リサイクルコンテスト21参加記事です。baito-JP氏の<異世界の車窓から>をリサイクルしました。
十五夜お月見フェスティバルに参加します。使用お題は
- ほ-2 - 人間型(河童)
- ほ-3 - 語り
です。に-2段に積みます。
Dr_kuronecko氏の破滅のコンテストに参加します。
Enderman_desu氏の臨界のコンテストに参加します。
遠野妖怪保護区のモリーオと呼ばれる小さな町にある銀河ステーション。ここは新銀河鉄道の停車駅。夜空へ駆け上がる機関車の雄姿はまさに圧巻の一言に尽きる程のものであり、乗客は外界や宇宙、はたまた空想よりやってくる旅客が滞在いることで遠野妖怪保護区内では有名である。
そして、新銀河鉄道のある一車両には、平行世界の終わりを見ることが出来る車両が存在していた。終わりの様子は多種多様であり遠くにうつるそれはどこか恐ろしく、そして儚く、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
客である遠野妖怪保護区在住の河童は新銀河鉄道に乗車する。そして、案内役があなたに声を掛ける。
「この新銀河鉄道には、ある特別な景色がみれる展望車両があるんです。ぜひとも、その景色をみてみませんか?」
わたしは頷く。頷いたのを確認して、案内役は「ついてきてください。」と言い、前の車両へと移動していく。
移動して、ついて展望車両の車窓には、沢山の銀河、宇宙、そして人々の営みが映っていた。あなたはついその景色に見惚れる。案内役はこの展望車両についての説明を始める。
「みなさま、ご乗車いただきありがとうございます。この展望車両は、いわゆる平行世界の終わりを車窓にうつします。世界の終わりと言えど、そのどれもが同じわけではございません。かの"財団"によって引き起こされる終わりもあれば、文明の発達に伴って発生する終わりもあり、世界そのものが寿命をむかえることによって引き起こされる終わりもあります。ただ、なにがなにか分からない方も居るでしょう。ご安心ください。この私がそれぞれの終わりについてご説明いたします。ぜひ、世界のその儚くとも美しい終わりをご覧ください。」
と、軽く説明を終える。あなたは、車窓の景色をじっ……と見つめる。
車窓に景色が映る。そこには、議論をつづける人々によって文明が滅んだ様子が映し出されていた。議論は大人から子どもまで広がり、日夜問わず続いていた。議論をする様子はどこか熱狂的なのに、どこか無機質で、まるで人々が傀儡のようにわたしの目には映る。全てを放り出してまで議論する様子にわたしは若干の恐怖を覚える。
しばらくして、景色が完全に途絶える。あの世界は終わったのだろうか。疑問も残るが、わたしの心を不思議な高揚感、そして恐怖感が支配する。日頃のなにげない日常の風景のありがたみ、美しさを感じとり、わたしの目には自然と泪が浮かぶ。
そして、わたしは案内役に問う。「あの世界はなぜ滅んだのか」と。それに対し案内役は、こう言った。
「あの世界は、議論をつづけることを強制する台座によって、地球上の全ての人々がなにもかもを放り出して議論をつづけた結果、政治などが停滞して、文明そのものが滅びてしまいました。しかし、あそこまで熱狂的になにか物事に対して議論したことがこれまであったでしょうか?わたしの目には、一つの理想を追い求めているように映りました。理想を追い求める姿というのは美しいものです。」
わたしの心の内は、"世界の ― 一つの文明の終わり"を目の当たりにして、恐怖と、こんなことあり得ない、という気持ちが渦巻いていた。そして、目には泪が浮かぶ。
