6月14日
梅雨が来た。
日記には今朝のニュースを一つ、急ぎ足で書いた。
雨の中車を走らせ、仕事場に向かう。午前9時、人の居ない第5低危険物品収容ロッカーは心なしか湿り、肌はどうにも嫌な感覚に包まれた。
ふと、後ろを振り向くと同僚がいた。暑いからなのか、首元に脂汗が滲む。同僚はこちらを向いて会釈をし、私は応じた。面識はあるが、仲の良い訳では無い只の同僚。そんな微妙な関係を彼とは保っていた。
蒸し暑いですね。そう彼は漏らす。空調はまだ動かぬままだった。湿度は気温を呼び、混じり合う。彼は少し癖のある髪の毛を横に流し、こちらへ視線を向けた。彼の瞳はわずかに茶色く光る。私は彼の瞳を見る度に吸い込まれてしまうように感じた。
梅雨入りしましたね。明けは7月の10日だとか。そんな当たり障りのない話題は直ぐに頭に浮かび、口を出ていった。
私は梅雨が好きではなかった。雨は心身が落ち着いて良いのだが、それが続くとその限りでは無い。雨は稀に降るから良いと私は思う。
そうなんですね。エアコン、早くつくと良いんですが。彼は上のエアコンを見た後、再び視線をこちらへと向ける。先程と変わらぬ光景は重い空気に押し潰され、目の光は薄くなっていた。
その後は話すこともなく、それぞれが淡々とアノマリーの確認を行っていく。一つ一つ確認し、手元のタブレットでチェックを行う。それは彼も同じだった。最初は湿度で集中できなかったが、いつしかそんなことは忘れていた。
凡そ同じ頃に確認を終え、無言で彼と共に部屋を出る。彼の後ろ姿は汗でほんの僅かに濡れていた。共に建物の端にある管理室に入り、椅子に座る。タブレットを彼から受け取り、確認内容をパソコンにタイプする。彼は立ったまま鞄からペットボトルを取り出し、幾らか飲んだ。
埃が部屋を舞い、気づけば空調が動き出していた。ひんやりとした乾いた空気をエアコンが吐き出す。彼は照明に照らされた髪の毛を僅かに揺らした。
彼の事は好きではなかった。彼は静かで落ち着くが、どうもずっといると居心地が悪い。どうにも彼とは長く強い関係を築けそうに無かった。それでも彼とは同僚であり、同じ意志を共有した仲間である。そこは揺るがないだろう。
タイプが完了した。午後からはアノマリーの搬入、収容だ。外は変わらず雨で、締まりの無い雨音を垂れ流していた。
珍しく彼から購買へ行こうと誘われた。誘うことも誘われることもあったが、それは偶にだった。私は弁当を持ってきておらず、是非と言って誘いを受けた。
私はパン。彼は天津飯を買って部屋に戻った。彼は天津飯をレンジで温めながら、虚無を見つめていた。まるで雨の音に沈んでしまう様に。そんな彼を見て食べるパンは、心なしかいつもより美味しかった。
7月10日
梅雨よ、来い。