B&Bの解体デコミッション

オンタリオ州のグランドベンドは、町の振りをしたビーチだった。毎年、定住人口はその25倍もの日光を求める群集に取って代わられていた。だが、今日は求めても日光はなかった — 異常でもなんでもなく、ただの季節だ — それゆえ観光客はいなかった。
これは、ハロルド・ブランク博士にとって大きな安心をもたらした。観光客を見ると、彼は学部生を思い出してしまうからだ。学部生を思い出すと、サービスや装備を分けなければならないことを思い出し、それはサイト-43で必死に働いて自分自身のオフィスを得た理由を思い出させた。
彼は激務を思い出すことを嫌っていた。それが彼の歴史家になった理由ではない。
ビーチの町には、セクション間地下鉄網のターミナル駅が鎮座していた。SCP財団ヒューロン湖研究収容施設の地下道の終端だ。公式には、そこは湖を取り囲むネクサスの一部というわけではなかった。「観光」と「ネクサス」を同じ提言に書き入れるのは、降格の絶好の理由だったからだ。このため、そこは引退する財団研究員にとって一般的な目的地ではなかったが、メリッサ・ブラッドベリ博士は一般的な研究者ではなかった。
彼が着いたとき、彼女は私宅の網戸の向こうに立っていた。彼女は微笑んでいたが、扉を開けて彼を出迎えるような動きはしなかった。彼女は彼に自分で入らせて、再び扉が閉じると、ようやく2人は抱き合った。
「早かったわね」彼女は、彼のジャケットを取りながら言った。
「私はいつでも早いぞ」
「頭にくるのが?」
彼は作業靴のひもを緩めた。「そう言うからいつもそうなるんだ」
2人は広々とした日当たりのいいリビングルームに入り、座り心地のいいカウチに腰を下ろした。「で、今日は特別な日なんだって言っていたわね」
彼は溜息をつき、彼女に手をまわした。「そうだ、本当に特別だ。サイトの行き来を全部閉鎖しているんだ。それも……」彼は腕時計をチェックし、彼女は彼にもたれかかって銀髪の頭を肩に預けた。「ここ4時間で」
「どうして?」彼女はコンタクトレンズを調整し、口を開いた。
「あー……畜生、誰かに言うつもりか? バウ将軍がサイト-19を乗っ取った。奴はスキップ全部を一度に開放しそうだと思われている」
彼女は彼を見上げ、大きな碧眼をさらに見開いた。「冗談じゃないわよね?」
「そうならよかったんだが。監督者は必死になっているが、私たちには知る由もない—」
彼のセーターのポケットで何かがビープ音を鳴らした。彼女はそれを小突いた。「盗聴してたのね、あなた?」
彼はPDAを取り出し、顔をしかめた。「何だよ、いい加減にしろ」
緊急時脅威戦術対応機構より通達

研究収容サイト-19に起源をもつ複数の敵対勢力が、世界規模で財団施設や民間施設を攻撃しています。現在、全ての財団作戦は、機動任務部隊アルファ-9("新たなる希望")と財団緊急時脅威戦術対応機構の管轄下にあります。
全てのサイトはさらなる通知があるまでロックダウンされます。指令に備え待機してください。
— ダニエル・█████博士、ETTRA
「ETTRAって一体何?」ブラッドベリはしゃんとして尋ねた。
「初めて聞いたぞ」ブランクは言った。「それで……オーケイ、私の考えているダン・編集済博士と同じなわけはないよな?」

「ダニエル」
「ダニイル」
ダニイル・ソコルスキーはコンピューターの画面上の顔を見つめた。「君はもう—」
「死んでいたと、ああ、知っている」ダン博士はあごの無精ひげをさすった。「1週間ずっとそう言われてきたからな」
ソコルスキーは頭を横に振った。「死んだdeadじゃあなく、DeDだったと考えていたんだが。このSCiPNETから送られたETTRAとかいうゴミは何なんだ?」
ダンはまばたいた。「私が解体部門Decom Departmentにいたことを知っていたのか? 自分ですら知らなかったというのに」
ソコルスキーは頭を振り続けた。「知りはしなかったが、それは納得だ」
ダンはかすかにほほ笑んだ。彼は顔色が悪く、ピリピリしていた。「まだ超自然的な観察眼を持っていてくれて何よりだ。君には43の防衛を管理してもらうからな」
ソコルスキーは頭を振るのをやめ、うなずいた。「重要なことの防衛に忙しすぎてカナダを心配する暇がないんだな」
ダンは笑った。「カナダは悪魔を収容せずにいる場所だ、ダニイル。それはとんでもなく重要だ。だが違う。私は必要がなければ43に資源を委ねたくはない。公式には君の言う通りなんだからな。カナダに重要なものは何もない」
「まあまあ。バウがタダで超兵器を手に入れたらマズいから、ここに奴が来てほしくないんだろう。我々が攻撃を受けるとでも思っているのか?」
ダンはうなずいた。「おそらくはアノマリーを使わずにな。奴は重要だと思う施設にアノマリーを展開しているから、我々がそれに食いつくのは知っているのだろう。だが奴は財団を乗っ取ろうともしているから、全てのサイトが危険にさらされているわけだ。君には自分らの弱点を把握して、それを守る必要がある」
「いいニュースだ」ソコルスキーは、彼の知る最も不穏な笑みを浮かべた。「我々の弱点は、必要になる防御全部だ」