目に浮かんだ泪を拭い再び車窓に目を向ける。新たに景色が映り始める。次に車窓には美しい音と共に世界が硝子がらすのように砕け散る様子が映し出されていた。人々は逃げ惑うも、足先からだんだんとバラバラになっていき、最終的には逃げていたはずの人々はもうどこにもいなかった。あらゆるものは等しくくずれていき、そこにはバラバラになったそれだけが残っていた。残ったそれの不規則な配置、そして移りゆく崩壊の様子にわたしは「ありえない!」と心の中で怒り、不安になる。そして案内役が解説を行う。
「今の世界では、特殊な音が重なったことにより、ものの大きさが変わり、世界そのものが砕け散りました。ですが、世界がきずき上げていったもの、そして広がり続ける宇宙が砕け散る様子はなぜあんなにも綺麗なのでしょうか。」
わたしは崩れゆく景色を眺めながら、今いる列車の地面を踏みしめる。そこにはたしかに地面の感触があった。わたしは世界が今日まで崩れていないことに安心感を覚える。
次の景色が映る。車窓には翼の生えた人々が自由に空を飛ぶ様子が映る。ゆく人来る人が翼を羽ばたかせ、井戸端会議やなにげない会話を行い、子どもたちは遊びに興じる。一見何気ない、日常の景色だが、明らかにそこに映っているのはわたしが知っている筈の人間ではない全くの別物だと直感的に理解する。それを理解すると同時に不気味さを覚え、わたしの背筋を恐怖が伝う。案内役が解説を行う。
「この世界は、とあることがきっかけとなり、人々は翼を獲得しました。そこにいるのはかつての人々のはずなのに、わたしたちの目には全く別の生き物として映っています。時代や古きものは淘汰され、新しいものに移り変わるこの変遷の様子はきれいの一言に尽きます。」
わたしは空を飛ぶ人々の様子を見ながら、普段どおりの自分、そして周りの光景を見て安堵する。しばらくして、また車窓が闇に包まれる。
次の景色が車窓に映る。地球と思われるものにはとおくから見てもわかるほどの大きな穴が沢山あいていることが見て取れる。直後、穴のところの様子が映しだされる。穴のところには、巨大な岩があり、周りにあったであろう建物のがれきが山積みになっている。その後、世界各地が映し出されるも、すべてが荒廃していて、人はおろか動物の一匹すら見つからない。なにもなくなった世界を見たことで、漠然とした恐怖感をわたしは覚え、途方もない不安におそわれる。おそるおそる、案内役に「なぜこの世界は終わったのか」と問うたところ、案内役は静かに答えた。
「この世界では、世界のあらゆるところに隕石が落ち、文明そのものが衰退してしまいました。しかし、人々は普段どおりに生活することをやめず、残り少なくなってしまった資源をむさぼり続けた結果、この世界では人はおろか、生き物が住めなくなってしまいました。しかし、この世界はもとあるべき様子に戻ったとも取れます。」
わたしは、もとあるべき様子、について考えた。もともとの世界は、生き物が住むためではなく、ただ漠然とそこにあるだけだったのかも知れないと思い、考えつづけた。しかし、結局答えは分からずじまいだった。
そうこうしている内に、車窓の景色が暗転する。
次の景色が映る。その景色には、猿のような生き物が人間を家畜や愛玩動物のように扱っている様子が映る。中には抵抗する人間もいるが、抵抗したあとには別のところに連れて行かれ、帰ってくることは無かった。犬同様、鎖に繋がれる人間、仕事をし、会話し、通行する猿のような生き物。日頃、遠野妖怪保護区の外で見るなにげないいつもの風景が変わったことにより、非日常の高揚と、わたしたちもこのように扱われるのではないか、という気持ちが交わる。そして、案内役が解説を行う。
「この世界では、かの正常性維持機関"財団"が扱っていた猿のような生き物が支配しています。いつも見なれた日常の光景に、このような非日常が入りこんだことにより、高揚感を抱くのではないでしょうか?」
わたしは、案内役に心を読まれているのでは、と思いすこし不気味に思うが、そんなことはない、と思い「ふ」と笑う。人々と動物の立場が逆転しただけでここまでの非日常を味わえるのか、とすこし意外におもったのもつかの間、車窓の景色が暗転する。
