共著な: SOYA/ENGINEPITHECUS


rating: 0+x

財団倫理委員会 議事録.20140221

議長: 瀨良サイト管理官

議論参加者: ███博士、██人事官、████研究員、エージェント・トマス


<ログ開始>

(前略)

██人事官: つまり、B-866個体については特別慎重な取り扱いが必要と。

███博士: えぇ。そもそも866番については他とは違い、最初から異常と見なされた上で雇用されていますからね。

████研究員:エージェント・トマス、貴方はどのようにお考えで?

エージェント・トマス: まぁ、1エージェントの立場からとやかく言いませんよ。それに、……いえ、また不真面目だとか言われそうなので黙りますね。

███博士: そうですか。……では、ここから先は私達だけで会議を進めますのでご退出を。

(エージェント・トマスが退出する)

(██人事官が、エージェント・トマスの退出した後の扉を睨み付ける)

██人事官: あいつのせいでK-クラスが、起こらなければ良いがな。

<ログ終了>












2014/3/5
14:16:08 (JST)
サイト-8148 - 東棟
職員専用購買部

 近頃、咬冴さんを見なくなった。

 以前はよく白衣をはためかせて、購買の中まで走り回って嶽柳さんと追いかけっこしてたのに……

 ……あぁ、ダメだ、陳列に集中しなきゃ。

 手にしていたサメ型グミの袋をレジ横の菓子コーナーのフックにぶら下げ、その隣にワーム型グミをぶら下げる。



 近頃、多那瀬さんを見なくなった。

 以前はちょくちょくボクのいる購買に顔を出しては、手作りプリンをくれていたのに……

 手にした牛乳石鹸の山を、奥の壁際の棚の低い段に並べていく。



 ……蓑蜂さん砌祈さん揺灯さん。仲の良かった人たち皆、いつからか、1人また1人とこの購買に顔を見せなくなった。

「皆、どこに行ったんだろう……」
 商品の段ボールが積み上げられた、重い荷台を押しながら、誰にともなく呟いた。

「咬冴さん、ちょっと迷惑だけど、また追いかけっこしに来て良いんだよ?

 ……………。篝根さんも、磯日井さんも……」

 多那瀬さんは食堂が忙しいのかな? って見に行ったけど会えなかったし、他の皆もいつもの場所に、探しに行っても居なかった。






「……はぁ」

 商品の陳列が終わった。と言っても、ボクの背が届く中くらいの段までだけど。レジ脇から店内を見渡すと、ある高さまではギッシリと、そしてそこから上はスカスカな商品棚が並んでいる。ここから先は、購買の他の人たちがお昼ごはんから帰ってきたらやって貰おう。出しっぱなしはいけないから、この荷台は1度レジの奥に引っ込めて……


sashie01.png


パベルくん! おっはよう!」

 ……荷台を押しかけた背中の後ろ、ボクの頭より上の方から親しげな声。ボクは突然の声にちょっとビクッ、となりながら、でもこの声は知ってる人だ。

「あ! 飾霧さん! ……え、なんで巫女服なの?」

「えー決まってるじゃないですかー。3月5日は巫女の日ですよー」

 振り向き見上げたボクの目に、何故か普段の白シャツの代わりに巫女姿をした飾霧さんが飛び込んできた。いつもこのサイトにいるわけじゃないけど、たまーに顔を出しては購買で色々買っていく人。でもこんな、唐突なコスプレは初めてだ……。

 ボクが頭に「?」を浮かべていると、飾霧さんの後ろからもう1人、知ってる人が入ってきた。

「やぁパベルくんに飾霧さん。折角だし、私も何か楽しもうかな」

 癖っ毛の上に帽子を被せ、古めかしいスーツを着た男の人。

「あ、どうも。パベルくんの保護監督の人でしたっけ……?」

「あぁ、飾霧さん、この人はトマスさんだよ。ホゴカントク? っていうのは分からないけど」

「こうして話すのは初めてになるね。私はエージェント・トマスというんだ。……それで、その服装は?」

 トマスさんは帽子を押さえて軽くお辞儀をしながらそう言って、ボクと飾霧さん2人の返事が重なった。

「「3月5日は、巫女の日だから……」」

「……へぇ、日本にはそんなのがあるのか」

 入り口すぐの所に貼ってあるカレンダーに目を向けながら、その目を丸くするトマスさん。………あれ?