「今日は妙な日だな」かつての財団エージェントは言った。
「違いない」彼の仲間は、井戸をのぞき込みながら同意した。「本当にうまく行くんだろうな?」
「ああ。ファイルを確認したが、こいつらは自分から土壌を通って43に向かうだろう。ここがその地点だ」
2人とも、少しの間次に何をするのか考えた。
「ええっと」最初のエージェントは、ダンプトラックの荷台のレバーを引いた。
樽がひっくり返ると、茶色の子犬が絶え間なく流れ出て、元気に鳴きながら井戸の中に注ぎ込まれた。

「すまないが、ハリー、この禁止令は押しなべて適用される。君に戻ってきてもらうことはできない」
「よせよ、ダニイル。19からの報告を受け取ったのか? 別々の七個の要注意団体だぞ。こっちは窮地に陥っているんだぞ」
ソコルスキーはハリーのPDA上で頭を横に振った。「違う、こちらが窮地に陥っているのだ。そちらは大丈夫だ。そこが君のいる場所だ」連絡は切られた。
ブランクはカウチに携帯を放ると、携帯は一度クッションからクッションに跳ねた。「つまり、こういうわけだ。」
「何にせよ、あそこには戻りたくないわ」ブラッドベリは身震いした。
彼は彼女に悲しげにほほ笑んだ。「でも、今は大丈夫そうじゃないか。もうずいぶん経った。多分—」
彼女はほほ笑まなかった。「やめて。もう2度と行きたくはない」
「最近はミラーモンスターがどれほど社交的なのかに驚くだろうな」

「彼女はお前を愛している、フィリップ」
「ありがとう、ダグ」
「それが恐ろしくないのか?」
「いいや、ダグ」
「恐ろしいはずだ、フィリップ」
「ありがとう、ダグ」
サイト-43清掃・保守セクション長のアメリア・トロシヤンは、彼のあばらを小突いた。「なんて言ってるの?」
技師JM64のフィリップ・E・ディアリングは、腕時計を一瞥した。「伝えるべきかな、ダグ?」
灰色の肌をした亀裂ある顔のモンスターは、時計の文字盤のガラスから彼を冷ややかに見つめた。「彼女はお前を愛している、フィリップ。お前は彼女に隠し事をするのか?」
フィルは笑った。「君は僕のことを好きなんだって」
彼女はまた彼のあばらを小突き、2人は廊下の角を曲がった。「彼は過小評価してる。ねえ、今日ブランクが出かけたの見た?」
フィルはうなずいた。「毎年のB&Bの同窓会だよ」
「それって結局何のことなの? 彼に聞いたことは一度もないけど」
「ああ、歴史的なことだよ。あの—」
クラクションが唐突に鳴り響き、カチャンという音とともに、研究・実験セクションの照明が明るい白から暗い赤に切り替わった。「注目、」録音の音声が要求した。「注目。ロックダウン手続きが現在有効です。全ての職員は速やかに割り当てられた宿舎に帰り、さらなる指令に待機してください。注目」メッセージは繰り返された。
アメリアは眉を上げた。「これは一体?」
「いや……」フィルは顔をしかめた。アナウンスの中では声が通りにくかった。「僕たちの場所に戻って、そこで話そう」彼は文を言い終わる前には叫んでいた。
「お前が原因だろう」ダグは時計の文字盤から話した。フィルはそれを完璧に聞き取れた。