車窓には、また別の景色が映る。次は車窓に黒色のインクによって世界が満たされていく様が映る。じわじわと増えていくその黒色により抱く恐怖によってわたしの心を引き込んで、くぎ付けにしていく。そうしている内に、ある地域の様子が映る。そこには、一人の子どもが迫りくる黒いインクの波から走って逃げていく様子だった。しかし、子どもの足がもつれ、転び、黒いインクにじわじわと飲まれていく。最終的には、インクの海にはたくさんの動物の死骸が浮いていた。そして、再び世界全体を見下ろす様な景色に戻る。青かった惑星が満たされていってるその様子は、世界がゆるやかに、綿のロープで首を吊りみずから命を断つかのような息苦しさを感じる。そして、案内役が解説を行う。
「こちらの世界では、増えつづけるインクが漏れ出したことで世界が覆われていき、人々や生物、建造物は全て飲み込まれてしまいました。しかし、どうでしょう。人々が築き上げていったものが淘汰されていく様子には美しさすら覚えます。」
わたしは、車窓が暗くなると同時に世界がのみ込まれ、終えてしまったことに対しての恐怖と、息苦しさがなくなっての安堵をおぼえる。しかし、いつの間にかわたしの心は世界が終わる様子に対して恐怖をいだいている筈 ― なのに不思議と高揚感を得て、つぎの終わりが心まちになっていた。
車窓に景色が映し出される。そこには、死を獲得できなくなった人々で溢れかえる世界そのものが巨大かつ強力な重力によって縮んでいく様子が映し出される。死ぬことができず増えつづける生き物たち、そしてじわじわと迫りくる世界の終わり。人々は世界が終わるその最後の瞬間まで、いつもどおり、新しい日常に身を任せ過ごしていた。あなたは、ひたすら生にしがみつく人間達の醜さと、それに目もくれず終わりゆく世界に得も言えぬ感覚を覚える。それは終焉に対する美しさ、感動であった。
「綺麗・・・・・・」
思わずわたしは口から言葉をこぼす。それを見た案内役はにこ、と笑い解説をはじめる。
「ただいまの世界では、ある日急に全ての生物種が死ぬことできなくなり、宇宙進出や倫理観の在り方等が問われていました。しかし、それでも死ぬことが出来なかった彼らは完全な世界の終わりと同時に、この世界にとらわれたまま、終わりを迎えました。彼らの生にしがみつく醜さ、それでも生物として生きようとする生き様、そして迎える終わり。これこそが"美しさ"ではないでしょうか。」
わたしははじめは恐怖、不安に侵されていた気持ちがいつの間にか美しさ、感動に変わっていたことに気づく。それと同時に世界が終わっている様子に美しさを覚えたことが不謹慎ではないか、と感じ、少し笑みをこぼす。わたしは世界は"終わりと始まり"をくり返し続いていることを理解する。
理解したのもつかの間。車掌の案内役が続ける。
「しかし、もうお時間です。本日は乗車いただきありがとうございました。つぎは終点です。あらゆる世界の終わり方。その一つにでも興味を持っていただければ嬉しい限りです。」
「まもなく、終点ー終点ー。お乗りのお客様はお降りいただけますようおねがいします。」
アナウンスが流れる。周りの乗客が、「すごかったね」や「キレイだった」などと言いながら降りていく中、わたしは降りようとしない。そこに案内役がやってくる。
「・・・・・・お降りにならないんですか?」
わたしは答える。
「気になるんだ。わたしたちの世界の終わりが。多分、わたしたちの終着駅世界の終わりもあそこのどこかだと思うから。頼むよ。もう少しだけ、世界の終わりのその瞬間に立ち会いたいんだ。」
案内役は呆れた顔で口を開く。しかし、その顔はどこか納得している、そんな感じがした。
「しょうがないですね。もうすこしだけ、世界の終わりに立ち会いましょう。」
そう答え、遠野妖怪保護区のモリーオにある銀河ステーションから、再び新銀河鉄道が発車した。
世界の終わりが続く中、わたしは世界の終わりを見続ける。