 ……3月5日…………?

「……ねぇ、2人とも、斑座さん見なかった?」

 取り寄せた画集が3月4日に、予定通りに届いてる。それなのに、斑座さんまだ取りに来てない……

……少しの間が空いた。

「………………。

 ……うん、あー、……私が受け取って、後で渡しとくよ! パベルくんそれちょうだい!」

 飾霧さんの手がすっ、と伸ばされ、ボクの鼻先で巫女服の袖が揺れる。

 少しの違和感があって、ボクはトマスさんの方を見た。トマスさんは、物事の少しの変化や違和感も鋭く言い当ててくれる人……。でも生憎、今はカレンダーとの、にらめっこにすっかり集中しちゃってるみたいだ。

 ……えーと。

 ……えーと、


 ……あぁ……そうだ……。

「……飾霧さん、斑座さんと会う予定なの?」

「え?」

 ボクが違和感を感じたのは、飾霧さんと斑座さんの言い合いを少し前に見たからだ……

「……たしか、 "ケモキャラ" への "カイシャクチガイ" とかで……

 ……もう仲直りしたのかな?」

 見上げるボクの視線の先で、上が空っぽな棚をバックに、こちらに片手を差し出したままの飾霧さんが固まる。

 それに、ここ何ヵ月か。……皆を見なくなり始めた頃から、財団の人達の態度がおかしい……。ある人はよそよそしくなって、ある人は何かに怯えてるみたいで、それで誰もが何かを隠してる、みたいな態度……。






「……成る程! 3と5だから "巫女の日" か!」

 突然の大声にまたビクッとなってボクは、そして今度は飾霧さんも、その方向に視線を向けた。

……トマスさんはいつも通りの様子で帽子の上に右手を置いて、

「よし、折角だし今日は気が変わった。今日1日は私の事を、 "マイク" と呼んでくれるかな?」

 そう言って、どうだい? とばかりに腰を屈めてボクと視線の高さを合わせる。

「え、良いけど……」

 この人だけは、本当にいつも通りな感じだ。

 ……そして飾霧さんは、トマスさんへの困惑だけではなさそうな、複雑な困り顔を浮かべていた。






 トマスさん……いや、今はマイクさんだっけ。マイクさんはとっても神出鬼没な人だ。いつもひょっこりボクの前に出ては、またすぐにいなくなっちゃう。

 さっきまで話していた彼は、「少し用事が出来たから」と言ってそのまま購買部から離れていった。残されたボクと飾霧さんだったけど、ひとまずボクは購買部で買い物をするかどうか、飾霧さんに聞いてみたりした。けど、

「……いえ、まぁ、そうですね……」

 そう言ってまたよそよそしい態度をボクに向けてくる。……なんでだろう?

「ねぇ飾霧さん。……なんだか、さっきから様子が変だよ?」
「え? あっ、いや、そんなことはないと思いますよ! アハハハ……」
「むー……やっぱり変だよ。もしかしてやっぱり、斑座さんと喧嘩でもしたの?」
「い、いえ……」
「大丈夫だよ。どれだけ仲良くても喧嘩は誰だってするものだしね。ボクに出来ることなら、仲直りのためにいろいろ取り持つし!」
「……そういう、わけでは」

 あれ、あれ? どうしてかな。飾霧さんは、ボクが斑座さんとの仲直りを提案したあたりから、どんどん悲しい顔をし始めてきた。

「そうじゃないんです、パベルさん。別に、私は彼女と喧嘩をしたわけでもなくて、ただ……」

 そう言って、また飾霧さんは静まりかえってしまう。俯いたままの飾霧さんは、やっぱりボクに何かを隠してるようで。
 でも、ボクが思ってる以上のものを抱え込んでいるようにも思えて……ボクは、いやに不安になってくる。



「あれ? 飾霧じゃないか。今日はコスプレパーティ開催日じゃないぞ」
「ふぇ? あっ」

 ふと、俯いたままだった飾霧さんの後ろから、男の人の声が聞こえてくる。よく見ると、その人はボクも見覚えがあった。

「あっえ、せ、瀨良管理官っ……」

 飾霧さんは目を丸くしながら振り返っていた。突然現れたここでの一番偉い人(サイト管理官って言うらしい)を前にして固まったままで、手に持っていた紙つきの棒を床にコトリと落としてしまっている。