「よし、何がある?」
ブラッドベリはテーブルに段ボール箱を置いた。「局地現実錨、小さいやつね。唐辛子スプレー、応急処置キット、3回分の記憶処理注射器、たくさんのビタミン剤、テーザー銃、これで全部」彼女は顔を上げて彼を一目見た。「ここが危険だなんて本当に思っているの?」
ブランクはうなずいた。「奴らがSCiPNETにアクセスしたなら、私たちのファイルにアクセスするだろう。誰かしらの財団職員がここで同棲していることを知るはずだ」
彼女は唇をすぼめた。「なら私たちは別居すべきね」彼女はその準備ができているように見えた。結局、彼女は18年間この家に隠れていたのだ。
ハリーは手を叩き、興奮した。「B&Bの委員会コミッションが再始動するわけか」
彼女は箱からビタミンの瓶を1つ取り出し、彼に向けて投げつけた。「もうそのよくわからないジョークは乱発してないでしょうね」
彼は頭に瓶を受けた。「痛っ。ああ、いつも使っているぞ! 新人には最高の研究パートナーの話で楽しませている。その辛辣な精神、鋭いウィット、完璧な肌のことを話してな」
彼女はカウチに跳ね戻った。「そんなことしないで自分のファイルに集中すべきだわ。そうすればきっと、ここにいようがいまいがソコルスキーの役に立てるでしょう」
彼は彼女に続いた。「そうかもな、よくわからんが。彼のアクセスできないものにアクセスできるわけでもない」彼は何かの上に座っていることに気づいた。
彼はそれが自分の携帯であることに気づいた。
彼は他のことに気づいた。

テアンは、数フィート上で陽光を受けてゆらめく湖の水面を見上げ、スーツの重呼吸装置の下で顔をしかめた。 これは俺が参加したものじゃない。 「チェックイン」彼は言った。
他の潜水司祭らが自分のコードネームをよどみなく伝えた。彼は、チームメンバーに古ダエーバイト語で意味のある説明を与えるためにそのコードネームを選んでいた。彼はテアン、「頭」つまりリーダーだった。ゲアトは「石」つまり重く、デアグは女性の意図を汲むことが本当にできないために「兵士」を意味し、カエスは「山」、背が高いからではなくのろまだったからだ。そしてトアオだが、そう、トアオはおそらくコードネームの意味を決して知ることはないだろう。
「進め、主の歩まれた道を」彼は自分の言葉に笑わないことで精一杯だった。緋色の王は多くのことを多くの形で成したが、ヒューロン湖床を歩んだことは決してないだろう。
彼らは湖の中を進み始め、吸入パイプに向かって行った。それは彼らを獣の腹の中に導くものだった。

「下水仕事だ。大言壮語の計画は結局下水仕事だったってわけか」
「少なくとも潜水の仕事ではない。あんな負け犬になんかなりたくはない」
アルファ-1は振りむいて自分の小隊に面した。「私たちは今MTFなのよ。それにならって行動しなさい」
アルファ-2と-3は、マスクの下のどこかから彼女をにらんだ。彼女はそれを感じ取っていた。「MTFの書き起こしはいろいろ読んだけれど」そうアルファ-2は言った。彼は鼻を鳴らした。「その半分は全くと言っていいほどプロフェッショナルじゃなかったね」
「それが緊張の緩和に役立つわけだ」アルファ-3が付け加えた。彼は周りを囲む湿った洞窟の壁を手振りで示した。「このトンネルは全くもって薄気味悪い。だから実のところ下水に期待しているわけなんだが」
5名のカオスの反乱兵は押し進んだ。「あんたたちには最善を尽くしてもらう必要があるわ」アルファ-1は溜息を吐いた。「全員よ。このトンネルは43の直下に続いている。チェーンギャングと機械オタクどもとデートしたでしょう」
アルファ-2は彼女の溜息をまねた。「どうしてアイツらが必要だったんだ?」
「計画に含まれているわ」
「計画には宗教的な友人がしくじることも入っているのか?」
「計画には全てが入っているわ。私たちはステップに従い、任務を成すまでよ」
少しの間、洞窟にはきらめく石からの絶えないしたたりしか音はなかった。
そして、アルファ-3は言った。「汚らわしいところにステップしないことを願う」
うなり声。

ブラッドベリは車を走らせた。「ソコルスキーから道路のリストは貰ったの?」
ブランクはPDAをチェックした。「ああ、ハイウェイ7、21、79をカバーしなければならないらしい。これを自分自身で思いついていたならよかっただとか」
ブラッドベリはサンバイザーを引き下ろした。「それでツウィストと落ち合うって……どこで?」
「ケトルポイントでだ。彼は魔法とともにペンキとはけを持ってくる。ソコルスキーいわく広告板が1時間もせずに見えるそうだ」
ブラッドベリは神経質にハンドルを調子よく叩いた。「面白くなるわね」
「それは、君は何も描いたことがないってことか」

