少しずつ声色が上ずり始める]
D-2662-JP-3: あんたに俺の気持ちが分かってたまるか。俺はな、いや、もう、みんな、分かってたんだよ。もう、どうにもならないって分かってたんだよ。でもさ、表向きでも、フリでも、諦めていない風に見せてりゃ、自分たちが何かやってる気にはなるんだよ。それで、俺が選ばれたんだ。もう意味もないだろうに。
有見隊員: 若僧。
D-2662-JP-3: 使命。俺は使命を背負わされた。 [強く息を吸う音] 本当に救済の手段を見つけて持って帰ってくれば、そりゃあ皆にとっては御の字さ。でもさ、俺は前々から分かってたんだよ。みんな、本当にうまく行くかはもうどうでも良いんだ。俺がうまく行かなかったら、 [2秒程度沈黙。肩を震わせ始める] どうせうまく行きやしないんだ、 [1秒程度沈黙] そしたら、みんなのことは、 [肩の震えが更に強くなる] 俺が、俺がうまくやれなかったせいってことになるだろ? みんなの方はさ、俺のために、色々やったのに、って。
有見隊員: 若僧、若者……
[有見隊員はD-2662-JP-3の顔にゆっくりと手を伸ばす]
D-2662-JP-3: [やや声色が低くなる] なあ、俺たちを幽霊に例えられるのがそんなに不服かい? 俺はさ、この上なくお似合いだって思うね。あんたも、俺も、今のみんなも。あるべきものを受け入れず、意味もないものに執着して。挙句の果てに、俺に、 [2秒程度沈黙] この俺1人に、3百万の無責任を背負わせたんだ。
[有見隊員はD-2662-JP-3の頬に手を当て、撫でる]
有見隊員: 若者よ……可哀そうに。未来に、絶望したのか。
D-2662-JP-3: ぜ、絶望。絶望だと?
[D-2662-JP-3は体を震わせながら有見隊員を強く壁に叩きつける。この時の身体の動きで、D-2662-JP-3は監視装置に背を向けた状態になり、その向こう側にいる有見隊員の姿はほぼ判別不能となる]
D-2662-JP-3: み、未来。絶望。空虚。みんな、みんな俺のもんだ。でもあんたにも分けてやるよ。
[D-2662-JP-3が顔を前方 (有見隊員の方向) へ強く押し付けるような動作をする。分析によれば、この時D-2662-JP-3は有見隊員に接吻をしていたものと推測されている。しかしながら監視装置にはこの時、くぐもっていない絶叫の音声も記録されている。有見隊員は床に倒れ込むが、約7秒後に再び立ち上がる]
[それからD-2662-JP-3と有見隊員は監視装置から向かって横に並ぶように立ち、2人で監視装置の方向に顔を向ける]
D-2662-JP-3、および有見隊員:
[同時に] やあ、お見苦しいところを見せてしまったね。
その後、到着した増援の鎮圧チームに対してD-2662-JP-3と有見隊員は共に脱走の意思を示したため、戦闘によって終了されました。死亡した両者の肉体からSCP-2662-JPが発生し、それらは空中で融合しました。以降におけるSCP-2662-JPの総質量は、9.33 g (以前のおよそ2倍) と計測されています。