「い、いやこれはその、違うんです」
「何が違うんだ? そんなに慌てることもないだろう。まぁ確かに……そんな格好で出歩いていれば、見る側は慌てふためくかもしれんがね」

 瀨良さんはいつも皮肉っぽいことを挟んで、周りの人を困らせる人だ。今日もそう言って、飾霧さんを困らせているみたいだった。
 けども、それでもいつもの飾霧さん以上に驚いている様子に、ボクはまた違和感を覚える。……そして、その違和感は飾霧さんが次第に恐怖の顔へと変わっていったことによって、もっともっと強くなってしまう。

「まぁ、恐らく感付いているんだろうね。君にも、SCP-2999-JP-Dとしての疑いがかかっている。」

「いや、待ってください!その、えっと、あ……」

ボクにはよく分からない言葉が、頭の上を流れて行く。ボクの目の前で飾霧さんの白い袖が揺れていて、その先の瀨良さんの黒スーツが見えたり隠れたりを繰り返している。

「でぃ、D分類って、もはや異常性でもなんでもないやつじゃないですか!ベールの、ベールの外側にだって普通に……」

「まぁ、近い内に君の調査も行われるからそのつもりで。何せ我々は、我々自身の雇用基準の全てを疑ってかからねばならなくなったんだからな。」

「そんな……」

飾霧さんが固まって、ボクの視界が全部袖の白布だけになる。

「5年以内には、完全に異常性職員を排除できるように進めたいという考えでね。」

その白布の向こうから、何故か瀨良さんの視線を感じた気がする……。







それからしばらく経ったけれど、飾霧さんの落としていった紙付き棒は未だにボクの引き出しに眠ったままだった。







財団倫理委員会 議事録.20180925

議長: 瀨良サイト管理官

議論参加者: ███博士、██人事官、████研究員、エージェント・トマス


<ログ開始>

███博士: 他ならぬ、SCP-2999-JP群収容についてです。現状最大の問題は……

エージェント・トマス: (███博士の発言を遮って)私が呼ばれてるってことは、パベル・リピネッツの関連ですね。

████研究員: SCP-2999-JP-B-866です。

███博士: もうここはハッキリと、AO-3321-JPと呼ぶべきかもしれませんね。1度Anomalousとして登録された後に下位職員への偽装を兼ねて便宜上2999-JP-B群に分類されましたが……あれはそんな次元の代物ではない。

エージェント・トマス: そんなに怖い顔しなくても、きっと彼は平和に安眠したいだけだと思いますよ。

██人事官: 呑気なものだな。あれの深層心理は、基底世界のあり方に深刻な影響を齎すのだから……

エージェント・トマス: そのために、敢えて従業員という緩い扱いで雇用している訳でしょうに。今更収容は厳しいと思いますけどね?

████研究員: だから困っているんですよ、議題を分かっていますか?

エージェント・トマス: 友人たちが、オブジェクトとして収容される悪夢。それで、思わず飛び起きる。世界は弾ける。……問題はそこでしょう?

<ログ終了>









 

 

 







2019/1/23
16:01:20 (JST)
サイト-8148 - 東棟
職員専用購買部

あの日から……飾霧さんがいなくなってから、5年の月日が流れた。
ボクは相変わらず、購買部の店員として働くことはできていたけれど、今までよりもずっと、ずっと寂しい気持ちがいっぱいになってばっかりだった。

ううん。それだけじゃない。あの日から、ボクの回りで仲良くしてくれてた人たちの悲しいお知らせが、次々にボクの小耳に入ってきて、それが、ボクにとっては本当に本当に悲しかった。

いつか、ボクもそうなるんじゃないのかなって思うと、ボクは怖くて膝が震えてしまう。どうすればいいんだろう。
うぅ……お仕事中なのに、いつしか、ボクの目から熱いものがこぼれ落ちてきた。

おうちに、帰りたい。ここで過ごしていて、ずっと我慢していた気持ちが今になって溢れてくる。
ミチタの町に帰りたい。優しいお母さんの作ってくれる焼きプリンを食べて、雪の積もった外で仲良しの友だちと遊んで過ごしていたあの日々が、酷く恋しくて……。