トアオは湖床を通る道を先導していた。それが彼の存在理由だったからだ。テアンは彼を「先駆け」だと言ったが、あながち間違いではなかった。彼の役割にはこの言葉が完全にはカバーしていないニュアンスが含まれているが、彼にそれを知る必要はなかった。
「水草の底がだいぶ分厚くなっています」トアオは報告した。
それは事実だった。岩がちの表面は濁った緑に覆われた暗闇に移り変わった。そここそが、彼らの向かっている場所だった。
「しょうがない」テアンは返答した。「我々は進み続ける」彼は顔を上げた。これで100万回目とも思えた。水面から漏れる光は、今のところあまりなかった。彼らは水深500フィート以上の場所にいたのだった。
緋色のスキューバダイバーらは、1列になってゆらめく水草の中に歩み入り、水草はすぐに彼らが互いを見合うのがやっとなほどに分厚くなった。テアンは用心深く歩みを進め、感覚遮断タンクに戻りたいと願っていた。
少なくともわかるのは、この中には何もないこ-
コミュニケーター越しのゴボゴボという絶叫が、その思考をさえぎった。
「……トアオ?」
ゲアトは水をかき分け、水草を払いのけた。彼はちょうど今トアオの上にいるはずだったが……
逝ったか。
テアンはグローブを外し、水の中で円を描き始めた。こうなることは予想していた。
結局、トアオはダエーワ語で「人身御供」を意味していたのだった。
「奴らが来てるぞ」デアグが叫ぶと、テアンが作っていた泡のリングが光り始めた。

「……前言撤回。湖床を通りたい」
6名の反乱兵は、もはやあり得ないほどに高い洞窟を支配する不可能を見上げた。数千、数万……数十万平方フィートものうなる機械、蛍光色の配管、狂ったように回転するファン、おぞましく傾いたガントリーや土台、吊り下げられた金属製の階段があった。
「こんなもの、ステップ・コンピレーションにはなかったが」とアルファ-4は言った。
アルファ-1は肩からライフルを引き下ろした。「いくらかステップを追加することになるわね」
「ステップ関連のユーモアはもう出切ったと……思うんだが……」アルファ-2は、そびえたつ地下工場を見つめながら尻切れした。
「何?」アルファ-1は彼の方に歩いた。「何か見たの?」
アルファ-2は暗闇に向かって指さした。「ああ。人だ」
アルファ-1は鼻を鳴らした。「次に人を見たら撃つ。いいわね? ストラップを外しなさい。中に入るわ」
武器を手に取り、偽MTFは機械のモノリスの影に歩み入った。壁の1つの面には一連の両開き扉があり、それは明るいオレンジ色で、暗闇の中不快なほどに明朗だった。アルファ-2は突破を準備し、他は両側に群がった。
「取り立てだ!」
彼は扉を蹴破り、廊下を見渡した。そこは整然として明るく、オレンジ色の壁の中央に白いストライプが走っていた。オフィスビルだろうか?
「オールクリア」
アルファ-1は片手で彼の肩を押した。「取り立て?」
彼は肩をすくめた。
彼らが両開き扉を通って進もうとすると、廊下の奥にベージュのベストを着た禿げ頭の男性が現れた。「ああ」彼は言った。「もう今日だったのか?」
彼らの背後で扉が叩き閉まった。
「君たちは新たな助手なのだろうね」

サイト管理官アラン・J・マッキンスは自己不信に陥ったことがなかった。彼のその指先には全ての財団の知識があり、それを活用し、自身の決断が誤っていた — あまりないことだ — としても、その決断こそ当時は正しいものだったということがわかっていた。
だが、彼は今のところいくらか疑念を抱いていた。「言っているが、何かが……聞こえる」
「何が聞こえるんだ?」コンピューターの画面上のダニイル・ソコルスキーは、見た目も声も疲れ切っているようだった。「いいか、こっちは今ちょっと忙しいんだ。カナダ軍旅行団に偽装してB&Bに直進しているメカネの襲撃部隊を3部隊追跡しているし、グランドベンドのISSSの攻撃に対応するMTFを監視しているんだぞ。君がオフィスでおかしな音がするとか考えているなぞ聞きたくはない」
マッキンスは顔をしかめた。「オフィスでどういう音がするかはわかっている。20年以上このオフィスを使っているからな。大気雑音に何か……ゴリゴリと聞こえるんだ。壁から聞こえるように思う」
「君は施設の1番深い岩盤の中にいる。何かが壁から君を迎えに来る可能性は文字通りゼロだ。だが、少しでもマシに感じるなら、様子を見にGIGOを送るが」
MTF パイ-43("ゴミを入れたらゴミが出てくるGarbage In, Garbage Out")は、サイトの異常輸送チームだった。ソコルスキーは形だけの対応を申し出ていた。
マッキンスは溜息を吐いた。「いいか? 私はバックアップのオフィスに向かう。君はそこを検疫できる。準備ができたら知らせよう」
「よろしい」
彼がモニターの電源を切ると、音は突然我慢ならないほどに大きくなり、オフィスの後壁は……消えた。その場所には……
……一面にはい回る小さな茶色の子犬がいた。

