拾った物、落としたもの
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前文: 以下は、財団によって回収されたボイスレコーダーに記録されていた音声を文字起こししたものです1。内容について、一部編集されていることに留意してください。


──では、例の怪現象について、お話を伺ってもよろしいでしょうか?

: あれは確か、数ヶ月くらい前のことだったと思います。当時はまだ働いてたんですけど、仕事場から帰る時に、ごみ捨て場でコインみたいなものを拾ったんですよ。結構古くて、錆びてて、なんか変なマークが書かれたコインです。当時の僕は「なんだろう」って思いながらも、「もしかしたらお宝かもしれない」って思って。ハンカチに包んで家まで持って帰ったんです。

──そのコインって、今も手元にあるんですか?

: ああ、いや。今は失くしてしまってて。どこ探しても見つからないんですよねえ。箪笥の裏とか、鞄の中とか。あちこち探しても見つからないんですよ。

──なるほど。それで、コインを拾ってからどのようなことが起きたのですか?

: えっとですね、落とし物をする頻度が増えたんです。

──落とし物、ですか。

: はい。最初はポケットティッシュだったり、メモ帳だったり。そんな大したものじゃなかったんですよね。探したらすぐに見つかるし、なんなら代わりも利くわけだし。だから、そこまで警戒してなかったというか。とにかく、気に留めてなかったんです。

──ふむ。

: なんですけど、ある日から急に色んな物を落とすようになって。それこそ家の鍵とか、スマホとか。まだ辛うじて代わりは利くけど、失くしちゃまずいものになっていって。まあ、それでも探したらちゃんと見つかるんで「気を付けなきゃなぁ」くらいにしか思ってなかったんです。

──では、いつ頃からそれが怪現象だと気付いたのでしょうか。

: ちょうど4ヶ月前ですね。免許証落としちゃって。最初は「またいつものやつか」って思ってたんですけど、ここで違和感に気付いて。

──その違和感とは?

: 僕、免許証は財布に入れてるんですよ。んで、その日は財布をそもそも鞄から出してないんです。その鞄もずっと肌身離さず持ってて。だから、財布とかその中身が落ちることなんてないはずなんですよ。仮に落ちたとしても、すぐに気付けるはずだし。なのに、免許証を落としちゃって、それにも気付けなくて。ここで「ん?」ってなったんですよね。

──なるほど。それが確信に変わったのは、いつのことでしょうか。

: 免許証を落としてから1週間後くらいかなあ。今度は自分用のUSBメモリを落としちゃって。でも、そのUSBメモリは鞄の中に入れてたし、なんならチャック付きの袋の中に入れてたんです。最近落とし物が酷いから、失くさないようにって思って。その日はその袋を開けてなかったんですよ。なのに、例の如く落としちゃって。もう、明らかにおかしいじゃないですか。なんで閉じてる袋からUSBメモリだけが落ちるんですか。普通なら、袋ごと落ちるか、そもそも落ちないはずなのに。

──確かに、そのようなことがあれば「怪現象だ」と確信してもおかしくはないですね。

: そうでしょう。そこからはとにかく慎重に動くようになって。落とし物をしないように気を付けて暮らしてたし、落とし物をしたらすぐに拾いに行くようにしてました。

──その、何かきっかけのような出来事はあったんですか? 落とし物をするようになった前兆とか、そんな感じの。

: えっと、思い当たる節が1つあって。

──教えてもらってもいいですか?

: 僕、最初に「コイン拾った」って言ったじゃないですか。あの、変なマークが付いてたってやつ。もしかしたら、あれがきっかけだったんじゃないかなーって。

──なんでそう考えたのか、聞いてもいいですか?

: 落とし物をするようになったのが、そのコインを拾った翌日からなんですよ。なんというか、タイミングがピッタリすぎる気がして。それになんですけど。与えられたことがきっかけで失うことになったのかなって思っちゃって。

──与えられたことがきっかけで失うことになった?

: はい。コインを拾ったってことは、形がどうであれ「コインを与えられた」わけじゃないですか。

──まあ、そうですね。

: そんでもって、ずっと与えられ続けることなんてないじゃないですか。

──確かに、何かを得れば何かを失うことはありますし。そう考えるのも普通ではありますね。

: そうでしょう? だから、僕は失うことになったんですよ。与えられたコインに見合った分だけ、物を失う。そのせいで落とし物が続いたんじゃないかって思ってるんです。

──なるほど。要するに「獲得と喪失のバランスを取る」というわけですね。

: そういうことです。確証とかない、個人の妄想ですけどね。まあ、それでも納得はできるでしょう。

──まあ、はい。そういえば、落とし物をするようになってから、生活に変化とかはあったんですか?

: ありました。まず、物を落とすのが怖くなっちゃって。

──というと、失くし物を極端に恐れるようになったと?

: いや、それだけじゃないんです。むしろ、それだけなら良かったというか、そうであって欲しかったというか。

──詳しく教えてください。

: まず、電気を消せなくなりました。電源を落とすのが怖くなって、ずっと家中明るいままで。当然光熱費とかも馬鹿みたいに掛かるようになっちゃったんですよね。そのせいで、ずっと貯めてた貯金もだいぶ減っちゃいましたよ。

──なるほど。意味的に「落とす」ことに繋がる行為を恐れるようになったわけですね。

: はい。他にも、人と関われなくなりました。人からの信頼を落としたくなくて、じゃあどうすればいいかってなったら関わりを断つくらいしか浮かばなくて。結局、引きこもりになって。仕事もクビになったし、僕の方から人に話しかけることもなくなりました。正直、今こうやって話してる間も怖いんです。バレないように、って敢えて気丈っぽく振舞ってましたけど、やっぱ無理ですね。

──そうだったのですか。もし精神的に辛いのでしたらここで話を中断する事もできますか、どうしますか?

: いや、ここまで言ったんです。最後まで話しますよ。

──分かりました。ただ、無理はしないようにしてくださいね。

: はい。そんな感じであらゆる「落とす」行為が恐ろしくなって。最初はできてたことも、段々とできなくなっていって。家の中はごみだらけだし、かといって外に出ることもないしで気持ち的にも塞ぎ込んじゃったんですよ。周りでなんか色々言ってるのは聞こえてきたんですけど、それすらも聞けなくて。もしかしたら、助けてくれようとしてたのかもしれないのに。

──生活面だけでなく、精神面でもかなり苦労したようですね。

: そうですね。心も身体もズタボロになってて。それに、人間って我慢の限界ってあるじゃないですか。その限界も超えてて。いつ死んでもおかしくない状態になってて。

──それで、咄嗟に車道に飛び出てしまったと。

: はい。でも、幸いにも助かって。右脚がなくなっちゃったけど、なんとか一命は取り留めたんです。でも、僕そこであることに気付いちゃったんですよね。

──なんですか?

: 与えられることが、真に恐ろしいってことです。全てのきっかけは、あのコインを拾ったことでした。拾った、つまり与えられたことによって始まったんです。そして、僕は死なずに助かったんです。これが何を意味するか、分かりますか。

──まさか。

: はい。僕は命拾いしたんです。捨てて捨てて、ようやく楽になれるって時に、新しく物を拾っちゃったんですよ。つまり、与えられたことと同義なわけで。そのことを考える度に「また拾っちゃった」って思うんです。


上記にて言及されていた「コイン」に相当する物品は発見されていません。現在、調査が進行中です。



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執筆者: teruteru_5
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最終更新: 10 Jun 2024 10:36
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