「夢でまた故郷に戻れるから大丈夫」と自分を納得させるのも、こんな状況じゃ、難しいよ。




「ちょっと! 陳列棚の配置、ここじゃないよ。事務用品はもっと手前に引いて分かりやすいようにしないと」
「あぅ。ごめんなさい……」

「違う、そっちは食品を置いてたらすぐに傷んでしまうでしょ」
「えっ、あ……」

「……パベル君、今日はもうつかれてるみたいだから、帰って良いよ」
「……」

結局その日、ボクはまともな仕事もできないまま、購買部から追い出されてしまった。








— —

・10年の間に次から次へと回りの職員が収容ないし死亡していく。
・蓑蜂やドリュウや咬冴隊員は当然のように収容され、多那瀬料理長は行方不明、篝根研究員は切断されたエージェント・ぎん太を握ったまま死亡、揺灯隊員は財団の判断に反発したことによってD.R.I.C.S.チョーカーが起爆させられ死亡、と、次から次へと不幸な話が続き、いよいよもって自分すらもそうなるのではないかという恐怖と財団への不信感によって押しつぶされそうになる。
・そんな折、咬冴隊員を含む複数の職員が収容から解放されることとなる。理由によれば、「異常性を有する職員の厳格な収容を施すより、その能力の有用性を鑑みて本来の職務での活躍を期待すべきとの判断に至ったため」という。また元気な咬冴隊員が見れると思って会ってみれば……。
・目は死に、ただ淡々と命令されたことに従うマシンのような存在に変わり果てた荒んだ咬冴隊員と面会する。彼女の部屋にあった海水プールで別命あるまでずっと浮かんで待機し続けている。
・「自分がいるべき場所なんてそもそも考える方がどうかしている」「全ては有用かそうでないかであり、有用ではないと判断されたら収容か終了かである」「たとえまた自分が収容されたりしても、それは自分が使い物にならなくなっただけということである」「いずれ君もそれが分かるときが来る」ということをパベル従業員に告げて、次の財団の作戦へと足を運ぶ咬冴隊員。
・その後、咬冴隊員は生死不明となる。

・パベル従業員の知り合いにあたる職員は、トマス以外には誰もいない。パベル従業員は、「あの言葉、10年後には~、というのが本当なら、もうこんな世界見たくない。」と考える。


(何らかの展開。パベル従業員は、周囲の人々がアノハラとは別の要因で次々に減っている事に気付く。そして、モブ職員の発言からそれが「2019年3月5日に世界が滅ぶから」だと知るが、パベル従業員自身にミームの影響は出ない。)

・ミームに感染した財団の上層部の判断で、パベル従業員も唐突に収容対象となる。そしてSCiPとしてのナンバーが与えられ、「後程重要な情報を通達する」と言われる。

・そして、「重要な情報」が通達される日。通達の人は予定の時間を過ぎても中々来なかった。そして時間にかなり遅れて、財団上層部の人……ではなくエージェント・トマスがやって来た。

・トマスは、「この世界はダメかもしれないな。」と言うが、続けてアステカの5つの太陽の伝説や北欧のラグナロクの伝説を引き合いに出し、「次の世界では、こんな悲劇が起こらないようにできるかもしれないな。」と言う。

・SCP-XXXX-JP(元パベル従業員)は、「次の世界なんてあるのか?」という問いを行う。すると、トマスは「私には未来が見えるからね。そうだ、ちょっとした予言詩を残そう。」と言って、「名も無き犬の物語」なるものを語る。(この物語は、SCP-2000-JPの一連の流れを童話風かつ伝承神話風にアレンジしたもの)

・SCP-XXXX-JPが「その新しい世界では、ボク、また "パベル従業員" でいていいの?」と問うと、トマスは「勿論だとも。人には自分が呼ばれたい名前を名乗る権利があると思うよ。あのワンちゃんと同じようにね。」と答える。

・そして、パベル従業員が希望を抱き始めた事を確認したトマスは、霧のようにその場から消失する。

・世界は、パベル君の夢である
・パベル君の潜在意識に由来するバイアスや願望などが、基底世界のあり方に影響を与える場合がある
・故に、本人に異常性を認識させない必要がある(従業員という緩い扱いで雇用してたのもそのため)
・2度目の会議シーンの時点で、既にパベル君の精神状態ヤバめ

Unless otherwise stated, the content of this page is licensed under Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License