「ありゃ何だ?」
車両団の運転手は、通り過ぎる広告板を1つ1つ見ていた。広告には何か引き付けるものがあった。コントラストなのか、あるいは言葉なのか、あるいはペイントローラーでとっさに書かれているように見えたことで起きていたのだろうか? 彼にはわからなかった。

43に向かっているなら

それは罠だ、信じてほしい

背を向けて逃げたほうがいい

ブロマイド・シェイブ
彼にわかったことは、今こそ家に帰るべきときだということだった。4枚目の広告板で、どのトラックのどの運転手もハンドルを左に回して来ていた道を引き返した。その誰もが、最後の看板の下にいる汗にまみれた研究員にも、その車にも、杖にもたれた老爺にも気づかなかった。

何かがおかしかった。全てがおかしかった。
テアンは、今までで最高の出来の防護牢を急造した。水中での彼の奇跡術は、陸の上とはまるで異なっていた。彼はそのことを、この任務のためだけに用意された遮断タンクの中で見つけた。水面上では、彼は司祭だった。その下では、彼は魔術師だった。
水草の中で彼を取り囲んでいた回り跳ねるものたちは、感心しているようには見えなかった。彼の牢はわずかな抵抗しか見せず、それらをほんの一瞬押しとどめるだけだった。トアオが消えたとき、テアンは気にも留めなかった。デアグが叫びながら深みに引きずりこまれたとき、彼は少しだけ心配になった。
ゲアトが、カミソリのような銅の尾によって左腕をちょん切られ、暗闇が血で満たされたときは、そう、違っていた。テアンは血を回して力強い反撃を与えることができ、獣たちを湖床の裂け目に追いやったものの、今や水中はピンク色で曇り、水草は深紅にゆらめいていた。
「中止しなければ」ゲアトは、腕のあった何もない切断面を握りながらうめいた。「ここから逃げなければ」
テアンは彼の肩をつかみ、互いのマスクを押し付けた。彼はもう片方の男とアイコンタクトをした。「お前が先駆けになれ」
彼はゲアトをくすんだ暗闇に押しやり、逃げた。

「一体ここはどこだってんだ」
「黙りなさい、アルファ-2」アルファ-1は声に恐怖がこもらないようにした。彼らは幻影を再び見ることはなく、調子よく進んでいた。おそらくは。
アルファ-2は歩みを止めた。「そりゃあ修辞的じゃないな」
アルファ-1は彼に向き直った。「私たちはサイト直下にいる。他のどこにいるというのかしら?」
アルファ-2は窓の並んだ壁を手振りで示した。「わからんが、古代の科学研究所か? 科学研究所みたいに見えるからな」
彼らの見たガラス製品や機械から判断するに、それは正しい評価だった。だが、アルファ-1は正しい評価を求めていたのではなく、求めていたのは……
……
……彼女はアルファ-5を求めていた。「ねえ。1人足りないわ。5はどこ?」
チームの残りは、身振り手振りだけで最大限に心配しているように見えた。「確かにそこにいたはずだ」アルファ-3はつぶやいた。
「あそこだ」アルファ-2は窓の1つを指さした。
ピカピカに磨かれたガラスの向こうに、禿げ頭の研究員が診察台にかがみ込んでいるのが見えた。その台は、大きな湿った白い膿の嚢で覆われていた。それは床にしたたり、しずくが落ちると床の色は変化して……止まらなかった。
アルファ-5は彼の隣に立っており、ヘルメットはどこにもなかった。2人は会話しているように見えた。研究員が話し、アルファ-5はうなずいていた。彼女の目はうつろだった。
「何なの?」アルファ-1は研究室の扉を蹴破り、中に突入した。
まもなくして、アルファ-2は扉の枠のあたりに身を乗り出して研究室を覗き込んだ。
アルファ-1は消えていた。
アルファ-2が後ずさったとき、アルファ-4は窓から眺めていた。今や研究室は完全に空になっており、壁から壁まで何もなかった。彼女はアルファ-2と視線を交わし……
……アルファ-3もいなくなっていることに気づいた。
「少し手を貸してくれないか?」
彼らは振り返り、研究員が廊下の端に立っているのを見た。アルファ-1、3、5はヘルメットを外して天井の粗雑なミートフックに吊り下げられて、研究員が彼らに話すごとにうなずいていた。彼は物音を立てなかったが、それでも彼らはうなずいていた。
アルファ-4は唾をのみ、とても明瞭に、「いや」と言った。彼女は背を向けた。
研究員は廊下の反対側に立っており、彼女の立っているほんの数インチ先で急に止まっているピンク色のスライムに腰までつかっていた。それは濃くはなく、粘性はなく、エアコンの弱風の中さざめきすらしなかった。まるで流れ出て彼女に近づくことはなく、あたかも見えない窓ガラスが阻んでいるかのようだった。
アルファ-1、2、3、5は、グローブを外してそのスライムに手を伸ばし、顔に垂らした。
彼らの顔には全く表情はなく、それは顔に容貌がなかったからだった。
「どうしてそんなことをしている?」研究員は頭をかいた。
アルファ-4は彼らから目をそらさずに、横走りで廊下を後退した。彼女が一番近い扉にたどり着こうとしたとき、今までそこになかったパイプが彼女の頭を強く打ち、彼女は床に崩れ落ちた。
「メモを取っておこう」と研究員は言った。

サイト-43身元調査・技術暗号セクション長のエイリーン・ヴェイクサールは、目の前のプリントアウトを見つめた。
ヴィヴィアン、
君の送った素材を処理した。とても柔軟性があった。
- ウィン
「これは一体どういうことなの」

「これはキレちゃうでしょ。コロンボのファーストネームは何?」
フィルは靴下をはいた足をアメリアの足に向けて揺らした。2人は共用宿舎のカウチの反対の端に座っていた。「彼にはそんなものはない」
彼女はニヤリとして、カードを裏返した。「不正解!」
「不正解なわけがない」フィルは前かがみになってカードを取り上げようとしたが、なぜか腕が足より長くないことを忘れていた。「渡してほしい」
「お前は人生を無駄にしている、フィリップ」ダグは扉近くの鏡から言った。
「僕たちは最高の生活をしてるんだ、本当にありがとう」フィルはひじ掛けに戻った。「オーケイ、『フランク』だとか言うんだろ? でたらめだ」
彼女は頭を振った。「これいわく、『フィリップ』だって。嘘じゃない」
彼はあんぐりとした。「何だって? おかしい。どういうことだ?」
コーヒーテーブルに積まれた2人のタブレットが一緒に鳴った。アメリアはトリビアル・パスートのカードをデッキに戻し、自身のタブレットを拾い上げた。「ソコルスキーからだ」彼女は画面をタップした。


実のところ、出向いているのなら

深い痛みに進むことになる

おそらく回れ右すべきだろう

ブロマイド・シェイブ
「こんなこと……ばかげている……」ブランクは息を切らして、広告板の後ろにもたれかかっていた。
「でもうまく行ってるわ!」ブラッドベリは彼に水のボトルを渡し、彼はキャップをひっかいた。
ティロ・ツウィスト、文筆家シュリフトステラー、言葉の魔術師は広告板のまわりを歩いて2人の中に入った。「終わりやしたぜ」彼はブランクの脚を杖で小突いた。「妙案でしたな。あの不正選挙に手を貸して以来一番面白かったですぜ」
ブラッドベリは目を見張った。「何ですって?」
「ああ、まだ機密解除されていないんですかい? 数か月ほど待ちなされ」
彼らはともに、3台のメカナイト兵士を乗せた盗まれた国防総省のトラックの最後の1台が、未舗装の路肩をガタガタ走って湖から遠ざかっていくのを見ていた。
彼らはヘリコプターの音を聞きもらしかけた。運よく、そのヘリコプターはツウィストが2人から離れる前にブランクの手を握っていたのを見ていなかった。

「奴らは上級職員を全員取り押さえている、アメリア。どこか安全な場所に逃げろ。今すぐにだ」ソコルスキーが廊下を走る音が聞こえ、軽く悪態をついていた。
「どうやって侵入してきたんです?」
「子犬だ」
「何て?」
「子犬だ。雑食性の子犬だ。後で伝える。どこに隠れるつもりだ?」
「私たちはもうフィルの宿舎にいます。絶対に見つかられないでしょう」
「了解。あー、私は地下トンネルに向かっている。気を付けていろ」
彼はPDAを2つに折り、研究室の隠された避難場所に向かった。 そして人は「偏執的」を侮蔑で使うのだろう。

ヘリコプターが離れていったとき、ブランクはツウィストが地上に立って「私はここにいない」と書かれた棒付きの看板を持っているさまを決して忘れることはないと思った。彼は溜息を吐いた。彼らの捕縛者は、明らかにサイト-19から奪われた財団輸送機を使っていた。彼らは徽章のない攻撃用制服を着ていたが、言葉の端々に使われる「主」から判断するに、彼らはバウと関係のある奇妙な緋色の王信者の分派だった。
ブランクとブラッドベリはヘリの後部にいた。そこには2人とともに1人の信者がおり、深刻な判断ミスを表していた。
守衛は、開いた扉から外を見てニヤリとした。「地上班はすでに突入した。サイトが見えるぞ。じきに降伏する」
「勝手にしやがれ」ブランクは言った。守衛は向きを変え、ツウィストが手にしていた名刺business cardの先端business endを直視した。

ジャンプしたほうがいい
守衛はピクリと動き、ヘリコプターの扉に歩いて行った。ブラッドベリが彼から警棒を取り除いてから、彼はヘリから足を踏み出して数十メートル下の林冠に落ちていった。
「本当に低空になるまで待ったのね」彼女は、彼が枝にぶつかるのを見てそう言った。
「ティロは平和主義者だ」ブランクは、彼が林床に落ちるまでに全ての枝にぶつかるのをいくらか満足して見ていた。「私もそうだ。たいていはな」

カエスは死んだ。
トアオは死んだ。ゲアトは死んだ。デアグは死んだ。彼らは全員逝き、地獄で古代のダエーワに合流した。テアンだけが生き残り、少しの間彼は実は切り抜けられるのかもしれないと考えていた。水中の汀線は徐々に上昇し、彼の想像しうる限りの防護牢が光と色がぼやけながら彼のまわりを囲んでいた。
なぜだ、 彼は考えた。 どうして? 奴らか? 湖なのか? どうやって我々の魔法を……
もちろん、その通りだった。それが問題だった。 ネクサスだ。ゲニウス・ロキだ。ここで本当に働く魔法は……奴らのものだけだ。 彼は、任務が始まる前に誰かがこのことに気づいていればと願った。突然、彼は非常に多くのことを願った。
計り知れないほどに大きな蛇様の姿が、青みがかった暗闇から這い出て、彼を一飲みで食べた。

アメリアは注意深く扉を閉めた。「奴らが向こうにいる、よし」
「彼らはお前を求めて来ている」
フィルは、どうにかなるかもと思って鏡にいるダグの口の裂け目を手で覆った。「どうするつもりなんだ?」
「思ってるのは、気違いみたいに叫びながら奴らに向かって走っていって、蹴ったり腕を回したりしてブーツと爪でおおむねできる限りダメージを与えようって」
フィルはうなずいた。「それは……うん。ええと、君には爪なんてないけど」
彼女は彼をにらんだ。「昔神経質だったの、知ってるでしょう」
彼は再びうなずいた。「君は今神経質になってるはずだ」
アメリアのタブレットが鳴り、彼女はタップした。「ダニイル?」
ソコルスキーの顔には血の線が走り、彼も走っていた。彼女には過ぎ去る頭上の照明がブウンと鳴っているのが聞こえた。彼はハブ翼にいるように見えた。「奴らは……ブランクとブラッドベリを……連れてきた」彼は息を切らしていた。「私は……エレベーターに……向かう」
「それで、なぜ私に伝えるんです?」
「それは……後ろに……反乱兵の……分隊が……ついているからだ。そいつらを……君の……すぐそばに……連れてきて……しまった」
フィルは身を乗り出した。「何をするなって?」
「そこの……扉を……開けるな!」

「そんなに強く殴る必要はあったのか?」
ブラッドベリは、警棒に付いた血をズボンで拭った。「あなたがそうしてほしいか尋ねたのだけれど」
2人は地上エレベーターに向かい、ヘリコプターのローターは後ろで回転を緩めていった。扉は2人がたどり着く前にスライドして開き、ローブに身を包んだ3人の男がヘリパッドに歩いて行った。
そこにいた5人は少しの間視線を交わし、信者たちは空中で腕を揺らし始めた。
ガツン。ブラッドベリは最初の男の頭に棒を振り下ろし、彼はどさりと崩れた。2人目の男は彼女を指さして古代の暴力的な言葉を言ったが、彼女が彼の首をとても強く打ち、ブランクは腱が切れるのを聞いたように思えた。3人目の男は手のひらを彼女に向けて押し出し、あたかも波動拳を出そうとしているかのようだった。彼が舗装にぶつかって意識を落としたときも、まだそうしていた。
ブラッドベリのジャケットのポケットからシューという音が鳴った。彼女は小さな現実錨を取り出し、溜息を吐いた。「よくやったわ、相棒」

アメリアは、タブレットで場面が展開しているのを見ていた。ソコルスキーはいまだに放送していたが、彼はタブレットを床に落としていて、彼が両手を空中に挙げたとき彼女は彼を見上げていた。彼はエレベーターの前に立っており、エレベーターはノイズを発していた。
「ブランクとブラッドベリのはず」彼女はつぶやいた。
「彼女はお前を愛している、フィリップ」ダグは言った。
フィルは鏡を見てから、アメリアを見た。
「よろしい、ドクター」耳障りな声がタブレットから鳴り響いた。「我々は君たちをカバーし、上級職員を全員捕らえた。2人以外はな」
エレベーターの扉が開き、ブランクとブラッドベリをあらわにした。2人は驚いているように見えた。
耳障りな声が笑った。「1人以外だ。その1人は。トロシヤンだ。彼女がこの翼にいることは知っている。部屋番号を教えろ。さもなくば1部屋ずつ撃っていく」
「畜生どもめ」アメリアは言った。「あんなのは—」
彼女はすぐそばで扉が開くのを聞き、フィルは廊下に歩み出していた。

メリッサ・ブラッドベリは、18年間眼鏡のレンズの裏の不気味な醜悪の景色を、彼女の理性が理解することのできなかった恐ろしき無限の深度の幾何学を覚えていた。このせいで彼女は財団から追いやられdriven、狂気に駆り立てられdrivenかけた。
これからの数瞬の出来事は、彼女の考え方を途方もないほどに再編成させる魔法となった。
「アメリアが欲しいのか?」フィリップ・E・ディアリング、SCP-5056-Bは角のあたりから現れた。7名の武装した反乱兵は彼にライフルを向けた。「お前らは僕を通っていかなきゃならない」彼は震えていた。
「フィル—」アメリア・トロシヤンは、視線を投げかけて手を伸ばしながら、大きな碧眼に筆舌に尽くしがたい恐怖の表情を表し始めた。
「奴を通っていけ」エージェントのリーダーは怒鳴り、そして舌をかみちぎった。
彼がいまだに血を吐いて叫び、天井のタイルに向かって撃っていると、彼の隣の男が言葉にならない悲鳴を上げ、声を枯らして失神した。3人目の男はエレベーターを見ていたが、ブラッドベリが実際にミラーモンスターがその目に現れているところを見て — おぞましい灰色の頭はいまだにディアリングを見つめていた — 2人はともに少しの間目を見張った。彼は急ブレーキをかけた一式のタイヤのように絶叫し、倒れた。
10秒も満たない間に、7名の反乱兵は全員床に倒れ、泣き叫ぶか、身もだえするか、意識を失っていた。
フィルは、永遠とも思えるほど息を吐いていた。「ありがとう、ダ—」
アメリアは彼をとても強くひっぱたき、彼は倒れかけた。倒れかけただけだった。それは、彼女が彼をつかんで彼が青くなりそうなほど力強くキスしたからだった。

「本当に準備はいいのか、メリッサ?」アラン・マッキンスは、休憩室の扉の枠の上をつかんで筋肉を伸ばしていた。彼はクローゼットに3時間閉じ込められ、その間GIGOが彼のオフィスから子犬を取り除いて破られた壁を封鎖していたのだった。
ブラッドベリはうなずいた。「私のPhDが失効していないと思うなら、新たに心理鑑定をしたいのですけれど」
ソコルスキーは、悪意のまなざしで自販機を蹴りながら不平を漏らした。「B&Bの委員会が再始動するってことか?」彼は取り出し口からソーダ缶を回収した。「何のことなん—」
ブランクが軽い足取りで部屋に現れた。「カラープリンターを使えるのは好きだ」
ブラッドベリは眉を上げた。「どうしてここに?」
「I&Tがサイト-19からこいつを傍受したんだ」彼は言いながら、4本の画鋲で赤みがかったプリントアウトを掲示板に張り付けた。彼は白衣を後ろにはためかせて親指をベルトに突っ込み、ニヤリとしていた。ブラッドベリとマッキンスは歩いて見に行った。
サイト-19財団排除連合中央司令部より通達

定義の不明な疑わしい目標に対する、直近のマンパワー・資源の極端な浪費を踏まえ、財団排除連合および構成団体の全人員は、SCP財団ヒューロン湖研究収容施設(サイト-43)に対する作戦を即座に中止することになった。
カナダに価値がないだけだ。
— ジョージ・バウ将軍、マスター ジョン・イトリック、最高司祭ロバート・ブマロ、FEC
マッキンスは笑った。2人とも彼がそうしているのを以前に聞いたことがなかった。ソコルスキーはニヤリとした。それは目新しいことではなかった。
ブラッドベリはブランクに1杯のコーヒーを手渡し、彼は空いた手で彼女の腰に手を回した。彼は、4人がプリントアウトを眺めている間満足げにコーヒーをすすっていた。彼女は彼の肩に頭をもたれかけ、ささやいた。「私たちは絶対、絶対にそれについては言わないわ」
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